1969年。アポロが月に行き、ビートルズが「アビーロード」を発表し、東大が入試を中止した年。アメリカでは伝説の音楽祭「Woodstock」が開催され、「愛と平和と音楽」を合言葉に40万人が熱狂した。その音楽祭の名をもじって名づけられた「Rootstock Sydney」は、今オーストラリア、いや全世界から注目されるワインと食のフェスティバルだ。

会場は、シドニーにある文化施設「Carriageworks(キャリッジワークス)」。毎週土曜日に開かれるファーマーズマーケットでも有名。モダンでアートな空間に、カリスマワイン生産者や現地の有名オーガニックフードのブースが並ぶ。

ワインだけでなく食べ物と一緒に楽しめる

全世界から注目されるワインと食のフェスティバル「Rootstock Sydney」。「植物の根っこ」という本来の意味には、イベントの根底にある「サステイナブル(自然との共存)」への思いが込められている。

人気の理由はなんだろう、と右手にグラス、左手には取材ノートとペンを握りしめて参加したのだが、ワインエリアの最初のブースで長髪のお兄さんから微発泡のしゅわしゅわ、ペティアン・ナチュレルを注いでもらうと、ノートとペンはすぐにしまってしまった。このお祭りの魅力を感じるのに、メモはいらない。

5年目となる今年は、オーストラリアワインを中心に5カ国約65生産者が参加。亜硫酸ゼロか極小の「ナチュラルワイン」がずらりと並ぶ。利益を目的にしておらず、売上金はアボリジニの団体に寄付される。お祭りは、「試飲会」ではない。スーツを着こんだ営業担当者がワインを滔々と説明するのではなく、爪がワインの色素で赤く染まった造り手が直接ワインを注いでくれる。長髪に髭、流麗なタトゥーの人からアンニュイなオネエさん……日本でもすでに名高いヤウマやトム・ショブルックもいる。ワインも造り手も個性豊かだ。

「ルートストックの魅力はワインだけでなく食べ物と一緒に楽しめること」と発起人の一人、ワインライターのマイク・ベニー。

日本人醸造家、Yuki Nakanoさんを発見。スモールフライ、ドン&キンデリ、グレープリパブリックでワイン造りに参加しつつ、2017年に「九能ワインズ」をスタートさせた注目の若手生産者。

ワイン以外も楽しい。別会場では、コーヒーにうるさいオーストラリア人もご満悦のメッカ・コーヒー、野生酵母で造られたビール、子豚の丸焼きなど地元の人気店がスペシャル・メニューを提供。トークセッションやスター・シェフによるランチイベントも同時開催された。



SAKEもある

Sakeブースも盛況だった。助っ人に来ていたメルボルン在住の日本人ソムリエ伊賀雅彦さんは、「業界のプロが多く、日本酒に対する興味の高まりを感じた」と話す。

日本酒ブースでは、生酒を中心に約20種類がグラス売りされていた(ボトルでの購入も可能)。イベント主催者の一人でもあるMatt Young自らセレクトした日本酒を、航空便で仕入れ温度管理まできっちり行っている。

印象的だったのは、ブースの内側も楽しそうだったこと。休憩時間にコーヒーを買いにいったり、ワインやビール片手に山盛りの牡蠣をつまんだり、お客さんと話しながらもすっかり満喫している様子。そして、いつしか造り手・飲み手・食べ手の枠を超えた一体感が、熱気となって会場に渦巻いていた。人気の理由がわかった気がした。

そうそう、お祭りには浴衣だろう、と和装で参加した筆者だが、ルーシー・マルゴーのブースで盛り上がっていたら、はずみでワインが浴衣にかかってしまった。あたふたしていると、ワインメーカーのアントンは「美味しいワインだから、いいだろう!」と笑いながら、彼の(すでにワインで汚れた)Tシャツで拭いてくれた。このゆるさ……「サステイナブル」には、寛容さが必要なのだ。ちなみにそのワインは「Out of Control(制御不能)」。忘れられない1本となった。

Lucy Margaux(ルーシー・マルゴー)のアントン・ファン・クロッパーと筆者。

「1滴も無駄にするまい」と吐器に捨てられたワインを蒸留して造られたブランデー「Kissing a Stranger」。飲む勇気はなかった。

この記事を書いた人

水上彩
水上彩
シャンパンと日本ワインを愛するライター。ワイン愛が高じて通信業界からワイン業界に転身した。最近は、毎日着物生活をめざして「きものでワイン」の日々を送っている。ワインの国際資格WSETのDiploma取得に挑戦中。

ブログ:余韻手帖 |きものでワイン http://muse-bacchus.com/