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ワインナビゲーター岩瀬大二のチリワイン再発見の旅

「オーガニック」「クールクライメイト」「セパージュ」「ツーリズム」の4つのキーワードでつづる

KEYWORDその4 ツーリズム〜土地の栄養をいただく〜

駅のコンコースのような「ヴェラモンテ」のテイスティングルーム&ブティック。カリフォルニアのスタイリッシュさを参考にしているのだとか。

ガイドブックをめくると大きく扱われているのは、遥か3700km離れたイースター島。

「南米に観光に行く」といっても、チリを目的地に選ぶ人はあまりいないだろう。実は見どころは多い……という話はあるのだけど、このテキストをここまで読んでいただいている方にまず伝えたい。ワインを求めて行くチリは格別だ、ということを。

オーガニック、クールクライメイトにセパージュに対する探究心。

とくると、ワイン道の求道者というイメージも浮かぶが、チリの人々は「求道者」とは真逆だ。オープンマインドでフレンドリー。良いワインを造っているワイナリーは、ワインツーリズムにも大いに力と真心を注いでいる。

「ラポストール」のテイスティングルーム。テーブルを開けると地下に幻想的なセラー。ニューヨークのヒップなレストランを思わせる仕掛け。

造ったワインを多くの人に知ってもらいたい。その素直な気持ちが伝わってくる、素朴だが居心地の良いテイスティングルーム、世界においても最先端なデザインホテル、世界的ラグジュアリーブランドの名を冠したコテージ、素朴で伝統的な料理を楽しめるレストランに、人気シェフを招聘した話題のレストラン……。

ワインビジネスで成功して少しずつ施設を充実させてきたワイナリーもあれば、逆に観光業で成功しワイナリーを立ち上げたところもある。ワイン造りとツーリズムを両輪として成功したところもあり、いずれにしても、一体であることが自然体だと感じた。

昼、太陽のもとでじっくりと畑や醸造所を歩き、各ワイナリーの個性が光るテイスティングルームでその恵みを味わう。

宿に入り荷をほどき一休み。夕景の畑を眺めたらスマートカジュアルな装いに着替えてレストランへ。モダンスタイルでも伝統的でも、どちらでも楽しいセビーチェやエンパナーダからはじめよう。これから世界へと出ていくであろうスパークリングワインや、ドライさが心地よいマスカット・オブ・アレキサンドリアあたりもいいし、定番的な組み合わせのソーヴィニヨン・ブランもやっぱり心地よい。

続いて、寒流で身の締った充実のシーフード、いきいきと大地の力を感じられる野菜たちに牛肉もうまい。疲れた心と体を癒してくれると同時に明日へのエネルギーにもなる。シャルドネからピノ・ノワールやカリニャン、白、ロゼ、赤と進んでいこう。

翌朝、窓を開ければ、昨日の火照った心と体を、冷涼な空気がすーっとクールダウンしてくれ、元気な1日へと誘ってくれる。

そう、ワイナリーを巡る旅は、自分がこの地の健やかなブドウになったような、幸せな一体感を味わえる旅。その身に太陽と風と空気を受け、たっぷりと土地の「栄養」をいただこう。

ワイナリー併設ではないが太平洋岸のホテルは素敵なプチ・リゾート。ロビーフロアで、海を見ながら暖炉にあたり、よく冷えた白ワインを飲む。幸せな夕刻。

 ワイナリー併設のブティックはモダンなところが多い。「サンタエマ」にて。

テーマパーク〜ヴィニャ・サンタクルス〜

イースター島の名所である「タハイ儀式村」と同じタイプのモアイ。青空に映える。

ロープウェイがあるワイナリー。ここからのパノラマビューは圧巻。

ワインからのスタートではなく、まずチリの歴史を現代まで辿る博物館を設立。その後その博物館にホテルを併設。この成功によってワイナリーを設立したというのがサンタクルスだ。

ワイナリーを初めからレジャーとして捉えていて、そのバックボーンに「チリの歴史と文化を伝えたい」という想いがある。

ホテルと博物館からほど近いコルチャグワ・ヴァレーに広がるワイナリーは、入った瞬間からわくわくする仕掛けが用意されている。

まずは、ショップ&テイスティングルームから見る見事なパノラマ。そこから丘の上へはロープウェイで。その丘には、彼らがルーツだと考えている南太平洋の古代文化、生活様式を忍ばせる野外モニュメントや博物館があり、ラマが出迎えてくれる。

素朴なおもてなしの一方で、天文台もある。ただのレジャー施設ではないことは、彼らのワインに現れる。

いにしえの司祭である「チャーマン」(シャーマン)、イースター島の伝承に残る「マケマケ神」といった名をワインに冠し、神々や古代文化の精神性と繋がることで改めてこの地へのリスペクトを表明する。親しみやすく、しかし、がぶ飲みではなく、微笑みながらじっくりと飲みたくなる。

時には陽気に笑いあう。その時、目を閉じれば、古代文化の祝祭の中に楽しく迷い込んだ錯覚。これがまた幸せなもう一杯を呼ぶのだ。

イースター島の神話に登場する人類創造と豊穣の神「マケマケ」を冠したワインは、集中力のち開放感。

サンタクルス家のスピリットを朗らかに語る現当主のエミリオさん。

 

芸術の中で翼を休める〜ヴィック〜

超モダンな醸造施設。水は旅人に癒しを感じてもらうとともに、施設の温度を一定に保つというワインのためのものでもある。

西に陽が傾き、斜面が少しずつ茜色に代わっていくカチャポアル・ヴァレー。開けたブドウ畑の中、車を走らせていると小高い丘の上に、長い長いスペーストラベルの間に機体を休める銀色の宇宙船を思わせる建物が見えてくる。

異様ではない。不思議に自然に溶け込み、遠くからでも癒しの空間であることが伝わってくる。

ノルウェー出身の資産家アレクサンダー・ヴィックさんが描いた「世界最高のワインを造る」という夢、いや目標のために選んだこの場所は、彼の理想郷でもある。だから必然的に、畑も醸造施設もステイも、さらにはアクティビティも、彼のセンスと物語に溢れている。

スパ、リゾートプールのあるテラスでリラックスすると人口湖へと繋がっていく。

目の前に広がるのは灌漑のための人口湖。旅人の目からは癒しのオアシス。部屋ごとに壁のペイントが変わる。部屋自体がミュージアム。

北欧的なシンプルさと都会の洗練が、チリの大地と空と空気と見事に調和し、新しい価値を生みだす空間。アレクサンダーさんの奥様がしつらえたインテリア、日本人を含むワールドワイドな建築家や芸術家が参画してクリエイトされた部屋、施設。

「La Piu Belle 2011」は解放的すぎないセクシーさ。奥ゆかしさとピュアな微笑みがかえって艶っぽい。

超モダン空間にいながらにして、野生と自然を存分に感じられる仕掛け。

ここで味わうワイン、ここで過ごす時間は、僕の数多くの旅の中でも格別のものだった。

そして素晴らしい空間は、旅人のためだけではない。

ワインにとっても幸せな環境。

現代博物館のような醸造施設は、最新鋭の機器、徹底的なクリーンアップ、神秘的なテイスティングルーム……、ワインフリークもまた訪れるべき場所だろう。

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