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ボーノかノンボーノか? バローロのモダン派マルコ・パルッソの経験主義的ワインづくり

ネッビオーロをリラックスさせ、酸素を友だちにして、温度の異なるマセラシオンのあと、フレンチオークの小樽で熟成する

バナナを買ったときのことを考えてください

パルッソではブドウを手で丁寧に収穫したら、カゴごとリラックス部屋に入れる。これが最大の特徴だ。部屋は常温で18〜24℃、常に空気が動いていて健全な環境である必要がある。プロポリスをまき、イオン化したこの部屋で、2日から5日、涼しい年は長く、暑い時期は短く、ブドウを休ませる。

ブドウの木に人間のように接する。ストレスを与えない。ブドウが幸せ、という状態にすると干ばつや病害への抵抗力がつく。運ぶときもとても丁寧に。

2~5日、休ませる。湿度が低く、温度は18〜20℃。空気を循環させる。陰干し以外で休ませる、というスタイルをとっている生産者はほかにいない。

「ブドウにしてみたら、幸せにぶら下がっていた状態から突然ハサミでカットされるわけだから、ストレスがかかってショック状態にある。この状態のまま醸造するのはよくない。その証拠に、収穫前のブドウを食べると甘いけれど、カットした直後は味がバラバラで暴れている。それは赤ちゃんがお母さんのお腹のなかにはいるときは幸せだけれど、生まれて、へその緒を切るとショックで泣くのと同じだ。パンでも焼きたてより、焼いてから落ち着かせた方がおいしいし、肉だって屠殺してすぐより、熟成させたほうが旨味が出る。ちょっと置くことで、ポジティブな要素が戻ってくる。

バナナを買ったときのことを考えてください。最初は緑が混ざった硬い皮で、むきにくい。常温で、しばらく置いておくと皮が茶色になり、薄くなってむきやすくなる。消化もしやすい。最初は香りも味も活力もない。熟成して初めてバナナは潜在力の100パーセントを発揮する。

古代ローマ人も、収穫したばかりのブドウを道に広げてしばらく置くということをやっていました。残糖が高いという意味ではなくて、甘いセンセーションを与えるワインができます。

ただ、手間もコストもかかる。収穫したブドウをそのままタンクに放り込めば簡単です。一度置いて並べているから手間がかかるし、段取りも複雑になる」

アマネーロのように干しブドウにして凝縮させるためではない。あくまで落ち着かせるため、とパルッソさんはいう。

左は収穫したてで、つやつやしてる。緑色の茎はかじると苦くて美味しくない(だからみんな除梗する)。「イライラしている」。このストレスをなくすために“ブドウを休ませる”。右は5日間休ませたもの。この手法は1950年代、工業化のなかで失われていったのだという。

「20年前から、経験でこの方法にのめり込んでいる。詩とか理屈とか哲学ではありません。こっちの方がおいしかったからやっているだけ。ボーノかノンボーノか、おいしいか味ないかだけ。子供と一緒。理屈はない」

いつまでブドウを休ませるか、に関するレシピはない。自分で食べてみて決める。よい状態になったと判断したら、発酵タンクに入れる。

休ませたブドウは、除梗なしで回転式発酵タンクへ移し替える。

回転式発酵タンクを使っているのは、温度の上げ下げができるから。

2007年から除梗はしていない。発酵タンクは温度の調整ができる回転式のモダンなステンレス製を使う。この際、温度を短い時間で的確に変えられることが重要で、「温度を人工的に変える」ということについて、こう続けた。

「基本的に、ワインは自然には存在しません。果実があって、お酢がある。その中間状態がワインで、安定していない。人間がお酢になるのを止めない限り、自然には存在しない」

だから、人間が積極的に手を加えてもいい、いや、人間が積極的に手を加えるべきなのだ。

発酵の前に行う最初のマセラシオン。万が一発酵が始まってしまわないように温度は低めにする。テクノロジーが可能にしている。やがて、乾燥したブドウ、虫、いたんだ果実等のゴミは浮かんでくる。それを網でとる。最先端の回転式発酵タンクがないとできない。労力とコストがかかる。

浮かんできた悪いものを除去したあとのブドウ果汁が完成。ここで温度を一気に35℃にして24時間。その後、温度を下げてゆるやか発酵モードに。ゆるやか発酵だからアルコールもゆるやかに感じるそうな。このような複雑なマセラシオンをやっている生産者はいない。

除梗しないブドウの房をそのままタンクに放り込んだら、7〜8℃に温度設定しマセラシオンを4日から6日行う。最初のマセラシオンは非常に重要で、これによって森の果実とか繊細なアロマとタンニンの抽出を行う。色はルビー色。2日ぐらい経つと、ネッビオーロの場合、悪いものは自動的に浮いてくる。乾いたパサパサのブドウや熟れていないブドウ、虫、そういう浮いてきたものを網ですくい取る。

このゴミは1000kgのブドウで200kgぐらい。ひょうが振ったりした年はもっと増える。ゴミをすくい取る作業をしている人はほとんどいない。多い年だと500〜600kg取ることもある。やっていないことを考えると恐ろしいそう。

こうした悪いものは、冷やせる能力のある回転式タンクで、表面積がかなり広くないと、自動的に浮いてこない。低温でのプリマセラシオンが終わったら、温度を7〜8℃から一気に35℃にあげて24時間そのままにする。一気に温度を上げるのは、ゆるやかに温度をあげていくと、いい酵母より悪い酵母が先に活動するリスクがあるから。この高温でのマセラシオンで、低温抽出とは異なるアロマや色を得る。色は、低温では前述したようにルビー色、高温ではガーネットになる。

いい酵母が働き始めたら、今度は22〜24℃に下げる。そこから、ゆるやかなアルコール発酵がゆっくり始まる。ブドウが持っている畑の情報をできるだけワインに移すため、もう一度27〜28℃に温度をあげる。マセラシオンは40〜90日と非常に長い。

樽は、ほぼ新樽を用いている。

畑からの情報を100パーセント、ワインに安定的に定着させるために必要なのが、木樽の樽材のなかに貯蔵されている酸素で、バリック(小樽)は2社からフレンチオークを買っている。それを長い時間をかけて低温でトーストする。目的は伝統的な強いトースト香をつけることではなくて、酸素を与えることだから。

最初オリは沈んでいて、このとき還元力が最も強い。バトナージュするとオリが舞う(還元力を失う)。ということはワインが酸素を吸い込む。オリは自己分解していくから、ワインを守ることがだんだんできなくなる。けれど、そうなった時点ではワインは酸素に慣れている。だから、パルッソのワインは酸素に対する抵抗力が強く、開けてから10日間経っても大丈夫だという。

酸素による酸化からワインを守る「マンマ」。

バリックに移するとワインのなかにオリが沈殿する。マセラシオンを続けているともいえる。このオリをパルッソさんは「ワインのマンマ(おかあさん)」と呼ぶ。

ギリシャのヨーグルトみたいになったオリをちょっとずつバトナージュする(バトン=棒でかき回す)のは、ワインを徐々に酸素に慣らすためだという。

パルッソ流の独創的ワインづくりについて語ったあと、いよいよテイスティングである。

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