• TOP
  • #WINE
  • ボーノかノンボーノか? バローロのモダン派マルコ・パルッソの経験主義的ワインづくり

ボーノかノンボーノか? バローロのモダン派マルコ・パルッソの経験主義的ワインづくり

ネッビオーロをリラックスさせ、酸素を友だちにして、温度の異なるマセラシオンのあと、フレンチオークの小樽で熟成する

左から、バローロ 2013、同マリオンディーノ、同モスコーニ、同ブッシア、同ブルーラベル、そしてスパークリング。

オレンジのアロマとシルキーなタンニン

セミナー参加者たちの目の前に並べられた5つのリーデル・グラスに「パルッソ」が順に注がれる。グラスはパルッソのセラーでテイスティングに使っているのと同じタイプで、「いい意味で酸素を与えてくれるから、ワインがすぐに開く。すばらしいグラスだ」とパルッソさん。

まず、バローロ 2013(6,800円)から。バローロD.O.C.Gに認定されている11の村の中でも特に重要と言われる5つの村のうちの2つの村の一番いい畑のブドウを使っている。バローロはもともと単一畑からつくる伝統はない。ブドウを休ませて徐梗せずにマセラシオンして、バリックは本当は全部新樽でやりたいところを、価格が上がりすぎないように50%にとどめている。

「クリーンで、果実、パルッソ共通の柑橘、オレンジのアロマがある。色を見るとグラデーションがある。温度が違う抽出をしているので単一ではない。タンニンが均一です。甘くて、ドライなタンニンがない。もちろんネッビオーロなので、ちゃんとタンニンはあります。14℃、12℃だと魚にも合います。16℃だと肉、20℃だと、チョコレートにも合います」

続いて、バローロ マリオンディーノ 2013(10,000円)。カスティリーネ・ファレット村のマリオンディーノという単一畑のブドウを使用。ちょっと冷涼で、ブッシアと較べると砂が多い。貝殻の化石が入っている。

「このグラスだと、まったく香りが違う。今日のマリオンディーノは、スパイシーでアーシーな香りが出ますね」。

バローロ モスコーニ 2013(12,000円)。モンフォルテ・ダルバ村の南端にある、標高が高く日当たりのよいモスコーニという名前の畑のブドウを使う。100%新樽。

「このグラスは本当にアロマが引き立てられる。フルーティーで力強くて、連れ去られるような勢い。誘惑しすぎる、みたいなトーンが出る。モスコーニはテロワールがまったく違う。ブッシアに較べて、こっちは茶色で砂が減る。厚みがあってタンニンが男性的。タバコ、なめし革とか土っぽさが出る。パルッソすべてのワイン共通しているのは柑橘類のトーン。ネッビオーロの中には最初見つけられなかった。白ワイン、ソーヴィニヨン・ブランをつくっているうちに、自分の畑には柑橘類のアロマがあるんだなと気づいて、そのあとネッビオーロの中に探すようになって見つけた」

柑橘系のアロマは畑の特徴であると同時に、栽培の方法、醸造の方法にもそれが生まれる理由がある。ブドウを休ませて、マセラシオンを長く行ってブドウから抽出し、新樽で酸素をたくさん与えることによって抽出したものをフィックスする。抽出してもフィックスしないと何の意味もない。

バローロ ブッシア 2013(13,000円)。モスコーニと同じモンフォルテ・ダルバ村の中でも、より評価の高い畑ブッシアにある限られた区画の樹齢50年を含むブドウをつかう。いくつもの要素の調和がとれたパルッソの最高峰。

「ブッシアは繊細なシルキーなタンニンを持っている畑と考えられる。白い土壌で石灰分が多くなる。この3つを飲んで明らかなのは、マリオンディーノとモスコーニはキャラクターが明確なので、わかりやすい。ブッシアはすべての要素を同じだけたくさん持っていて、完全にバランスが取れている。ということは、よほど優れたテイスターでない限り、突出した要素がないから優れているところを見抜きにくい。この3つを飲んでブッシアが一番いいという人は少ない」

ちょうどロマネ・コンティと一緒の話ですね。ラターシュの荒々しさは誰にでもわかる。ロマネ・コンティはすべてを持っている。だから、一番低い点数を与える人が多い。と宮嶋さんがナビゲーターとして合いの手を入れる。なるほど、そういうものか!? ロマネ・コンティを飲んだことがない記者はそう思った。

 

「絹のようなワインをつくりたいというのが私の夢だった。ところが実際につくってしまうと、評価してくれるのは優れた味覚を持つ人だけで、一般受けはしなくなる。真価は、1分か2分後に戻ってくる余韻に現れる。それで判断してもらうと、これが一番優れているワインだとわかる。これは非常にマセラシオンが長くて、一部は新樽200%。1年後に新樽に変えています。なぜかというと持っている情報量が多いので、酸素をたくさん与えて、安定させて、フィックスさせるためです。新樽の香りをつけるためではない」

そこまでしているのに、わかってもらえないのだとしたら……つくり手の悲劇であり、喜劇というほかない。

最後に、バローロ ブルーラベル 2014(8,000円)。まだ発売されていない。2014年は寒くて雨が多く、収穫時期にも雨が降った。そのためブドウを選別しなければならず、ワインの生産量が激減した。何回も、ひょう害対策等でコストが高くついてもいる。栽培の腕が試されたヴィンテージだったという。単一畑ワインはつくって24カ月熟成したけれど、瓶詰しなかった。瓶詰しなかったその3つのワインをブレンドしたのがこれ。ネッビオーロ100%。値段は単一畑の半額で、過去2005年につくったことがある。

「アルコールがちょっと少ない、エレガントなヴィンテージで、色はより強い色になった。100%ブドウが成熟しないときは色は濃厚になる。非常にフランボワーズ(ラズベリー)の香りがして、冷涼なヴィンテージはバローロはよりピノ・ノワールに近くなる。トリュフが感じられる香りも熟成とともに出ている。タンニンがちょっと荒い。ブドウが2013年ほどは成熟していないので、なにか欠けているのはやむを得ない」

ラベルに「ロゼ」と書いていないのは、流行とは疎遠でいたいから。

サプライズがあった。それは非売品のスパークリングワインだった。上から泡立つようにグラスに注がれたそれはロゼよりも淡い、パルッソさんの表現によれば、玉ねぎの皮に近いオレンジ色だった。

「これはシャンパーニュ方式から多くを学びました。特にシュールリーということについて。スパークリングワインは大好きで、よく飲みます。どんな食事にも合うし、飲みやすいし、大好きなのでつくりたいと思っていただけど、イメージが浮かばなかった。

ある日イタリアのスパークリングワインについての本をプレゼントされて、そこにカルロ・ガンチアというイタリアで最初に瓶内2次発酵のスパークリングワインをつくった、19世紀のベルモントのひとの話が載っていた。彼はシャンパーニュに行って勉強し、2年後にピエモンテに戻ってきてカネッリにワイナリーをつくった。そのときに使ったのがネッビオーロだった。それは当然、19世紀半ばのやり方でのスパークリングだった。酵母と果汁添加で瓶内2次発酵させる。これは私にとって大きな発見で、新しい挑戦をやる気持ちがついに固まった。100%ネッビオーロで瓶内2次発酵のスパークリングをつくろう、と。

収穫時期は9月の頭、ネッビオーロを収穫して、一部はステンレスタンク、一部は樽で発酵させて、自然酵母で、白いベースのワインをつくる。そのあと、10月の末に最後のネッビオーロを収穫し、小さなカゴに入れて1カ月〜1カ月半陰干しにする。糖度とタンニン、色が凝縮したそのブドウをクリスマス前にプレスして濃厚な果汁を手に入れる。1リットルあたり25g加え、そこに15%、前のヴィンテージのワインを加え、翌年の1月にティラージュ(瓶詰め)する。そこからシュールリー(発酵後、オリ引きしない)の状態で熟成に入る。バトナージュをやるのと同じように3カ月ごとにボトルを振り回す。それによって酵母の自己分解が進む。酵母が溶込み、よりエレガントで、プラス、泡がよりクリーミーになる。

そういうことで、このスパークリングは上から泡だ立たせるように大きなグラスに注ぐ。初めから泡立たせると雑な泡が消え、デリケートな溶け込んだ泡だけが残る。クリーミーでブラン・ド・ノワールとは思えない。ドサージュしていない。デゴルジュマン(オリ抜き)のとき、同じワインを入れる。バローロを入れる場合もある。最低3カ月熟成。これは2013年で、デゴルジュマンの日も書いてある。それからセラーで1年休ませて、それから市場に出す。デゴルジュマンしたら、そのワインにとってはショックだから1年ぐらい休ませる必要がある。これはパルッソで誕生した最新のワインで、これには私が30年間経験したすべてが詰め込まれている」

ブルーラベルは今年の秋に、スパークリングは未定ながら、限定で2015ヴィンテージが発売になるかもしれない。楽しみなことである。

セミナー終了後の質疑応答で、パルッソ流ワインづくりについて、マルコ・パルッソさんはこんなことを語った。

「自分のスタイルが完成することはない。常に進化する。1995年から2006年まで、収穫したブドウを休ませていたのは、除梗しやすくするためだった。果梗を憎んでいた。できるだけ取り除きたかった。当時は、一部でも残ったら嫌だからそうしていた。聞かれたら、果梗は一番ダメなものだと答えていただろう。自分のことを疑わないと。試さないで人生を終えるのは……。新しいプロジェクトのことを考えると、アドレナリンが噴き出してくる。挑戦していなかったら生きている意味がない」

革新的ワインづくりになったのは、健康上の問題があったからで、「病気になれば死にもこだわる」とパルッソさんはボツリ。生と死のワイン。じつにイタリア的とはいえまいか。理屈はともかく、パルッソはボーノだった。

この記事を書いた人

WINEWHAT
WINEWHAT
YouTubeInstagramでも、コンテンツ配信中!
フォローをお願いいたします。

Related Posts

PAGE TOP