コート・デ・ブランのル・メニル・シュール・オジェ村にある単一畑「クロ・デュ・メニル」。数年前から除草剤を一切使用していない。写真の区画は最も日当たりの良い「ル・プレソワール」。

クリュッグの原酒を体験

イベントはそのクロ・デュ・メニルの畑からスタートした。2004年の「クロ・デュ・メニル」で歓迎を受けながら、シェフ・ド・カーヴのエリック・ルベル が語り始める。

「ご覧のとおり1.86ヘクタールの小さな畑ですが、私たちは6つの区画に分けて、別々に醸造しています」

日当たりのよい区画と木の陰に隠れる区画ではブドウの生育が大きく異なり、熟度は1度も違うという。

そしていよいよ畑に隣接する建物の中で、昨年、つまり2018年のヴァン・クレールの試飲が始まった。18年は1月だけで500ミリもの雨。春に雹をとも なう雷雨もあったが、夏は暑く、好天の日が続いたという。8月15日からブドウの食味を始め、酸が下り始めていることに気づき、17日に醸造チームが集まって協議した。pHは低くフレッシュであり、収穫はまだ早いとの結論に達した。クリュッグでは桃など白い果実の香りが出始めたら熟し過ぎで、柑橘系の香りがあるうちに収穫するのが鉄則。収穫開始は 8月23日、メニルのコロワ・ド・オーから始まった。例年最初に摘むのはクロ・デュ・メニルの最も日当たりの良い区画であるル・プレソワールだが、18年はその2日後に収穫したという。

 試飲した18年のヴァン・クレールはシャルドネが4種類、ピノ・ノワールが3種類、ムニエが3種類。いくつか印象的だったワインを挙げると、シャルドネはやはりクロ・デュ・メニルのル・プレソワールだ。集中度が段違いに強く、テンションも高い。「密度がすごい」とフィガロ紙に寄稿するベルナール・ブッチが言う。

 

この年のピノ・ノワールはモンターニュ・ド・ランスの北部も南部も同時に収穫が始まり、しかもシャルドネと同じ8月23日だったという。興味深かったピ ノ・ノワールは、ヴェルズネのピス・ルナールという区画のもの。そのフレッシュさとエレガントさに感心しきり。エリックが「研ぎすまされた品の高さ」と、そのイメージを表現する。

ムニエはサント・ジェムのクロ・ヌフ。クリュッグと30年以上の付き合いがある協同組合のブドウで、フレッシュで力強さも備わる。長期熟成には不向きとムニエを軽んじるメゾンもある一方、クリュッグではこのサント・ジェムのムニエがアッサンブラージュの鍵を握ることも少なくない。

そしてさらに6種類のリザーヴワインを試飲。2017年のサント・ジェムのムニエは目の覚めるような酸をもち、2012年のヴェルズネのピノ・ノワールは北向きのクリュにもかかわらず豊潤。最も古い2007年のオジェのシャルドネが、まだまだフレッシュさを保ち続けていることには驚くばかりだ。

2018 年収穫のヴァン・クレール(アッサンブラージュ前のワイン)。クリュッグでは酵素を使って強制的に色を落としたりしないので、ピノ・ノワールはまるでロゼのように色が濃い。

174回目のリクリエイション

ここで初代ヨーゼフ・クリュッグが残した手帳の話に戻ろう。あるページには次のような一節が記されている。

「原則として、質に差のないふたつのキュヴェを造るべし。ひとつはつねに表現の一貫したもの。もうひとつは年に応じて表現の異なるものなり」

毎年表現の一貫したキュヴェとはもちろん、クリュッグが誇るアッサンブラージュの芸術作品「グランド・キュヴェ」である。ヨーゼフはこの究極のシャンパーニュを造るため自身のメゾンを立ち上げ、創立翌年のブドウを用いて、1845年に初のグランド・キュヴェのアッサンブラージュを実現した。翌年以降は、このオリジンの再現(リクリエイ ション)という解釈にもとづき、今日、グランド・キュヴェにはエディションナンバーが振られている。

この春にアッサンブラージュされた、2018年のワインを主体とするグランド・キュヴェは、数えて174回目のリクリエイション。その174エディションがグラスに注がれた。

誤解のないように言っておくと、先に試飲した16種類のワインは、リクリエイションに用いられるほんの一部に過ぎない。実際には250種もの2018年のワインと、150種ほどのリザーヴワインがアッサンブラージュの対象となる。

クリュッグの醸造チームは毎日、感覚の研ぎ澄まされた午前11時にワインを試飲。「ブラックブック」と呼ばれるデータベースに記録していく。合わせて約400種類のワインをチームの6人が2回づつ試飲するため、合計4800のコメントが記録される。そのようにして得たデータを元にアッサンブラージュを繰り返し、この春完成したのが174エディションというわけである。

174エディションは64パーセントの2018年のワインと、36パーセントのリザーヴワインから成り、品種構成はシャルドネ29パーセント、ピノ・ノワール54パー セント、ムニエ17パーセント。143種類の異なるワインがアッサンブラージュされ、それは10の異なるヴィンテージにまたがり、最も古いリザーヴワインは2001年のものである。

最も若いワインとリザーヴワインの比率がおおよそ6対4のグランド・キュヴェにしては、若干リザーヴワインが少なめ。それは酸が相対的に低めの2018年が、リザーヴワインでさらに重くなることを避けたためである。

クリュッグの醸造チームによってアッサンブラージュされたキュヴェを試飲した時の印象は、いつも変わらない。深く奥行きがあり、幾重にもレイヤーが重なり、そしてフレッシュである。ここから少なくとも6年の瓶内熟成を施すため、フレッシュさは重要な要素なのだ。

7年前の記憶がよみがえる167エディション

次に場所をランスのメゾンに移し、完成したグランド・キュヴェを試飲する。最新のエディションは「167」。最も若く、構成比率の高い年は2011年で、2012年にアッサンブラージュと瓶詰めが行われた。じつは筆者はこの年にもメゾンを訪問し、2011年のヴァン・クレールとリザーヴワイン、それにアッサンブラージュを終えた瓶詰め前のワインを味わっている。それが瓶内二次発酵と6年の熟成を経て、気泡を纏ったシャンパーニュとなり、こうしてふたたび会いまみえることになったのは感慨深い。

記憶を遡れば、「2011年はカオスの年」とエリックが言っていたことを思い出す。開花前は気温が高く、天候も良好。しかし開花後、雨がちの日が続いた。結果として、コート・デ・ブランのシャルドネは糖も酸も不足気味。これを救ったのがリザーヴワインである。167エディションは2011年のワインが58パーセント、リザーヴワインが42パーセントとなっている。マロラクティック発酵が起きず、酸が高めのリザーヴワインをアッサンブラージュに用いて、これを補ったという。

7年前に試飲した瓶詰め前のワインを思い出しながら、167エディションを味わう。澱とともに6年寝かされたそれは、さらに緻密で肉厚が増し、際限のない奥行きをもつ。懸念していたフレッシュさも、後口にキレのよい酸として感じられるではないか。いかに困難な年でも完成すればやはりグランド・キュヴェ。表現の一貫したシャンパーニュである。

一方、ヨーゼフが造るべしとしたふたつ目のキュヴェ。年ごとに表現の異なる「ヴィンテージ」は2006年がお目見えした。

一貫した表現をもつ第一のキュヴェ「グランド・キュヴェ」(右)と、年に応じて表現の異なる第二のキュヴェ「ヴィンテージ」(左)。前者は2006年主体の「162 エディション」、後者は「2006」。

気温30度以上の日が23日間も続き、8月には2週間で2ヶ月分の雨が降るという気まぐれな年。それを反映して、豊潤で凝縮感に富み、まろやかなテクスチャーに仕上がっている。同時に2006年を主体とするグランド・キュヴェの162エディションを味わってみれば、こちらはリッチネスとともにフレッシュさがよい按配で調和。表現の一貫性はここでも保たれていた。

今年アッサンブラージュされた174エディションは果たして、どのような表現でわれわれを喜ばせてくれるのか。それがわかるのは6年以上も先の話である。

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WINE-WHAT!? 編集部
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