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セミナー「キアンティD.O.C.G.7つのサブゾーンのリゼルヴァ2015をテイスティング」より

講師はワインジャーナリストの宮嶋勲氏とキアンティ・ワイン協会のルカ・アルヴェス氏

7つのサブゾーンの地図、確認用。

キアンティ・ルフィナはブルゴーニュのニュアンス

4番目は、7つのサブゾーンのなかでは一番有名なキアンティ・ルフィナ地区。フィレンツェの東に位置する。

「ここはテロワールが際立った産地だと思います」と宮嶋氏。

「アペニン山脈に近い、冷涼な産地で、実際、飲んでみても、いままでのワインとはぜんぜん違います。香りがフローラルで、果実のトーンも今までの熟したチェリーとかではなくて、まだ熟していていない、イチゴとかでも熟していないから砂糖をかけてください、みたいな感じの赤い果実に、何よりフローラルなニュアンスが出てくるし、酸がフレッシュで、タンニンが厳格なんだけどキメが細くて、ボテッとしたグラマーさはないんだけど、持続性がある。いわゆる、バーティカルに持続性があって、ホントにキアンティ・ルフィナらしいワインだと思います」

「そうです。伝統的なキアンティ・ルフィナの典型、といえると思います」とアルヴェス氏。

「サンジョベーゼ100%で、山に近いところです。傾斜も急で、シエベ川が流れている両岸の右岸の北側で、森林が多い。非常に冷涼な、基本的にサンジョベーゼは完熟品種なので、サンジョベーゼの成熟が限界ぐらいの、むずかしい産地です。

収穫は10月の半ばぐらいになることもあります。サンジョベーゼは果皮が薄くて、デリケートな品種で、しかも10月の第1週ぐらいから雨のリスクが高くなる。

ブドウの成熟はキアンティのほかの産地よりもむずかしい。でも、ワインが荒々しいことはなくて、一番ブルゴーニュ的な表現をするのがキアンティ・ルフィナです。

香りがフローラルで、洗練されて、よりデリケートで、まだ未熟な赤い果実。今までは黒い果実でした。

昼と夜の温度差があって、収穫の時期に夜はものすごく冷えますので、酸が生き生きしたワインになる。より冷涼な気候で、昼と夜の寒暖差が大きいところではサンジョベーゼはフローラルなニュアンスが出てきます。より温暖なところは、チャーミングな感じとコンポートのニュアンスが出てくる。同じキアンティでもいろんな色調がある。

さらに、ルフィナの場合は、酸に支えられた長期熟成能力が非常に高い」

超トラディショナルなつくりかたをしていたキアンティ・ルフィナの、たとえば1970年代のワインは、最初の10年は酸っぱくて飲めません、という感じだった。それが、20〜30年経つと、ホントに素晴らしいワインになる、という例を宮嶋氏はあげてから、こう続けた。

「4番の場合は、標高が高くて、細身のタンニンとブルゴーニュのニュアンスが出ている。キアンティ・ルフィナのなかでも、一番アペニン的なキャラを持った、非常に魅力的なキアンティだと思います。ルフィナの場合、一番見分けやすい。独自のキャラが一貫してある。次は独立するんじゃないかかと噂されている産地でもある」

独立の噂を語る宮嶋氏はじつに楽しげだった。

サンジョベーゼ。

キアンティ・コッリ・フィオレンティーニは飲みやすい

5番目は、キアンティ・コッリ・フィオレンティーニ。フィレンツェの南に広がる丘陵地帯である。

「言い忘れてましたけど、今日飲んでいるのはすべて2015年。2015年は恵まれたヴィンテージで、ミラノ万博の夏で、非常に暑い夏でした。ブドウが完全に成熟したんですけど、2017年のような極端な暑さはなかった。40度とか45度とかはぜんぜんなかった」と宮嶋氏。ようするに2015年はいい年だった。

ということで、キアンティ・コッリ・フィオレンティーニである。

「これ、今まででのなかで非常に飲みやすいね。フィオレンティーニは飲みやすいワインができるというイメージがある。タンニンもあるんだけれど、優しいし、アレッツォみたいにタンニンがポテッと厚みがあるわけでもないし、普通に毎日飲めるような感じのニュアンスがありますね」と宮嶋氏が語り終わると、アルヴェス氏がイタリア語で話し始めた。

「ルフィナと隣接しているけれど、それより南で、丘陵がより優しい。標高も下がります。ルフィナに比べると気候もより温暖で、トスカーナの南のアレッツォなんかと比べると山寄りのキャラがある。ちょうどルフィナとアレッツォの間ぐらい。

サンジョベーゼにとって土壌、気候、温度、それに光の強さ、それから空気も非常に重要です。

サンジョベーゼの場合、カベルネとかサルバネと違ってブドウの実がグッと詰まっているので、カビとか生えないで健全な状態で完全に熟すには風が吹いていることと、光が当たることが重要です。ピサ地区のように光が強くて、暖かいところだと早く成熟しますし、ルフィナは山間にあるので日照時間も光も少ないところでは、よりフィネスが出ます。テロワールにいろんな要素が組み合わさってワインができます」

ということで、中間のフィオレンティーニは、シンプルといえばシンプルな、飲みやすさを特徴とする。さらにアルヴェス氏がちょっと違う観点から次のように語った。

「今日のワインのなかで、いま、一番飲み頃のワインだと思います。

サンジョベーゼ100%で、伝統的なワインといえると思いますけど、非常にクリーンで、軽やかさと飲みやすさがあって、酸も生き生きとしていて、非常に近代的で、ボトルを開けて『どうぞ』と飲めるタイプのワインです。

キアンティにはふたつの面がある。トスカーナに根付いている、素朴な農民の毎日の飲み物である面と、国際的に成功して輸出されている面がある。

いま、70%ぐらい輸出されているけれど、あまり気取ったワインにならない方がいい。農夫にデイリーに飲まれていたルーツを否定しないほうがいい。近づきやすくて、わかりやすさ、親しみやすさを持っている、本来の場所は食卓の、食事と一緒に楽しむワインなのです」

セミナーはいよいよ佳境へ。

キアンティ・モンタルバーノはタンニンが荒い

「6番目はキアンティ・モンタルバーノに行きたいと思います。

フィレンツエの北の丘陵地帯でつくられるキアンティである。

「これもぜんぜん違う。タンニンが荒い。テロワールとしては4番目のキアンティ・ルフィナに似ているというんだけど、1970年代とか、私が飲み始めた頃のキアンティはみんなこんな感じ。タンニンのキメが荒い。肉料理が欲しい、みたいな感じ。ルカ(・アルヴェス)さんの意見を聞きましょう」と宮嶋氏。

「より暑い印象、より荒い印象を与えます。ルフィナの洗練された印象から、サンジョベーゼらしい荒い感じが出ている。で、ボリュームが途中から出てきます。後口は、甘さを感じさせ、タンニンがうまく溶け込んでいる。だけど、特に5番とのコントラストは強烈ですね。5番がいま飲めるんだったら、こちらはあと3〜4年待ったほうがいい感じです。特に4番、5番、6番と流れてくると、キアンティ・ルフィナの繊細なシルキーなトーンから、ここにきてイッキに『肉ちょうだい』モードに入る感じですね」

こう、アルヴェス氏のことばを訳したのに続けて、宮嶋氏は自分の経験を付け加えた。

「ただ、トスカーナの場合はこのタイプが多くて、食べていたものもそうですよね。トスカーナの料理って基本的には美味しいけれど、なんの芸もないでしょ。ただ炭で焼いただけみたいな感じで。

昔、取材なんかで行くと、よくアグリツーリズモで泊めさせられたりとか、夜歩いて(近くのレストランに)食べに行ったりとかすると、もちろんこんな上品じゃなくて、もっと荒いハウスワインしかなくて、でも、意外とそれはそれで、こんなに焦げたらガンになるでしょ、というように焼いた肉と一緒に食べると微妙に美味しかったりするんですね。

さっき、ワインは食事の一部という話が(ルカさんから)出ましたけれど、当然食べているものによって選ばれてくると思います」

これも単一畑で、2015年のリゼルヴァということで、6番目にいたってリゼルヴァについてアルヴェス氏からコメントがあった。

「キアンティはリゼルヴァが伸びています。キアンティでは、基本的にはできたてを1年で飲んじゃうワインをつくっていました。庶民のデイリーワインの需要が圧倒的に多かったから、長期熟成能力があるとは自分たちで気づきもしなかった。長期熟成できる産地だと考えもしなかった。

需要が生まれるから、そういうのをつくってみようと思ったわけです。

1960~70年代のキャンティのブドウ畑の写真を見ると、仕立て自体、大量生産に向いているつくりかたをしている。

今は、ヘクタールあたり5000〜6000本植えている。20年前は半分の2500本とかで、畝が1.5〜2mあって、非常に広かった。ブドウの房自体が地上から高い位置にあって、土壌からいろんなものを吸い上げるというコンセプトが、いまとは違っていた。

1本あたりのブドウの木からたくさんのワインをつくってもいた。

いまは畝が狭くなりましたし、ブドウの房がより地面に近づく状態で栽培されている。収穫でも、いいブドウだけを醸造に回すようになった。ブドウ栽培技術も上がって、リゼルヴァをつくるようになって、長期熟成能力があるんだと気づいてきた。これは、キアンティ全体がそうです。

どっちが美味しいかということではなくて、キャラが違うということです。ただし、リゼルヴァにすると、当然、時間が必要です。ある程度熟成させて飲むわけですから。

今日のサブゾーンの名前がついたワインはテロワールが表現されていて、どれも美味しい。

でも、キアンティのサブゾーンの名前がついている、いいワインができても、それをちゃんと消費者とコミュニケートして、高いお金を払って買ってくれるお客さんがいないと、継続してつくることはできない。イタリアの場合は、それがうまくない。

たとえばキアンティ・クラシコのいいものと価格帯がぶつかって、こちらを選んでくれる消費者をつくっていかないとダメなんですね。そういうコミュニケーションの問題は、イタリアの場合はつねにある」

宮嶋氏の場合、アルヴェス氏のことばに誘発された宮嶋氏自身の意見を加えている場合があるようなので、以上は宮嶋氏の意見も渾然一体となっている、のかもしれない。なるほどワインに限らず、ビジネスには、あるいはビジネスに限らず、コミュニケーションというのは重要なのである。

かつてフィレンツェをライバルとして栄えた都市国家シエナ。鐘楼は1344年竣工。

キアンティ・コッリ・セネージは黒い果実のトーン

最後の7番目は、シエナの南のキアンティ・コッリ・セネージ。モンタルチーノとモンテプルチアーノも入る地域である。

「これもまた、キャラが立っているというか、広がりがあって、果実が熟していて、南のトーンがあって、たぶんブラインドで試飲しても、どちからというとトスカーナより南の産地でしょ、と当てられそうな気がするんですけれど……。

シエナからちょっと南に行くと、ブドウ栽培ができないぐらい粘土が強い土壌で、小麦とかにはいいんですけれど。ですから、シエナの南の右にモンテプルチアーノがあって、下にモンタルチーノがあり、あいだにオルチャ渓谷がある。粘土が多いところではフルボディの、ジェネロス(generous 気前のいい)というか、こういうワインができています。内陸的な要素よりも、もうちょっと寛いだ要素があります」

宮嶋氏はそう7番目のワインの感想を述べてから、ルカ・アルヴェス氏の選んだ7つのサブゾーンのワインの試飲についてポツリとつぶやいた。

「こうやって飲むと、ホントに違いますよね。なんでひとつの呼称にしたんだ、というぐらいの違いがありますよね。

でも、コミュニケートのむずかしいところで、ベースのキアンティはデイリーで農夫の食事の一部だった、というのも魅力なわけです。それプラス、こういう、いろんな可能性がある、と。

ただ、キャンティというイメージも完全に確立していないところで、あんまり広げすぎると、私たちにとっては魅力的なんだけれど、一般のひとにとっては、『あ、めんどくさい。……ビール持ってきて』となってしまう。
いきすぎると、……むずかしいところですね(笑)」

グラスが全部空いている。

アルヴェス氏による7番目のワインの紹介は次のごとくである。

「7番目のワインは、7つのサブゾーンのなかではいちばんボディの広がりがある。ルフィナの熟れてないチェリーがどんどん熟成してきて、赤い果実というより、黒い果実のトーンが出ている。土壌がぜんぜん違う。ここは砂と粘土です。

より早くブドウができて、よりボリューム感があって、よりアルコールが高いワインが生まれやすいところです。

ルフィナのフラワリーなイメージではなくて、こっちはもっとブドウが成熟して、太陽に恵まれた産地なんだな、という印象を与える。こう変わってくるところを『万華鏡』と表現したかったのです」

Luca Alves, Consorzio Vino Chianti

キアンティはジーンズみたいなものである

ルカ・アルヴェス氏の話のつづき、として宮嶋氏はさらにこう語った。

「サンジョベーゼの場合、昔は酸っぱすぎることが問題になったぐらい基本的に酸が多い。これが同時にフレッシュさという魅力になっていて、酸が欠けることはない。キアンティは、過剰にフルボディになることはない。通奏低音はつねに酸の軽やかさ、エレガントさ、飲みやすさがあって、その上にそれぞれのテロワールのニュアンスが加わってくる。

その次に、生産者の手、クセが加わる。最後のコッリ・セネージは、柔らかい、より広がりがあると思います。

キアンティはジーンズみたいなもので、それ一着で通せる。ジーンズでも、最近は着こなし次第でパーティにもいけるし、三つ星レストランにもいけます。スモーキーを着て、居酒屋はおかしい。そういう意味でキアンティは色々な応用がきく。

キアンティの特徴は、食卓でひととひとを結びつけて幸せな時間をつくることです。日常生活の食卓の中でワインを楽しむというスタンスを忘れないで、キアンティを楽しんでいただきたい。

セミナーのあとで、どのワインが一番好きですか? というような質問がよくありますけれど、そういうことはやめましょう。どれがベストかということはあり得ない。

どれが好きかということはあっても、それは一瞬のことで、意味のないことです。いろんな料理と合わせて、あの日にあの料理と合わせて飲んだときに美味しかった、ということはある。でも、それ以外はあり得ないと思います。

このように一所懸命聞いていただいたのは初めてです(笑)。

イタリア現地に来ていただいて、いろいろ料理を食べて、試してください。どうもありがとうございました」

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