アートとコーヒーの街メルボルンを観光した翌日、車でヤラ・ヴァレーに向かう。最初に訪れたのが、Mayer(メイヤー)というワインメーカーだった。朝10時ごろ到着すると、ワイナリーの主ティモさんが、ベリーのジャムがたっぷり入ったマフィンとコーヒーでもてなしてくれる。マフィンを頬張りながら風光明媚な景色を見ていると、避暑地に羽を伸ばしにきたようだ。標高650mと比較的高い場所にあるので、朝のひやりとした空気とさわやかな風が心地いい。

「これがヤラ・ヴァレーだ!」と説明してくれる「メイヤー」のティモさん

ヤラ・ヴァレーは広い

「ヤラ・ヴァレーのことはどれくらい知ってるか?」というメイヤーの主、ティモさんの質問に対し「ほとんど何も」と答えた私たちのために、ティモさんさんはまずヤラ・ヴァレー全体について話しはじめた。

ハンター・ヴァレーにアッパーとローワーがあったように、ヤラ・ヴァレーも谷を横切る川の上流と下流で気候や土壌が大きく異なり、アッパー・ヤラとヴァレー・フロアに区別される。

アッパー・ヤラは、山からの冷たい空気が流れ込み冷涼なため、スパークリング用のシャルドネやピノ・ノワールが多い。かたやヴァレー・フロアは乾燥して暑く、カベルネやシラーズ、さらにイタリア品種など、晩熟品種が多く植わる。ただし、最近は温暖化の影響で、おなじ品種でもさらに標高の高い土地に植えたり、スパークリング用品種はもっと冷涼なタスマニアに移るなど、状況も変化してきているという。

フード・フレンドリーなワイン

説明を聞いていると、近くにあるワイナリー「マック・フォーブズ」からマック・フォーブズ本人が合流した。

「目指すのは、フード・フレンドリーなワイン」とマック・フォーブズ


マック・フォーブズは、「フード・フレンドリー」なヤラ・ヴァレーのワインを世界に発信する造り手。「“意識しなくてもおいしい”と感じるワインはフレッシュなワイン」と、フレッシュさと飲みやすさを何より重視している。少年のような雰囲気と甘いマスクに胸を高鳴らせていると、いきなり靴を脱ぎ裸足になった。

さすがヤラ・ヴァレー育ち(自由な人だなぁ)……と思ったら、これからメイヤーの畑にいくにあたっての病害対策だった。ヤラ・ヴァレーではフィロキセラのリスクがあるため、2、3日以内に他の畑からきた人は、靴を変えないといけないという。

フィロキセラ対策としての裸足

メイヤーの哲学

メイヤーの畑はオーガニック栽培で、除草剤はいっさい使わない。

ピノ・ノワールの畑では、8種類のクローンをランダムに植える。それぞれ特徴の違うクローンから育ったぶどうを一緒に収穫すれば、全体としてバランスがとれ、複雑さも出るという。

畑に残っていたカビに侵されたぶどうの葉、影響のないものはそのまま残しておく


「Money cannot buy this(お金を出しても買えないよ)」と出してくれたワインは、白ワインも含めて蔵にある全ての樽をブレンドしたもの。2/3が全房発酵、ノンフィルターなので少し濁っている。

単一ワインとしてリリースできないぶどうはブレンドに回す比率が高くなり、年によってブレンド比率は変わる。2014年はカベルネが主張したかと思えば、2016年はピノノワールが強くなったりと、垂直試飲すればその年の特徴がわかるのだ。

金色のろう付けもすべて手作業で行っている

想像以上に神秘的なワインだった。一口飲んだだけではわからない。もっと知りたくて杯を重ねれば、時間をともにさらに変化していくに違いない。これは1本じっくり時間をかけて飲まないといけないワインだ。

ティモさん本人はフレンドリーで茶目っ気のある人なので、ワインも開放的なものをつい想像したが、逆であることに驚いた。ワインには造り手の個性が出るというから、ティモさんはああ見えて、実はすごく繊細で哲学的なんじゃないだろうか……。実際、2015年のシャルドネは、ワインにするには納得できる品質ではないと判断し、ブランデーにしてしまった。そのエピソードに、ティモさんの職人気質と譲らない哲学を感じた。

ブランデーとして生まれ変わる2015年のシャルドネ

この記事を書いた人

水上彩
水上彩
シャンパンと日本ワインを愛するライター。ワイン愛が高じて通信業界からワイン業界に転身した。最近は、毎日着物生活をめざして「きものでワイン」の日々を送っている。ワインの国際資格WSETのDiploma取得に挑戦中。

ブログ:余韻手帖 |きものでワイン http://muse-bacchus.com/