アメリカ、ナパ・ヴァレー。大自然に囲まれた「ケンゾー エステイト」。至高のワインが生み出される秘密は、ここに来てこそ理解る。

12年の歳月の果てに

カリフォルニアの中でも数多くの銘醸カベルネ・ソーヴィニヨンを生み出す土地、ナパ・ヴァレー。その東側の山間に、日本人起業家、辻本憲三さんが設立した「ケンゾー エステイト」がある。

ナパのダウンタウンからつづら折れの坂道を駆け上がると、やがて現れるケンゾー エステイトのエントランスゲート。しかし、そこをくぐり抜けても、ワイナリーの姿は一向に見えない。緑の木立に囲まれた細い道をさらに2kmばかりドライヴし、初めてブドウ畑とテイスティング棟が目の前に現れるのだ。

敷地面積470万坪。中野区がすっぽり収まるほどの広さはけっして伊達ではなかった。

畑からワイナリーを眺める。ナパでも最南端の山の上、ワイルドホース・ヴァレーに位置し、ブドウ畑は約60ha

広大な敷地は、ところどころがゲートによって区切られている


ワイナリーは費用と同時に時間のかかる事業である。辻本さんがこの土地に初めてブドウの樹を植えたのは1998年だが、テイスティング棟が完成してグランドオープンを迎えたのは2010年。じつに12年もの歳月が流れていた。

なぜこれほどの時間が必要だったのか? それはひとえに、辻本さんが一切の妥協を許さない、完璧主義者だからにほかならない。

土を掘り返し、ブドウを植え直せ

最初に植えたブドウは3年目に初めて実を結び、ワインの醸造が試みられた。ところが、このワインは世に出ることはなく、お蔵入りとされてしまう。

ダッラ・ヴァレのマヤやコルギン、ハーラン・エステイトなど、ナパ屈指のワインを目指す辻本さんにとって、このワインは納得できる品質からほど遠かった。

そしてこの年、まさにコルギンやハーランの誕生に携わったカリフォルニア随一のブドウ栽培家、デイビッド・アブリューさんの知己を得た辻本さんは、彼にプロジェクトへの参加を懇願する。

ケンゾーエステイトの土地のポテンシャルを高く評価したデイビッドさんだが、チームに加わるにあたり、彼はひとつの、しかし、とてつもない条件を辻本さんに提示したのだ。

「現在の畑の土を掘り返して、ブドウを一本残らず引き抜き、ゼロから植え直すこと」

これがワイナリー経営者にとって、いかに厳しい条件か想像がつくだろうか?

すべて改植となれば費用が嵩むばかりでなく、また3年以上収入の得られない期間が続くのである。

夢の実現に辻本さんはこの条件を呑み、2002年からブドウの植え替えをスタート。そしてその翌年、スクリーミング・イーグルやマヤなど数々のカルトワインを手がけた「ワインの女神」、ハイディ・バレットさんをワインメーカーに迎え入れ、カリフォルニア最高のワインを生み出すお膳立ては整った。

デイビッド・アブリュー
『コルギン』『ブライアント・ファミリー』『ハーラン・エステイト』など、数多くのカルトワインを生んだ葡萄を管理してきた天才的な栽培家。自身もワイナリーを持つ

ハイディ・バレット
ワインづくりの女神という異名を持つカリスマ的な女性醸造家。 『マヤ』や『スクリーミングイーグル』でパーカーポイント100点満点を獲得。 数多くの名品を手掛けている


2005年に改植後初の収穫。「紫鈴 rindo」「紫 murasaki」「藍 ai」という3種の赤ワインがお目見えしたのは、2008年のことである。

今日、ケンゾー エステイトには、高級車で乗り付ける世界中のワインラヴァーが、引きも切らない。ワイナリーツアーは3コース。4種類のワインを各30ミリリットル試飲できるコースにはじまり、各60ミリリットルの試飲に、ブドウ畑、醸造所、ケイブを見学するコース。さらに三つ星シェフ、トーマス・ケラーが経営する「ブション」のサンドウィッチでランチを愉しむコースもある。

ではこれから、ひとりの男の夢が結実したワイナリーをツアーしてみよう。

この記事を書いた人

WINE-WHAT!? 編集部
WINE-WHAT!? 編集部
9月号(通巻18号)では、白ワインに注目! そもそも白ワインって? 三大品種シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリングの基礎から、いまどき大討論会、石田博ソムリエによるペアリング提案まで、この夏、飲みたい白ワインを総ざらい。
そして、夏から秋にかけてのワイン旅も提案。ポルトガル現地取材、急成長中の北海道ワイナリーのいまとWINE-WHAT!?ならではのツアー情報、ワインを堪能できる宿「THE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS 仙石原」へは、ベントレーで訪れ、カリフォルニアでは、ケンゾー エステイトに行ってきました。