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ボルドー女子、松花堂弁当とのペアリングに挑む

BORDEAUX ワインはコンラッド東京内の日本料理店「風花」のBENTOに対応できるか?

ボルドーワインは、あれこれ入った多彩な弁当にも合わせることができるのか?  
ボルドーからやってきた才女2名が果敢にトライ!

 

ポーリーヌとメラニー

ワインの本場ボルドーより来日した、ポーリーヌ・デュフール=デカンとメラニー・シスロネス。スタイルは違えど、ともに家族経営のシャトーで奮闘する立ち位置は共通する。

彼女たちが東京 でのボルドーワインセミナーで講師を務めあげた後、心をときめかせながら足を運んだのはコンラッド東京内の日本料理店「風花」。世界が注目する日本の食文化のひとつ、BENTO(弁当)を知るためだ。

用意されたのはBENTOのなかでも最高峰の松花堂弁当。

もともと和食に合うと評価の高いボルドーワインだが、あれこれ入った多彩な弁当となると、もしや難易度が高すぎる?? 

ボルドーワインとのドキドキなペアリング。才女2名が果敢にトライ!

ポーリーヌ・デュフール=デカン
/シャトー・シモン
カリフォルニアにてワイン醸造や栽培の経験を積み、ニカラグア、アメリカの大学で市場分析を研究。その後ワイン輸入業に6年間携わり、2016年から実家のシャトー・シモンへ。
経営とマーケティングを担当し、醸造を担当する妹とともに切り盛りする。旅での異文化体験を愛し、この取材終了後はひとり都内の銭湯を訪問!

Château Simon
1814年、バルザック村にてデュフール家が甘口白ワインの生産を開始。以降、親から子へと代々継いでいくうち所有畑を増やし、38ヘクタールに。
現在はボルドー、グラーヴ、バルザック、ソーテルヌの原産地呼称を使い分け赤、白、甘口白を生産。シャトーにはポーリーヌの父が収集したオープナー・コレクションを展示。

メラニー・シスロネス
/シャトー・ド・ルイヤック
元サッカー選手の父とともにシャトー運営を担う、4姉妹の長女。フランス経済商業高等学院ワイン・インスティテュート修士号取得。
「起業チャレンジコンテスト」で優勝経験あり。ロンドンのレストランやボルドーのネゴシアンでも研鑽を積み、現在は家業のシャトー・ド・ルイヤックでブランド・アンバサダーを務める。

Château de Rouillac
乗馬を愛し、大会での入賞経験もあるローラン・シスネロスが1999年に購入を決めたのは、堅牢な馬小屋付きで売りに出されていたペサック・レオニャン村のシャトー・ド・ルイヤック。
この物件に運命を感じ、シャトーの全面改修を行いながらワイン造りをスタートすることに。乗馬用のほか耕作用の馬も所有し、有機栽培を推進。

日本料理は驚きの連続

ポーリーヌ(P) 2年前に来日したときは築地市場に行って、新鮮な魚の寿司を食べて感激した覚えがあるわ。やはり、日本とフランスは食のスタイルがぜんぜん違うのよね。

メラニー(M) 私はおととい、やっと本場の寿司を食べたところ。今回が初来日だったから、驚きの連続!

P 日本料理は、多彩な食材を使っているだけでなく、テクスチャーも様々でしょ。酸っぱかったり、甘かったり、やわらかかったり、カリカリだったり。

M せっかく来日したのだから、ちゃんと和食を学んで帰りたい。田村シェフ、お料理の説明をお願いします。

先付 長芋のたたき わさび風味

鯛のサラダ仕立て/蓮根の豆腐/桜海老のかき揚/鶏胸肉の黄身酢添え

あさりのおひたし/玉子焼/甘味噌の大葉巻/鱒の蕗味噌焼/竹の子の天ぷら/南瓜の甘煮/タコのやわらか煮/野蒜の酢漬/手毬寿司/蓮根のブルーベリー漬

ほうじ茶入りチョコレートケーキ
抹茶(お好みでスチームミルクと砂糖を)

KAZAHANA
日本料理「風花」
港区東新橋1-9-1 コンラッド東京 28階
営業時間 11:30-14:00 17:30-21:00

田村 今日召し上がっていただくのは、刺身や焼き物、揚げ物などが揃っているコース仕立ての松花堂弁当です。最初は先付の長芋からどうぞ。みる貝と生うに入りで、辛いわさび、柑橘の香りをきかせています。お碗のなかをスプーンで混ぜながらお召し上がりください。

P はい、早速いただきます! 口に入れたとたん、上に乗っているゼリーからフレッシュな印象を受けたわ。同時に、ウニからの甘味も感じる。そのさわやかさと甘味が特徴的。

M ゼリーから柚子の香りが上がってくる。これは、あなたのワインが合うんじゃない?

P そうね。私たちのシャトーはどちらも同じボルドー左岸だけれども、味わいはずいぶん異なる。ウニの塩気をはじめとする海のニュアンス、ウニの甘味、ゼリーのフレッシュ感が重なって、うちのシャトー・シモン白とはピッタリ。大西洋に近い産地として、海の塩気のような味わいを感じるから。

「大西洋に近いボルドーだから、辛口白だけでなく、甘口白も、海からくるフレッシュな印象がある」(メラニー)

M 畑には石が多くて、土壌のミネラル感がとても強く反映されるのよね。ウニの持つミネラル感と合うのは当然。いっぽう私のシャトー・ド・ルイヤック白は、シャトー・シモンほど酸がしっかりしてない。

P だって、そちらのルイヤックは100%樽熟成ですもの。その分、樽からくる香りが加わって味わいは複雑。シモンは樽の使用比率30%。木の香りは弱く、フレッシュさが前面に出るタイプ。

M だからルイヤックは、次に運ばれてきた鯛のサラダのほうが合う。

P けして、シモンだって鯛と相性が悪いわけではない。ただ、複雑な味のルイヤックとバランスをとるなら、白身魚の脂分があったほうがいい。

M そうなの、ルイヤックは魚のなかでも脂の多いタイプと合いやすいのよ。

P ボルドー白って「フレッシュなうちに飲んだほうがいい」と思われがちだけど、寝かせてバターのようにネットリとしてきた味わいもダイナミックよね。ルイヤックも、最初のフレッシュ感をなくさないまま味がまろやかになって、さらに余韻が長くなっている。

M そうして力強さが出てくる分、脂ののった鯛のほうがピッタリ。料理と合わせてみると、ワインの表情もより活き活きとしてくるのが分かるわ。

用意されたボルドーワイン
<右より>
シャトー・ド・ルイヤック 赤 2014(ぺサック・レオニャン)
52%カベルネ・ソーヴィニヨン、48%メルロ

シャトー・ド・ルイヤック 白 2016(ぺサック・レオニャン)
70%ソーヴィニヨン・ブラン、16%セミヨン、14%ソーヴィニヨン・グリ

アガペ・ド・リュフレ 赤 2015(グラーヴ)
80%カベルネ・ソーヴィニヨン、20%メルロ

シャトー・シモン 白 2016(グラーヴ)
50%ソーヴィニヨン・ブラン、50%セミヨン

シャトー・ドーフィネ・ロンディロン 2010(ルーピヤック)
80%セミヨン、20%ソーヴィニヨン・ブラン

赤のタンニンは生姜と上手くいく

「蕗(ふき)のつるのような、苦味のあるものはボルドーの赤向きかと思います。醤油で炊いた蛸も、赤ワインのタンニンの渋みと合いますね」(田村料理長)

P こっちのボールは何かしら?

田村 蓮根と豆腐を混ぜた団子です。帆立貝と鯛の子を一緒に炊いています。

P あ、生姜がかなり効いてる! となると、赤ワインのほうが圧倒的に合う。ボルドー赤のタンニンと生姜は上手くいく関係なの。やわらかいタンニンは、とくにね。

M あなたの赤ワインはすごく繊細。

P うちのアガペ・ド・リュフレは、メルロの多いグラーヴ地区で珍しいカベルネ・ソーヴィニヨン主体。だから、もともとスパイシー。だけど2015年は暑さが厳しい年だったので、果実味の丸みが加わっている。そこそこ存在感がある割に、まろやかでしょ? おかげで、さらに生姜の料理と合わせやすくなった。

M 私のシャトー・ド・ルイヤック赤が繊細な理由とは違うのね。うちは樽熟成をする前にアッサンブラージュ、つまり品種別に醸造したワインのブレンドを行ったの。樽熟成した後にブレンドすると、違う品種同士すぐに馴染んでくれないけれど、樽熟成前ならうまく混ざり合う。樽で時間が経過するうち、仲のいい老夫婦のように馴染んでいくわ。そのやり方が結局、繊細さに繋がるのだと思う。

P 樽は、必ずしも樽香を付けるためだけではない。品種特性をうまく引き出す役割を果たしてくれる。ルイヤック赤は、ちょうどスモーキーな鱒の蕗味噌焼とピッタリよ。

M そうね、ワインにスモーキーな風味があるし、やっぱりベストマッチは鱒で決まりかしら。

P 収穫年が2014と涼しい年で、ワインのなかに爽快感が残っているのも、このペアリングを後押ししてくれている。

M そういえばフランスでは、「チーズといえば赤ワイン」との固定観念が近年だいぶ薄れて、今はチーズに白ワインも自由に合わせている。それと同じ傾向で、川魚と赤ワインのペアリングもだいぶ増えてきたわ。本当は私、ルイヤック赤も肉料理とのペアリングを提案するつもりだったの。でも、松花堂弁当のなかで唯一の肉である鶏肉は、レモンの香りが効いているから、赤だけでなく白も……あらら、鶏肉は意外と甘口白が合うって発見しちゃった!

P シャトー・ドーフィネ・ロンディロンのような甘口は通常、スパイシーな料理が合うんじゃない? スパイスで甘さを中和させてバランスをとる方法ね。

M たしかに、スパイスを加えた料理はとても合わせやすいわ。でもこの一品の場合、香り豊かな甘口白と、香りを強調していない鶏肉との相性がいいの。黄身酢という、黄身のコクと酸の混じったソースがポイントね。

抹茶の苦味には甘口白

「早飲みのイメージが強いボルドーの辛口白。

でも、熟成して複雑味を増したワインも面白いのよ」(ポーリーヌ)

P かえって、甘い玉子焼はどうなのかしら。

M 甘いけど塩も効いている玉子焼ね。ここにワインでフレッシュさを加えれば、バランスがとれると思う。なら、若々しい辛口白かな。全体的に、今回の松花堂弁当にはボルドーの辛口白が合わせやすい。

P 甘いデザートでは、また話が違ってくるわ。クリームやフルーツは、甘口白と相性バッチリ。あと、抹茶にもワインを合わせるとしたら、甘口白ね。抹茶の苦味を甘いワインで緩和させるの。とくにフランス人は、日本人ほど苦味に慣れてないから(苦笑)。

M チョコレートケーキは、ボルドー赤。チョコの苦味と赤の相性は文句なしよ。

P でも、抹茶の苦味に赤は合わない。最初は合うかなと思ったのに、不思議とバランスがとれない。

M 日本料理は、フランス人の私たちにとって特殊な味付けや調理法の連続。それでも結果的には、どの料理にも合うボルドーワインをすぐ見つけられたわ。

P ただ、同じ哲学で造っている同じシャトーのワインでも、収穫年が違えばタイプは違う。飲む時期によっても違う。夏と冬とでは飲用温度が違うし、なにしろ味覚の感じ方だって違う。だから、日本のみなさんにはご自身でいろいろ試していただくのが一番。

M ペアリングに絶対的な規則はないのよね。誰と一緒? どういう雰囲気? どんなワインを飲みたい気分? それらを加味して、好きなワインを選べばいい。前は「複雑味」だとか「タンニンの質」だとか語る消費者が多かったけれど、今はもっと気軽に飲みたいとする人たちが増えた。ボルドーには、若くておいしいワインも、熟成させるポテンシャルを備えたワインもある。どんなニーズにもこたえられるボルドーワインだから、日本料理ともこれだけ合わせられたんだわ。

P/M ごちそうさまでした!

田村勝宏
日本料理「風花」統括料理長
2006年コンラッド東京入社、2016年に統括料理長就任。ワインに力を入れるコンラッド東京らしく、ワインとマッチする日本料理の在り方に深い理解を持つ。

この記事を書いた人

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