さる9月4日(月)、恒例の「オーストラリアワイン グランドテイスティング2017」が東京六本木のグランドハイアット東京2Fで開かれた。オーストラリア大使館商務部とワインオーストラリア(オーストリアのワイン業界を監督・支援する同国連邦政府の行政機関)の共同開催で、毎年9月、業界関係者向けに開催されている。今年は、インポーター26社、未輸入ワイナリー14社が参加、300種超のオーストラリアワインが集められ、会場は大盛況に終わった。
ここでは、オーストラリアのワインジャーナリスト、マイク・ベニー氏と、日本在住日本人初のマスター・オブ・ワイン、大橋健一MWによるセミナー「オールドスクール、ニュースクール、グッドスクール」の講義内容をご紹介する。だって、とっても面白かったから。

マイク・ベニー



大橋健一MW(以後、大橋)「みなさん、おはようございます。大橋でございます。今日は、ワインオーストラリアのプロモーションの一環として、本国からマイク・ベニー氏を(主催者に)招聘していただいたわけです。今日はマイク・ベニー氏の意見を中心に、今のオーストラリアワインと昔のオーストラリアワインのコンパリソン(比較)を楽しんでいただくという趣向です。

まず私の隣に座っているマイク・ベニーさんを皆さんに紹介させていただきたいと思います。

私がオーストラリアワインを勉強し始めた頃は、ジェームズ・ハリディさんという有名なジャーナリストの全盛期でありまして、そのジェームズ・ハリディさんからも多くのことを教えていただきましたけれど、今、オーストラリアの代名詞のような、日本は5回目だと言ってましたけれども、マイク・ベニーさんをここに連れてきて、皆様の前で彼の意見をデモンストレーションしていただきます。ということが皆様におかれましてはオーストラリアが昔のままのオーストラリアではない、講師の先生自体、昔とは違っているんですよということを知っていただくためにマイク・ベニー氏を起用させていただいているわけです。

私ごとで恐縮ですが、今年の1月末から2月の頭にかけて、ニュージーランドのシンポジウムに招聘された時に、非常にスリリングな思いをしました。650人ぐらいの世界中のジャーナリストの前で、レクチャラーの一人としてお話ししなければならなかった。

私の右隣が、有名なジャンシス・ロビンソンMWでした。その隣でお話をするというのは非常に緊張する。その隣には、ニュージーランドのトップ生産者である“ベル・ヒル”のマルセル・ギーセンさんで、ギーセンさんの隣でお話するということは、フランスでいえば“ロマネ・コンティ”の方の隣でお話をするようなことなんで一番緊張したんですが、私が一番気を使ったのは、実は、隣にいるマイクだったんですね。

マイクはなんせ、いい意味でコンシューマーに非常に正直に意見を言うことで世界中に知られていまして、世界中のありとあらゆる国のトップジャーナリストや生産者が、オーストラリアに行った時に今コンタクトをとるのはマイク・ベニーさんになっています。

ということで、ジャンシス・ロビンソンさんがオーストラリアに行った時に同行しているのは必ずマイクです。NYタイムズのエリック・アシモフさんであっても、(フランスで唯一の女性マスター・オブ・ワインの)イザベル・レジュロンMWであっても、頼りするのはマイクというスタンスなので、そのマイクをお呼びして、今、我々が新たに身につけなければならない見識をデモンストレーションしていただく機会を皆さまに、ということを主催者にサジェスチョンさせていただいた次第になります。それじゃ私の話が長くてもしようがないので、マイクから今日のオーストラリアワインのお話を説明させていただきたいと思います」



新しいフレームワーク

マイク・ベニー(以後マイク)「サンキューベリーマッチ(大橋MWをハグする)。もう結婚したいぐらいです。光栄な言葉をいただきました。私よりも、ケンほどワインの世界で重要な人物は世界中でいません。また今日はたくさんのワイン業界の皆様の前でお話させていただけることを心より光栄に思っています。ありがとうございます。

本日のワインテイスティングは、とてもコンセプチュアルです。それぞれのフライトは2グラスで比較しながらテイストしていただくのですが、それぞれにテーマがありまして、それをワインを通じて感じていただく、そんなセミナーにしたいと思います。コンセプトは、「オールドスクール、ニュースクール、グッドスクール」です。


時にはオーストラリアワインをより踏み込んで複雑に表現することも必要かもしれません。オーストラリアは世界中でも最も多様性に満ち溢れたワイン産国だからです。60のワイン産地がありますが、それぞれの産地、つくり手に個性が見られます。多様性にあふれた産地なので、大きな成功を収めた生産者もいれば、まだ成功に届いていない生産者もいます。しばらく厳しい時代も過ごしてきました。

それまでオーストラリアは一方向に向いた固定観念に縛られていたように思います。私も、告白します。この10年ぐらいの間にオーストラリアワインを飲まない時期がありました。なぜなら、オーストラリアワインはあまり面白くない。私の興味はヨーロッパのワインを飲むこと、そしてそれを発見することだったのです。

10年、様々なヨーロッパのワインを飲んでいる間は、オーストラリアワインは同じ味しかしないと思っていました。たとえばロバート・パーカーが高得点をつけるような、同じ方向を向いている、と。本日のセミナーにおいては、新しいオーストラリアワインの見方を持って帰っていただきたいと思います。ただ、未来というのは過去を振り返らずしては形成できません。最近の新しいオーストラリアワインのつくり手がとっているアプローチは先先代と変わらないんですね。そういった古い、古典的なオーストラリワインづくりは今のモダンなワインづくりと比較した時に非常に面白いものが見えてきます。

40年前を振り返って見て、ま、170年前を振り返る必要はないかもしれません、新しい世代にとって、新しいフレームワークは非常に重要です。低いアルコール度数、より果実のフレッシュさを感じる、ストラクチャーのある、あるいは冷涼な気候、冷涼な気候に限らず、暖かい気候のところでつくられるワインも重要です。



より軽やかで明るく

オーストラリアワインの文化を築いていくにあたって、科学的なアプローチと教育が重要な基盤となります。ひとつの概念にこだわることはオーストラリアの多様性というアイデンティティを失うきっかけになったかもしれません。今、私たちが生きていることは、“バナキュラー(その土地固有の)”という言葉で表現できると思います。

オーストラリアのフードカルチャーは、東南アジアや地中海沿岸からの影響を受けている。我われのキッチンには、タイ、べトナム、中国、日本、イタリア、スペインといった様々な国のエッセンスが見られます。私たちは屋外で食事をするのが大好きで、1年のうちの9カ月は燦々と太陽が照りつける暑い日が続きます。時には、昼前から食事をしたり、ワインを飲んだりすることがあります。こういったオーストラリアの文化的な言語がある一方で、オーストラリアワインの唯一の典型的なイメージは、ビッグで、フルフレイバード(香りムンムン)、アルコホリックな赤ワイン、ということになるかもしれません。

「オーストラリアワイン グランドテイスティング 2017」のパンフレット

新世代のオーストラリアのワインメーカーたちは何をしようとしているかというと、こういった私たちの日常のライフスタイルに寄り添ったワインをつくろうとしているのです。これまでは力強くて、凝縮感があるワインをつくってきたのに対して、新世代はより軽やかで明るさがあって、時には冷涼な産地で、ナチュラルワインやオレンジワイン、あるいはパンチのあるテクスチャーや、口の中で広がるようなもの、それらをたくさん飲むというように変わってきています。

先ほど10年ほどオーストラリアワインを飲まなかったと言いましたが、Uターンして戻ってきました。私は現在では自国のワインを非常に興味深く思っていまして、とてもたくさん飲んでいます。

あらためて私は告白します。私は本当にエネルギーに満ち溢れた、多様性のあるオーストラリアワインを楽しんでおります。

ですから、それをシェアしたいと思います。オーストラリアは、ワインづくりにおいて自由なワインづくりができる。今はその自由を最も楽しんでいると思います。オーストラリアワインは色々なテーマを開発してきました。たとえば、世界中で最も古い樹齢畑が存在します。なんでも受け入れる多様性を持っています。そういった“多様性がある国”というレンズを通してオーストラリアワインを見た時に、今が最高に面白い時代だと思います。

そういったコンセプトを、これからテイスティングしていただく10種類のワインから感じていただきたい。この10種類のワイン、いずれにしても、これらのワインが非常に品質が高いということは、テイスティングを通して、皆様、気づいていただけると思います。では、これまでのオーストラリアワインについて、ケンにも聞いてみたいと思います」



劇的な変化

大橋「今、マイクは非常に含蓄のあることを言っておりまして、私がマスター・オブ・ワインの受験の時に、アメリカ、イギリス、オーストラリアのうち、どこかの国を試験地として選ぶことができたんです。正直オーストラリアが一番ストレスフリーだなと感じました。いつも空が晴れていて、のんびりリラックスできる。

行ったついでに勉強してきちゃおう、ということもあって、オーストラリアを選びました。彼(マイク)が10年ぐらい飲まなかった、多様性を失ったからだといってました。これはオーストラリアの人々が多様性を失ったというよりも、オーストラリアはGI(Geographical Indications)は制定されているけれども、そこに厳しい法律がなく、自由度が広い。伝統国の場合はAOC(原産地統制呼称)で非常に細かく法律で規定されていることが多い。イコール、法律によって多様性が確保された国なんですね。それに比べるとオーストラリアは自由度が高い。消費者ニーズに合わせて臨機応変に動くことができる国、ということで、たとえば今から50年前ですと、オーストラリアは70%以上がフォーティファイド(fortified wine=酒精強化)ワインという産地でした。今、統計データを見ると、フォーティファイドワインは2%ぐらいしかない。

たとえば、フランスとかスペインでこういうことが起きるか、という劇的な変化をオーストラリアは半世紀のうちに行ってきている産地なんです。しかも、スーパーマーケットでの販売が強いので、消費者のニーズに合わせないと産業が立ちいかなくなるわけです。

そういうことを考えて、1本あたりの、たとえば、ボトリングコストをいかに安く抑えるか、ということが、オーストラリアのトップ生産者たちのテーマになっている。たとえばペンフォールドを有するトレジャリー・ワイン・エステーツさんと、たとえばアコレード・ワインズさんが、お互いの、イギリスであったりオーストラリアであったりでボトリングプラントをシェアしながら、一番ライバル同士が消費者のためにコストを下げようとしている。これ、日本じゃ普通ありえないですよね。そんなことまでが行われちゃっている生産国であるということですね。

そんな中でフランスとかイタリアに本当に追いつき追い越せというパワーのもとに、今、世界では第4位の輸出王国になっています。これも消費者ニーズを捉えた結果として各国での進出を成功させている。ある意味AOCで縛られている国以上に、消費者の嗜好、食の嗜好によってドラマチックに変わる。臨機応変に対応することができる国です。ですから、我われはオーストラリアみたいに変わり身の早いワインをもっと勉強しないと、消費者の本当のニーズに乗り遅れちゃう可能性が高い。

そういう意味で、マイクからじっくり学んでいただく機会を設けさせていただいた次第です」

マイク「ワンダフル。ケンは僕より、もっとパッションがある。さて、ワインを見て行きましょう。本日は2つのワインで1フライトが5フライト用意しています。オールドスクールのワインプロデューサーとアヴァンギャルド。ワインを通じてこれらを伝えていきたい」

ということで、マイク・ベニー氏がこのセミナーで用意した5フライト、10種類のワインは次のようなものだった。(その2につづく)

この記事を書いた人

WINE-WHAT!? 編集部
WINE-WHAT!? 編集部
2017年11月号(通巻19号)ただいま発売中!
巻頭特集は、お好み焼きに合うワインを徹底研究。4人の料理人による創作お好み焼きにタベアルキストのマッキー牧元さんも唸りっぱなし。
柳 忠之さんの「新オーストラリアワイン紀行」、11月16日解禁「ボジョレー・ヌーヴォー」にも注目!
表紙の美女は女優・飛鳥凛さんです。もうお腹いっぱいだけど、おかわりしちゃおうかな〜。すいません、もう1冊ください!