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2012〜2004 ヴィンテージ・シャンパーニュ27本テイスティング(対談編)

石田 博 vs 柳 忠之 オトナの「ミレジメ」はもっと注目されるべきである対談

シャンパーニュは通常、品質を安定させるため、複数年のベースワインをブレンドする(つまりNV=ノン・ヴィンテージ)のがスタンダード。これに対して、「ミレジメ(Millesime)」は良質なブドウが収穫できた年に、その年のブドウだけでつくられる。その魅力を掘り下げるため、石田博ソムリエと柳忠之記者によるヴィンテージ・シャンパーニュ試飲評編に続いて、本編というべき、おふたりによる「ミレジメ」考の対談をおおくりします。

 

対談をするひとのご紹介

石田 博(いしだ・ひろし)

1969年東京生まれ。(社)⽇本ソムリエ協会副会⻑。甲子園を目指す高校球児だったけれど、体調を崩して野球をあきらめ、90年にホテルニューオータニに入社。94年よりレストラン ラ・トゥール・ダルジャン配属され、ソムリエとしてのキャリアをスタート。00年世界最優秀ソムリエコンクール第3位。11年「現代の名工」に選出される。

柳 忠之(やなぎ・ただゆき)

1965年横浜生まれ。ワイン・ジャーナリスト。ワイン専門誌「ヴィノテーク」記者を経て、97年に独立。伝説の「BRUTUS」3号連続ワイン特集をはじめ、さまざまな情報誌、ライフスタイル誌に寄稿。安いのから高いのまで、大きなワイン愛で包み込む。ときどき、「割烹タダちゃん」を自宅で開店して料理の腕を磨く、DIYの人。

ミレジメの魅力は何か?

石田 今回、ヴィンテージ・シャンパーニュをまずテーマに選んだ理由を知りたいんですが? 

 日本でシャンパーニュっていうと、ノン・ヴィンテージ(NV)か、またはプレステージ。この二極化が進み過ぎて、NVの次は一気にプレステージへ飛んでしまうでしょう。その間に、ヴィンテージ入りのシャンパーニュが位置しているのに。

石田 自分でワインを買う人は、より安いNVに手を伸ばす。そして、レストランでワインを出そうとするプロの人は、「ちょっと揃えてみようかな」とプレステージに目が向く。

 でもイギリスでは、ヴィンテージものが普通に売れてる。日本の二極化が顕著でいびつなんです。昔は、ヴィンテージこそがプレステージだったじゃないですか。ドン・ペリニヨンが登場して、プレステージというジャンルが出てきたわけで。

石田 ボランジェを例に挙げると、きっとヴィンテージの存在が分かりやすいですね。ボランジェは「グランダネ」という名前をつけて、きちんとヴィンテージに特化している。その上に「RD」「ヴィエイユ・ヴィ-ニュ フランセーズ」も確かにあるけれど。

 ボランジェに聞くと、「うちのプレステージはグランダネ」と言うんです。

石田 日本の市場では当初、シャンパーニュの代名詞がドン・ペリニヨン。市場が成熟して見識が広がると、「クリスタルもいいよねぇ」と様々なプレステージへ派生。その次にレコルタン・マニピュラン(RM)が出てきて、今度は「RMのプレステージもいいよねぇ」とジャーナリストが高得点つけたりして盛り上がりました。でも、一般の人が買うのはやっぱりNV、という流れでしょう。

 レストラン業界で、ヴィンテージの人気は?

石田 グラスで出すことを考えると、NVでないと現実的に使えない。たいていの店ではNVが1杯2000円前後で、ホテルだと3000円。これがヴィンテージになったら……。

 小さいグラスで出せば(笑)?

石田 ヴィンテージは、白ワイングラスで出さなきゃダメです! 大きすぎてもいけませんが、理想的には表面積の広いフルート型か、白ワイングラス。

 石田さんは、グラス売りに主眼を置いている。コースを通して、ワインの代わりにヴィンテージを提供するのは?

石田 予算に余裕があって「ひとり5万円でワインと食事を組んで」と言われるような特別な場合は、ヴィンテージの出番。ここでプレステージを入れると高額すぎるけど、ヴィンテージで特別感がきちんと出せる。そして、飲むと旨みや複雑味もある。ただ、8割がたのお客様は、レストランで食事をすると「やっぱりワインを飲みたい」となるんです。だから基本はグラス提供。

 石田さんの店はコースの1皿ごとにグラスワインを合わせるペアリングをやっています。皿数が多いと、どこかでヴィンテージの出番もあるのでは?

石田 価格の面をクリアできれば、コースの中盤に出すのがよさそう。冬になると、うちのシェフもクラシックな料理を増やしてくるので、「白のブルゴーニュは定番過ぎるし、ニューワールドだと料理に追いつけない」と悩むときがあります。そこで、ヴィンテージ。リー・ド・ヴォーのムニエルとか、白トリュフを使った料理とか。

 そのあたりの料理は、絶対ヴィンテージでしょう。

石田 黒トリュフはソースで煮て強い味の料理になるけど、白トリュフは擦るだけなので、素材感があまりない。そう考えると、バローロよりヴィンテージ・シャンパーニュです。よし、うちの店でも使ってみよう! でも、もともと生産数が少ないからか、輸入元さんからあんまり提案がこないのが悩み。

 生産者からすると、いいヴィンテージはリザーブにまわしておき、プレステージ用にブレンド。すると、ブレンド比率の関係で余るヴィンテージが出てくる。その残りをヴィンテージものとしてあらためて販売していく実情があるのかも。

「メイラード反応」「自己消化」「還元的」

石田 だから生産数が少ないんですね。メゾンの人も売りづらくて困ってるなら、今後「ヴィンテージの在り方を変えていこう」となるかな?

 それが、ない。昔から、「ヴィンテージはその年の出来を表現し、プレステージはメゾンの哲学を表現する」との姿勢は変わらない。でも、ヴィンテージでもメゾンのスタイルの違いは出ます。だから、いちど検証してみたかったんです。

石田 それなら、「メイラード反応」「自己消化」「還元的熟成」、この3つを探っていくのがポイントです。生産者によっては、木樽醸造を行っているかどうかにも着目したい。

 「メイラード反応」は、糖とアミノ酸が化学反応を起こして色や香りが変わること。「自己消化」は、酵母の自己分解。「還元的熟成」は、瓶のなかの酸素がすべて消費された後に進行する熟成。年を経てそれらが複合的に行われ、香りや味が複雑になるんですね。

石田 そこまで見ていくのは、シャンパーニュをすごーく飲んでいる人か、プロの人だけ(笑)。でも、それらを分析していくと、自分にとっては腑に落ちて分かりやすいんです。

 メイラード反応によるモカのフレーバーとか、基本的にNVでは得られない喜びですよね。

石田 モカやキャラメル、トーストの感じが強くなる。

 「メイラード反応は熱が加わらないと起こらないから、熟成シャンパーニュの場合はただの酸化だ」とする生産者もいるようです。

石田 酸化とは乱暴な表現。

 でも、もしただの酸化なら、じゃあ何でワインのような酸化臭はしないのか? 説明つかないんですよ。このあたりは、まだまだ諸説ありますね。さて、若い年から順々に試飲していきましょう。

2012年は、これから楽しみ

石田 2012年は正直、今の段階では商品として厳しい。

ニコラ・マイヤール 
ブリュット・ミレジメ・プルミエ・クリュ 2012
●輸入元:豊通食料 
●品種:ピノ・ノワール55%、シャルドネ45%
●希望小売価格:10,000円

 ブリュットNVでも3年以上寝かせているから、12年産だとまだまだ差別化しづらいでしょうね。ニコラ・マイヤールは、名前がマイヤールなのにマイヤール(「メイラード」のフランス語)反応してないし(笑)。

石田 還元的ですね。

 今年の3月にデゴルジュマンしているので、もうちょっと寝かしたほうがいいかも。

石田 それで、いい結果が出ます?

 ブージー産のピノ・ノワールが入っていたりすると、ふくよかな感じになりますよ。

石田 グラスに注いで時間が経つと、また変化します。ボトルごと置いておいたり、グラスに注いでおいたり、そうすることで変化するのもワインらしさですよね。ヴィンテージの楽しみは、熟成の変化。ボトルになってから発展していくという経験値を踏むために、12年は適しているのかも。

2009年は、ただ暑かっただけではない

ルイ・ロデレール
ブリュット・ヴィンテージ 2009
●輸入元:エノテカ 
●品種:ピノ・ノワール70%、シャルドネ30%
●希望小売価格:10,000円

 09年はただ暑かっただけではないので、味わいに深みが出ています。ルイ・ロデレールは、スマホ用のアプリがあるんですよ。それでボトルのマークを読み取ると、デゴルジュマンの日とかがすぐ分かる。

石田 いいですねぇ。

 このボトルで調べたら、ドサージュが9g:lで、デゴルジュマンが16年。6年熟成です。

石田 もはやプレステージですよね。次にテタンジェへ移ると、より透明感が出ている感じ。同じヴィンテージでも、やはりスタイルが違うことが分かります。

 ニコラ・フィアットはデゴルジュマンが早くて、その後の熟成期間を長くとっている。そうするとメイラード反応が起きやすいんです。

石田 そういう意味では、どのヴィンテージもいつデゴルジュマンを行ったか情報が欲しいですね。購入する判断になります。ラベルに書いておくと、消費者の誤解を招きやすいのは分かるけれども。

 せめて、売る人には分かっていてほしい。

2008年は、酸のレベルが高い

柳 太陽の09年、酸の高い08年。この2年は好対照です。ドン・ペリニヨンも、09年を先にリリースして、08年が後。08年のヴィンテージ、色合いもグリーンがかっていませんか?

石田  09年はどれもゴールドでしたからね。08年は全体的に香りが何段階か若い。酸のレベルも高くてピシピシ来ます。

 ルイ・ロデレールの醸造責任者、ジャン・バティスト・レカイヨンさんが言っていたのですが、シャンパーニュの熟成に必要なのは酸よりもブドウの熟度。「熟度に酸が加わって、初めて長期熟成に耐えうるだけのポテンシャルが得られる」と。だから1996年は高く評価してないんですって。96年はとても酸が高くて、皆が長熟向きだと言っていたけど、実際は保たなかった。収穫をあと2週間遅らせればよかったらしく、彼にとって「2012ヴィンテージこそ成功した96年」なんだそうです。

モエ・エ・シャンドン 
グラン ヴィンテージ 2008
●輸入元:MHDモエ ヘネシーディアジオ
●品種:ピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ムニエ
●希望小売価格:8,950円

石田 では、08年の行く末は微妙? 96年が持っていたような、ドライでどこか硬さのあるまま終わる?

 レカイヨンさんは、そうは言ってなかった。モエ・エ・シャンドンの醸造責任者、ブノワ・ゴエズさんは「06年のほうがポテンシャルはある」という言い方をしていたけれど。

石田 でも、08年のモエ・エ・シャンドンは素晴らしいですよ。奥行きと調和があって。今リリースされている08年は、今後市場からなくなっていくのかもしれないけど、やはり熟成には期待してしまいます。

 もう少し置いてみると、さらにメイラード反応が起きて、さらに第三のアロマが膨らんでいく気がします。変化の様子、追ってみたいですよね。

石田 今回試飲したなかで、プレステージより複雑さをぐっと顕著に出してくるスタイルは’08年が一番強かったかなと思いました。

2007年は、ふくよかでチャーミング

 07年になってくると、香りのトーンはけして大きくないんだけれども、シャンピニヨンなどは出てきたりして、熟成の深度が早い。

石田 09年は「よく出来てるね」という優等生感がある。08年は飲み手に挑んでくる感じ。07年になると、圧倒しない良さを感じます。ちょっとふくよかで、チャーミングな熟女。女優でいえば松下由樹さんあたり。

 熟女好きにはいいのかも。

 ボランジェ 
ラ・グランダネ 2007
●輸入元:アルカン
●品種:ピノ・ノワール70%、シャルドネ30%
●希望小売価格:15,000円

石田 でも、ボランジェだけは異彩を放っています。

 樽の使い方が上手く、「いかにも樽を使いました」といった風ではない。そして酸化熟成的な要素もあります。

石田 基本的に自己分解と熟成によるものだと思うけど、やはり木樽から来る要素も感じ取れますよ。

 お値段は15,000円。これ、ブルゴーニュのグラン・クリュを買うことを思えば納得の価格です。

石田 ときどきコンディションの分からないブルゴーニュ産があることを考えると、ヴィンテージ・シャンパーニュのほうが、ボトル差などの失敗もそうそうありませんしね。

2006年は、太陽の年

デュヴァル=ルロワ
ミレジム・プレスティージュ・ブランド・ブラン グラン・クリュ・ブリュット 2006
●輸入元:ヴィレッジ・セラーズ
●品種:シャルドネ100%
●希望小売価格:11,500円

 06年は本来、太陽のヴィンテージなんですよ。

石田 一部のシャンパーニュはタイトなんだけど、凝縮感がある。ボリュームがすごい。

 デュヴァル=ルロワはブラン・ド・ブランだからタイトなんですね。そしてこのあたりのヴィンテージでぼつぼつ、日本に来てから長く保存されているタイプが出てくる頃でしょうか。

石田 そこの判断が難しい。熟成したシャンパーニュとしてのトーストやカラメルの持ち味が出てきたところで、保管の問題で加速が進むという。

 でも、フランス本国での現行ヴィンテージと一緒なら、それほど日本滞在も長くないはず。ある程度熟成が進んだシャンパーニュも、僕は好きですけど。

2005年は、シャルドネがいい

ランソン
 ゴールドラベル・ヴィンテージ・ブリュット 2005
●輸入元:アサヒビール
●品種:ピノ・ノワール51%、シャルドネ49%
●希望小売価格:8,610円

石田 ‘05年はポテンシャルが高いヴィンテージですよね。

 シャルドネはむちゃくちゃいいんですが、ピノ・ノワールに強いブージーやアンボネは、ベト病でけっこうやられたので、本当は難しい年。

石田 とはいえ、シャルドネだけの「クロ・ランソン」などをリリースしているランソンも、シャルドネ比率が49%どまりですよ。

 北のエリアはよかったんでしょう。05ヴィンテージを出しているメゾンは、あまりモンターニュ・ド・ランスなど南エリアのブドウは使っていないはず。シャルル・エドシックのほうは、15年にデゴルジュマン。瓶内熟成が9年間で、うまみの凝縮感が半端ない。ランソン、シャルル・エドシック、どちらも素晴らしい状態です。

石田 ヴィンテージ・シャンパーニュならではの熟成の変化を今、きちんと楽しめるのが05年。このあたりから、「こんな複雑な飲み物はないよな」という幸福感に包まれます。

2004年は、売られていることにビックリ!

アルフレッド・グラシアン
 ブリュット・ミレジメ 2004
●輸入元:nakato
●品種::ピノ・ノワール25%、シャルドネ64%、ピノ・ムニエ11%
●希望小売価格:16,000円

 最後に、アルフレッド・グラシアン。今、’04年が売られていることにビックリです。口に含んだら、木樽のニュアンスがはっきり。

石田 大きいロットのブレンドでは見られない、中堅メゾンならではの個性でしょう。

 大手メゾンのシャンパーニュには大手らしい安定感があり、それも魅力なんですけどね。しかし、どのヴィンテージでも高くて1万円台で買えるとは。

石田 プレステージの半額。

 逆に、プレステージの値上がりが激しいんです。90年代の半ばに上代1万円だったものが、今は2万円台だったりする。

石田 なにより、ほかの産地のワインではなかなか見られない、ワインらしさがあります。ワインらしさがあるということは、料理とのマッチングもちゃんと考えないといけないということ。なんとなくコース料理のスタート時に飲むだけではいけません。

 こんないい商材があるのに、見向きもされていないのは残念。

石田 ソムリエになって25年、私もやっと今日、「ヴィンテージってすごい!」と思えました(笑)。シャンパーニュ好きは、ぜひヴィンテージ・シャンパーニュを語りましょう。この複雑さを楽しんだら、語りがいがありますよ!

この記事を書いた人

WINEWHAT
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