19世紀初期には、シャブリ、ニュイ・サン・ジョルジュ、リュリィ、トネールといった、ブルゴーニュのさまざまな場所で造られていたことがわかっている、発泡性ワイン。1975年にアペラシオンとして「クレマン・ド・ブルゴーニュ」が認定された。つかわれるブドウはブルゴーニュのさまざまなテロワールのものだけれど、クレマン・ド・ブルゴーニュもまた、ブルゴーニュのAOCのひとつ。今回、取材した「ルイ・ピカメロ」は、クレマン・ド・ブルゴーニュだけを造るメゾンだ。

クレマン・ド・ブルゴーニュ Crémant de Bourgogne
Louis Picamelot
ルイ・ピカメロ
http://www.louispicamelot.com/fr/la-maison/depuis-1926/
louis_picamelot_Philippe_Chautard

フィリップ・ショタールさん

クレマン・ド・ブルゴーニュが変わるかもしれない

クレマンというと、どうしても、シャンパーニュとの比較で考えてしまう。とくにブルゴーニュは、品種も土壌も、シャンパーニュとの類似点が多いからなおさらだ。

「シャンパーニュは確かに、スパークリングワインの父といえるとおもいます。圧倒的なブランドでもあります。ただ、クレマン・ド・ブルゴーニュが常に、シャンパーニュとの比較において語られるようであれば、我々はいつまでたっても、シャンパーニュの代わり、のような存在のまま。それが正しいあり方とはおもえないんです」

と、語ってくれたのが、フィリップ・ショタールさん。ブルゴーニュの各所から、ブドウを買い、あるいは自社畑にて育てて、クレマン・ド・ブルゴーニュだけを造るメゾンの当主だ。

「私は3代目です。メゾンを創立したのが、ルイ・ピカメロで1926年のこと。シャロン・シュル・ソーヌで、ブルゴーニュのクレマン100周年を祝う大きな祭りがあったのですが、その数年後に、祖父は、独立して、当時はヴァン・ムスーという呼び名になりますが、自分のスパークリングワインを造り始めました」

曽祖父は樽職人。祖父はヴァン・ムスー製造の会社で経理を担当していたそうだ。フィリップさんは、ルイ・ピカメロ氏の娘の息子にあたる。

「1981年から働いていますが、当時のクレマンは甘いものでした。ドゥミ・セックがメゾンの中核で、ドゥーとかエクストラ・ドゥーと書かれたラベルをボトルに貼り付ける手伝いをした記憶があります」

現在は、甘いスパークリングは造っていない。中核を担うワインはクレマン・ド・ブルゴーニュの「ブリュット」で、それは30万から35万本程度の年間生産量のこのメゾンで、約3分の1を占める。

「ワインが好きな人が必要とするであろう情報はバックラベルに書いています。これは2015年のブドウで、32%ピノ・ノワール、38%シャルドネ、27%アリゴテ、3%ガメイ。澱引きが2016年7月2日、デゴルジュマンは2018年9月27日、ドザージュは6.75g/リットル。このワインは何に合いますとか、どんな味がします、とか書くよりも、こちらのほうがよいとおもいませんか?」

収穫年をまたいでのアッサンブラージュ、リザーブワインの使用はない。またブドウの樹は、クレマン用のものではなく、スティルワイン用の樹で、クレマン用にブドウを育てる。そして少量生産ながら、特定の畑のブドウから造ったクレマン、というものがある。スティルワインみたいだ。味にしてもそうだ。ここのクレマン・ド・ブルゴーニュは、この旅で飲んできたブルゴーニュのワインが発泡しているみたいだ。

オーガニック、自社畑などでラインナップをわける。シャルドネとアリゴテを混ぜるなどはあっても、同一テロワールが基本

「まさにそのとおり。ブルゴーニュのアイデンティティってなんでしょう?それはクリマです。我々には多彩なクリマがあり、それを表現した多様なワインがあります。私はクレマンであっても、それを表現しないのであれば、ブルゴーニュでやっている意味はないとおもうのです」

フィリップさんの考えは、いま、徐々に理解されつつある。ジャン・バプティスト・ショタールという、フィリップさんの父親の名前がついたキュヴェが、そのきっかけとなった。特殊なボトルの形は、熟成時に澱との接触のバランスがいいように、と採用している。搾汁の際に、中間にでてくる澄んだ果汁を、低温でデブルバージュして、その後40%程度を樽で、残りをステンレスタンクで発酵。ボトリング後、24カ月熟成。というのが基本的な造り方で、品種はシャルドネとアリゴテ。ドザージュは7g/リットル。これをレストラン「ラムロワーズ」の三代目、ジャック・ラムロワーズ氏が評価して、採用した。そこから、ルイ・ピカメロはガストロノミーの世界に知られるようになり、いまや、パリの名門レストランが、ルイ・ピカメロのクレマンをリストに載せているのだ。

記念すべきジャン・バプティスト・ショタール

louis picamelot 3

ブルゴーニュワインなので、フルートグラスは非推奨

フィリップさんのクレマン・ド・ブルゴーニュ造りの哲学は、昔から変わっていない。とすれば、近年、ガストロノミーがルイ・ピカメロを理解するようになった、ということですね。それはなぜだとおもいます か? とたずねてみると

「人為的な操作で、テロワールを隠してしまうようなワインが必要なら、あえてブルゴーニュワインを選ぶ必要はありません。なのにクレマンになった途端に、それをやめてしまう、というほうが、不自然ではないですか? ブルゴーニュのワインを愛するガストロノミーの世界が、おなじ発想に基づいたクレマンを求めない理由を考えるほうが、難しいのではないでしょうか」

言われてみれば、そのとおりのようにおもう。もちろん、考え方はシンプルでも、それを成し遂げるのは簡単なことではないのかもしれない。しかし、この考え方を採用する造り手が増えれば、ブルゴーニュのクレマンは、強烈なユニークネスを発揮するかもしれない。なにせ、ブルゴーニュは常にすでに、世界最高峰のワインのブランドなのだから。

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WINE-WHAT!? 編集部
WINE-WHAT!? 編集部
(『猫』の次は『三四郎』より抜粋。あ、中身とは関係ありませんでした……) 

三四郎は鞄と傘を片手に持ったまま、あいた手で例の古帽子を取って、ただ一言、
「さよなら」と言った。女はその顔をじっとながめていた、が、やがておちついた調子で、
「あなたはよっぽど度胸のないかたですね」と言って、にやりと笑った。