機内で流れる安全ビデオには、その国らしさが出ると思う。

♩France is in the air〜 という軽やかな音楽とともに、5人の美女が踊るようにシートベルトや酸素マスクの使い方を示してくれるエアフランスの映像をみたときは、さすがファッションの国フランス!と感心したが、カンタス航空のビデオをみたときも、それに似た驚きがあった。

カンタス航空のドリンクメニュー

機内でジェイコブス・クリークが飲める!

カンタス航空のビデオでは、まず、壮大な音楽とともに各地の見所が流れる。そこでは気球に乗った男性がシートベルトの使い方を指南し、酸素マスクをつけたスーパーモデルがメルボルンでのショーでキャットウォークしたりする。ほかにも携帯電話の音で逃げるカンガルーなど、キャラクターの動作にさりげなくメッセージが盛り込まれる。映画を見るように吸いこまれるうち、着陸するのが楽しみになってくるのだ。

機内で飲むのは、もちろんワインだ。エコノミーでスパークリングワインが出るのはありがたい。すかさず頼むと200mlの小瓶の「ジェイコブス・クリーク」だったので、都度おかわりを頼まなくていいのも助かった。バターがじゅわっと染みこんだ温かいパンと泡の組みあわせに思いのほか満足し、メインの照焼きチキンまで完食したら、深夜に気分が悪くなり、爆睡している隣の人を押しのけCAさんに助けを求め、もう無理、と思った瞬間、CAさんがとっさに差し出したパン籠に戻してしまった。申し訳なさに小さくなりながら介抱してもらい、人生ではじめて酸素吸入をすることになった。体温をはかり、「熱はないですね。体調が悪かったのですか?」などと心配してくれるチーフパーサーに、「スパークリングワインを満喫しすぎました」とはさすがに言えなかった。

真夏にサンタクロースがやってくる南半球

ハンター・ヴァレーを空中散歩

シドニー到着後、少しゆっくりして体調を整えたあとは、最初の取材地ハンター・ヴァレーへ向かう。

ハンター・ヴァレーの入り口、「ローワー(Lower)・ハンター」へは、シドニーから車で約2時間。ふと流れる車窓の景色をみると、シドニー郊外の閑静な住宅街の路地は、紫色の花びらで覆われていた。ジャカランダという花で、日本の桜のように、春を告げる花として愛されているという。

訪れたのは11月下旬、日本では木々が紅葉に染まるころ、オーストラリアではジャガランダの絨毯が春の終わりを告げるのだ。赤みがかった茶色い地層が両サイドに続くなか1時間半も車を走らせると、牛が草を食むのどかな風景が見えてくる。土地が広いのだろう、平屋の建物が多い。やがて、ワイナリーを示す看板と青々とした畑がぽつぽつと現れたら、そこはローワー・ハンターだ。

紫の花をつけるジャカランダの木



シドニーからアクセスもいいローワー・ハンターは、ツーリズムがさかん。都会の喧騒を離れて自然に身を浸したい観光客で賑わっている。ここで私も、安全ビデオで紹介された気球に乗ることができた。気球ツアーは大人ひとり約340豪ドルと値は張るが、せっかくなら1度は乗ってみることをオススメする。

早起きが苦手な人は、ちょっと気合が必要だ。集合は、まだ外も暗い4時半。ツアー参加者の一人は前日飲みすぎたのか、集合時間に現れなかった。ホテルから朝食会場となるピーターソンハウスへと車で向かい、コーヒーで暖をとった後は、いよいよ気球の離陸ポイントへ。あたりは徐々に明るくなってきているものの、まだ太陽は出ていないため、かなり冷える。薄いダウンジャケットしか持ってこなかったことを後悔したくらいだ。

準備が整い、ガスバーナーの火が勢いよく燃えはじめると、11人を乗せた気球はゆっくりと空へ昇っていく。360度パノラマの世界。上空からは、ハンター・ヴァレーの地形がよくわかる。畑はなだらかな山々に囲まれた平地にあり、畝が整然と列をなしている。あちらこちらに林が点在しており、高度を下げて木々に近づくと、鳥のさえずりが聞こえてきた。

地平線上に連なる山々には薄靄の雲がぼんやりとかかっている。滞在した3日間に、午前中に二度も雨が降ったのは、この雲が雨を運んできたからだろう。地上約1,100メートルに達する最高地点で写真を撮ろうと携帯を取り出して下を見ると、足がすくんだ。

気球は地上約1,100メートルまで高度をあげる



ふと太陽の光を感じると、時計は6時を示している。ぶどう畑は優しい朝日に照らされはじめる。それと同時に、またたく間に寒さはゆるんでいった。

この記事を書いた人

水上彩
水上彩
シャンパンと日本ワインを愛するライター。ワイン愛が高じて通信業界からワイン業界に転身した。最近は、毎日着物生活をめざして「きものでワイン」の日々を送っている。ワインの国際資格WSETのDiploma取得に挑戦中。

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