「美食を極めた人がたどり着くシャンパーニュ」とも言われる「ビルカール・サルモン」は、今年創業から200年を迎えた。それに先駆け、昨年11月、6代目当主のアントワン・ローラン・ビルカール氏を迎えた、プレ・セレブレーション・イベントが日本料理の「龍吟」で開かれた。当主同士で交流のある日本酒の「黒龍」も参加して。

「20世紀を代表するシャンパーニュ」

会場は、英国の専門誌から「最も旬な料飲店で採用されるシャンパーニュ」に選ばれた「ビルカール・サルモン」らしく、7年連続ミシュラン3つ星を獲得している、東京・六本木の「龍吟」。オーナーシェフの山本征治氏は、現代日本料理の旗手である。

さらに、福井の蔵元「黒龍」の代表取締役社長・水野直人氏も、このイベントに賛同して駆けつけた。

ビルカール・サルモン/アントワン・ローラン・ビルカール × 龍吟/山本征治 × 黒龍/水野直人 という異色の、美食のアンサンブルが幕を開けた。

左からビルカール・サルモン 「ブリュット・レゼルブ(Brut Réserve)」、「ブラン・ド・ブラン・グラン・クリュ(Blanc de Blancs Grand Cru)」、「ブリュット・ロゼ(Brut Rosé)」、「ブリュット・スーボワ(Brut Sous Bois)」、「キュヴェ・ニコラ・フランソワ2002 (Cuvée Nicolas François 2002)」

「ビルカール・サルモン」のトップキュヴェは、「20世紀を代表するシャンパーニュ」の1・2位を独占(編集部注:1999年にストックホルム(スウェーデン)で行われた20世紀を代表するシャンパーニュを選ぶ「ミレニアム・ブラインド・テイスティング」で、「1959 キュヴェ・ニコラ・フランソワ」が1位に、さらに「1961 ニコラ・フランソワ」が2位に輝いた)。「美食を極めた人がたどり着くシャンパーニュ」と高い評価を受けている。

創業1804年の黒龍酒造は、1975年に「大吟醸」を初めて製品化した先駆者として知られる「究極の食中酒」のひとつである。

「龍吟」山本シェフを言葉を借りれば、この3人には、「素材の恵みを素直に、鮮明に伝えるための技術と心」が共通しているという。

左からビルカール、山本、水野の各氏。

国境を越えて、その名を轟かせる3ブランドが一夜限りの祝宴を繰り広げるこの日、この時間、この場にいられる幸せをかみしめる。まさに一期一会。

6代目当主アントワン・ローラン・ビルカール氏は2年前、縁あって「黒龍」を訪れ、8代目水野直人氏と意気投合。

発酵のプロセスこそ異なるが、「妥協のない造りへのこだわり」に強く共感したという。共に2世紀にわたる歴史をもつ「ビルカール・サルモン」と「黒龍」には、「伝統の継承」という共通項がある。

日本酒のテロワール

でも、伝統は守っているだけでは続かない。

「ブランドのポリシーを守りつつ、新しい挑戦を恐れない姿勢に、心から共感しました。お互い刺激しあいながら、日本とフランス両国で、さらなる高みを目指したい」とビルカール氏はいう。

精米歩合50%以下の「大吟醸」の先駆者、「黒龍」にあるのは、「良い酒を造りたい」というシンプルな思いだ。「和洋問わず、いいお酒は時を経ても変わらない。なによりも大切なのは、テロワール」

ワインの熟成を清酒造りに応用し、長期熟成の大吟醸を生み出した「黒龍」の現当主ならではの言葉だ。

左から「黒龍 八十八号」、「黒龍 しずく」、「黒龍 石田屋」、「黒龍 二左衛門」、「黒龍 貴醸酒」。

では、日本酒のテロワールとは?

「日本酒の味を決めるのは水とお米です。つまり、これがテロワール」

酒米は、日本の「グランクリュ」兵庫県加東市東条産の山田錦。水は霊峰白山山系の雪解け水を源流とする地下水である。

匠の技が生み出す料理や酒は、もちろん旨い。でも、自然が育んだ良質な素材がなければ、本当のおいしさは生まれない。200年の歴史を超えてなお、変わらぬ思いが「黒龍」を支えている。

美しすぎるマリアージュ

「ビルカール・サルモン」の魅力は、「エレガントで主張しすぎないところです」と話すのは、今回のペアリングを考えた「龍吟」のソムリエ、亀澤広義氏だ。「玄人受けする一方で、だれもが“旨い”と思える要素にあふれている」。だからこそ、「シャンパーニュを飲み慣れている方にも、そうでない方にもお勧めしたい」という。

山陰の至宝“せいこ蟹”
伝統工芸 江戸切子と輪島塗
どこから箸をつけていいか迷うほど端正なせいこ蟹とブラン・ド・ブランの香りとの美しすぎるマリアージュ。

山陰の至高の食材「せいこ蟹」のねっとりとした内子にクリーミーなフィニッシュの「ブラン・ド・ブラン」のめくるめく恍惚感! 料理を盛り上げる江戸切子と輪島塗の器が、「ビルカール・サルモン」の質感と重なった。

さらに、蝦夷鹿のむっちりとしたテクスチャーと、フラッグシップ「ニコラ フランソワ2002」の堂々たるマリアージュ。炙った藁の風味と細やかな泡のハーモニーがたまらない。ぎりぎりまで旨味を引き出した火入れができるのは、素材を知り尽くした調理人だけだ。

「寒さわら」の脂には、樽発酵由来のこっくりとしたテクスチャーの「スーボア」を。「戻り鰹」のタンニンに、すらりと寄り添うピノ・ノワールの「ブリュット・ロゼ」には、ビルカール氏が「この日一番のマリアージュ」と笑顔を見せた。

焼きて香りし 炭火のちから
秋味一皿 “寒さわら”“ゆり根” 柚香味噌
鰆(さわら)のウェットなテクスチャー、そして何より脂の質が、「スーボワ」の樽熟成からくるニュアンスにぴたりと決まる!

海の豊かさ 潮の流れ
対馬“鰹”
海の恵みの赤身と里の恵みの赤い果汁が見事に寄り添う。定評あるロゼの美しい酸が引き立つ華麗な取り合わせ。

食材の力を最大限に引き出す「龍吟」の料理は大胆にして緻密。何よりも圧倒的な存在感を放つ。一言でいうならば、「完璧なまでの調和」。この日集まった3人の巨匠を象徴する言葉でもある。

時は金なり

「ビルカール・サルモン」が創業したのは1818年のこと。以来、7世代にわたり家族経営を貫き、その哲学を守り続けてきた。

「徹底した品質主義」。この言葉をうたうメゾンはたくさんある。でも、「ビルカール・サルモン」のたゆまぬ探究心と革新性は他のメゾンと一線を画す。

たとえば、1950年代には、シャンパーニュ地方で初めて低温によるデブルバージュ(清澄)を取り入れた。アルコール発酵も低温で行い、ピュアな果実味やフレッシュなアロマを引き出す。低温醸造には、5週間近くかかるが、「時は金なり、という言葉がありますね。現代において、時間はもっともラグジュアリーなもの。たっぷりと時間をかけることで、ワインにアイデンティティを与えることができます」とビルカール氏は語る。

そう、ビルカール・サルモンでは、シャンパーニュを「ワイン」だと考える。小さなタンクを使って区画ごとに「ワイン」を造り分け、畑の個性を重んじる。

「良いワインには熟成のポテンシャルがある」と、ノンヴィンテージでも3年以上、ヴィンテージワインは10年もの間、瓶内で熟成させる。グラスもフルート型ではなく、シャルドネグラスを推奨するという徹底ぶりだ。

傑出した年だけに造られる単一畑のブラン・ド・ノワール「クロ・サンティレール」のファーストヴィンテージ1995を100%樽発酵・樽熟成で仕込んだのをきっかけに、ブルゴーニュの古樽を使った樽発酵も取り入れた。リザーヴワインの貯蔵には、80hlのフードル(大樽)を使う。フレッシュさとフィネスを追求するメゾンのスタイルは不変だが、「樽をスパイスのように効かせることで、繊細さの中に奥行きが生まれる」。

ビルカール・サルモンにとってシャンパーニュは単なる祝祭のお酒ではない。名門の品格を守りつつ、ブドウとテロワールの持つ潜在力を引き出した「ワイン」造りにこそ、その神髄がある。

日本は、世界一好きな国

シャンパーニュ騎士団の団長も兼務し、世界を飛び回るビルカール氏が一番好きな国は、日本だという。

その理由は、「真の価値をわかってくれる国だから」

日本食も大好きだ。

「シャンパーニュと同じく、日本食にはデリカシーとエレガンスがある。素材の旨味を人の技で最大限引き出す点もシャンパーニュと重なる」

さらに、フィネスを持つ日本酒のファンでもあり、この日を待ち遠しく思っていたという。さて、その感想は?

「繊細さという共通項でつながれた日本食と日本酒とのコラボレーションは最高の時間だった」

3人の巨匠が紡ぎだす洗練された旨味と圧倒的な完成度が響きあう饗宴の夜。「日々素材に向き合い、理(ことわり)を 料(はか)る事を“料理”と言う」と山本シェフは言う。なるほど、「ビルカール・サルモン」と「黒龍」は、最高の料理でもあった。





ビルカール・サルモン
問い合わせ:JALUX
tel.03-6367-8756
http://wine.jalux.com

この記事を書いた人

WINE-WHAT!? 編集部
WINE-WHAT!? 編集部
雨上がりの朝、届いたワインの雑誌。

焼き鳥とワインが結婚するってホントですか。

WINE-WHAT!?の表紙は笑っているだけ。

赤、白で、今回ロゼはないけど、

サンジョベーゼとかアシルティコとかが、

つくねとかねぎまとかに合わせて踊りだす。