ソムリエの仕事
カミッラさんがアーティチョークの切り方をレクチャーしているころ、筆者は、すでにお腹いっぱいだった。いったいどれだけ料理が出てくるんだろうとおもっていた。
これらの料理は、今回、登場した料理のほんの一部です
メーカーズディナー、とくに、今回のようなビュッフェ形式のそれは、たいてい、食い足りない。筆者がメディアとして参加するのが常であり、遠慮がちというのもあるけれど、たとえ、客として参加していても、この手のイベントで、たらふく食べて飲むのは意外と難しいだろう。
料理が出たタイミング、ボトルがあいたタイミングで、さっと動き、列にならび、自分の分を確保する必要がある。あとでいいや、なんておもっていると、皿もボトルも空になってしまうものだ。
ところが今回は、ワインはどんどん空く、料理は食べきれないほど出てくる。飲んで食べれば人間、歌わないにしても陽気になるものだ。会の雰囲気は陽気だった。まるでイタリアにいるかのように。カミッラさんはイタリア語で話し、林ソムリエはそれを通訳するのだけれど、それも極めて大雑把な通訳でしかなく、実際、イタリア語などほとんどわからないにもかかわらず、筆者は一体感のある場の雰囲気から、言葉のちがいなどささやかな問題におもえた。
食材が尽きるまで料理をつくりつづけそうな今井料理長のホスピタリティも圧巻。それぞれの料理についても、解説付きです。素材の味を活かしたやさしい味付けは、まさにイタリアン
よしんば、bioVioのワインを飲みきってしまっても、控えがおります
実は筆者は、林ソムリエには、もっとかたいイメージがあった。堅苦しい人物ではないにしても、常に冷静で鋭く、イタリアNo.1の評価を受けたというバックグラウンドを納得させるだけの迫力がある。だから、本人をつかまえ、ここまでワイワイ盛り上げるのは意外だった、と素直な感想を述べてみた。
すると「これがヴィーノハヤシのホスピタリティです」といたずらっぽく笑ったあと「ソムリエというのは、接客業、サービス業です。僕も普段はイタリアの現場のソムリエ。臨機応変に対応して、お客さんに楽しんでもらうのが仕事です」
キレイなワインってなんだ？
そこから、林ソムリエのオーガニックワインに関する意見も聞くことができた。
「ソムリエって、ワインを飲む人の一番そばにいる職業です。そして、生産者のそばにもいる。架け橋なんです。だから、メーカーズディナーっていっても、本当に語りたいこと、思い入れがあれば、今日の僕みたいに、メーカーをさしおいて、ソムリエが話をしてもいいとおもうんです」
なるほど、そんなおもいからだったんですか。ところで、今回のbioVioのワイン、「キレイなオーガニックワイン」と表現されていますが、正直にいって、いまひとつ、何をいわんとしているか、ピンときません。キレイというと酸味が強くてさわやかというようなイメージを抱くのですが、まろやかさ、深みも感じられます。
「リグーリアはビオ、有機農法が普及しています。そして、有機農法でつくられた農作物は、普通、おいしいものです。ただ、ワインの場合、オーガニックワインといえば、たとえば、酸っぱかったり臭かったりしても、オーガニックだから、と言い訳のようにいわれることがありました。それっておかしくないですか？ 失敗したワインは失敗したワインです。オーガニックワインだからおいしい、とかオーガニックワインだからおいしくない、という言い方に疑問を感じます。bioVioのようにきちんとしたワインはおいしい、その上でオーガニック。不真面目なオーガニックとおなじくくりに入れられたくはないはずです。キレイなオーガニックワインというのは、オーガニックのおいしいワインを求める消費者に、ソムリエが自信をもってすすられるワインということです」
以前、カリフォルニアで筆者は、サステイナブルやオーガニックは、消費者にとってはタイブレーカーでしかないし、そうあるべきだ、という話を聞いた。つまり、同程度においしくて、同程度の価格のワインがならんだとき、片方がオーガニック、もう片方がオーガニックでないなら、消費者は、オーガニックを手にとるのが健全だ、というような意味だ。そのとき筆者はさすが世界市場で戦うアメリカの農業の考え方は合理的だな、とおもったのだけれど、林ソムリエもそれにちかいことをいいたいのではないか。
だから、「そんなこというのはおかしいですかね？」と林ソムリエはいったけれど、おかしくないと筆者は考える。
