ナパ・ヴァレーのワイン生産者団体ナパヴァレー・ヴィントナーズは今年、設立75周年を迎えた。日本での活動も活発で、東京においては、石田博氏によるナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンについてのセミナーが開催された。日本のトップソムリエ 石田博は、イマドキのナパカベをどう評価し、いかにして売るのか?

石田氏というとフランスのイメージが強かった筆者。意外にもおもえる組み合わせだったけれど、実はナパを度々訪れ、その付き合いはキャリアの初期から20余年に及ぶそう

ナパカベは希少で高級である。

「日本ソムリエ協会のセミナーに出席しなれている方は、今回、グラスに注がれたワインの量が少ない、と感じられたのではないでしょうか?」

日本ソムリエ協会の副会長である石田博氏は挨拶のあと、そんな発言からセミナーをはじめた。このセミナーはナパヴァレー・ヴィントナーズと日本ソムリエ協会とによる、プロ向けのセミナーで、テーブルの上にはそれぞれコースターで蓋をされた6つのグラスが置かれていた。その中の深い紫色のワインはナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨン、いわゆるナパカベだ。

日本ソムリエ協会のセミナーに出席しなれていない筆者には試飲セミナーでこれだけのワインは充分豪華におもえるのだった……

「それは、ナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンが高級だからです。カベルネ・ソーヴィニヨンといえば、チリ、オーストラリア、南アフリカ、南仏……価格に比して品質の高い、手頃なワインが市場のマジョリティーです。そのなかでナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンは別格に高い」

実際、1本5,000円以下のナパカベ、というのは日本ではなかなか見つからない。ゆえにプロがこれを売るとなれば、どうしてナパカベは他産地のカベルネ・ソーヴィニヨンより高いのか、を相手に納得してもらわなくてはならない、というわけだ。安いから、とか、なんとなく、では売れない。そこにプロの出番がある。石田氏はこう言う。

「高いものを売るには知識が必要です。ストーリーを語れるようになること。そのストーリーというのはえてしてドラマチックなものではないかもしれません。私はナパのカベルネ・ソーヴィニヨンは、シャンパーニュに似たところがあるのではないかとおもいます。日本はワイン全体でいえば世界で15位から20位くらいの市場でいつづけていますが、シャンパーニュにとっては世界3位。ナパヴァレー・ヴィントナーズさんも、日本を最重要市場のひとつ、と考えています」

日本では高級なワインが売れるのである。価値の分かるお客さんはいる。だからプロたるもの、ナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンの価値を、演劇めいた誇大広告のような方法ではなく伝えられるようになろう、ということだろう。

あらためて言われると意外な気もするけれど、ナパ・ヴァレーのワインというのは生産量でいうと、全カリフォリニアワインのうちのたった4%にしかならない。ナパ・ヴァレーといった時点ですでに、カリフォリニアのワインのなかでも、特別な存在、ブランドなのだ。そしてそのごくわずかなワインのなかに、いくつものAVA、特徴的な畑のワインがある。

ナパカベはゴージャスでも厚化粧ではない。

石田氏は、ナパ・ヴァレーのワインの歴史を語ったあと、その特徴をこんな風にまとめた。

石田氏によるナパ・ヴァレー抄史の最初の部分。WINE WHAT onlineのこちらなども合わせてご参照ください

「ナパ・ヴァレーのワインはスタイルが一貫しています。壮麗で明快。スケール感があり、雄大で、ゴージャスでグラマーです。ワインの味というのは、政治や経済の影響を受けやすいものです。一貫したスタイルを保ち、受け継いでいく、というのは簡単ではありません。営利団体、企業であれば、売れるものを造るのはあたりまえ。ニーズに合わせてワインが変わるのは不思議なことではありません」

それではなぜ、ナパのワインには一貫性があるのか、というと

「理由のひとつに、家族経営のワイナリーが非常に多いことが挙げられるとおもいます。伝統を受け継ぐには大きな組織より小さな組織のほうが向いているのではないでしょうか? 親のワインを子が継ぐ。家族の味を引き継いでいくことで一貫性が保たれると考えます」

ナパ・ヴァレーのワイナリーはその95%が家族経営だそうだ。石田氏はそのなかから、いくつかの新世代へと受け継がれているワイナリーの名を挙げた。それらは日本でもよく名の知れたワイナリーだ。しかし、だからといってである。本当に時代に無頓着で、なんの変化もなければ、さすがに売れなくなるのではないか? もちろん、ワイナリーにはそのワイナリーのファン、支持者がいるだろうけれど、名門とされるワイナリーが単に古色蒼然としているだけとは考えづらい。

「ワインが力強いのはナパの一貫性です。しかし、それを保った上で、世代交代によってワインに現代的な要素が加わる。これまでとは、まったく異なる価値観をもった、ミレニアルズのワインメーカーと呼ばれるような、新世代の造り手も登場しています。そして、スプリングマウンテン、マウントヴィーダー、ダイヤモンドマウンテンといった標高の高い畑の追求、カリストガ、オークノール、クームズビルといった新しいAVAの認定、また、シングルヴィンヤードによるテロワール……いまの若いソムリエであれば英語でセンス・オブ・プレイスというでしょうか、その表現。新しいスタイルが、重たくならないワイン、甘み、ボリューム感があるけれど甘ったるくはない、制御されたワインを生み出しています」

ナパ・ヴァレーのブドウは多くがヴァレーの間の平野部、ヴァレー・フロアで栽培される。地中海性気候のそこは、日中は温暖で、土壌は火山性と海洋性の双方が混ざるけれど、ナパ川の氾濫による影響もあって肥沃だ。アメリカンテイストを感じさせる力強く濃厚なワインが生まれる背景には文化的な理由だけではなく、環境的理由もある。

「私はアーリーピッカー、つまり早い時期にブドウを収穫する造り手が増えたという声を聞くこともあります。それは過熟をさけ、より酸味やエレガンスを重視したいからでしょう。たとえば、フランスのボルドーではブドウが熟して過熟になるまで1週間の余裕があり、初期、中期、晩期と熟したブドウの熟度をわけられる、といいます。ナパではそれが1日でおこるとも。熟度の見極めが難しく、過熟になりやすいのです。この20年ほどで、ナパ・ヴァレーでは熟度のコントロール、区画の理解、適切な樹高や樹勢、植樹密度の把握が進み、より冷涼な山肌の畑での挑戦といったこともなされています。ナパ・ヴァレーはサステイナブルな農業にも昔から積極的ですが、それだけでなく、天然酵母やニュートラルオークという言葉もよく聞くようになりました」

愛する土地の特徴を反映した最高のブドウを育て、そのブドウがもっとも輝くタイミングで収穫し、それを人為的に操作しすぎず、ピュアにワインへと仕上げ、ボトルのなかに、自然と人との物語を閉じ込める。いま、世界中のワインがそういう方向へと向かっていると感じるけれど、それはナパ・ヴァレーも例外ではないのだ。より精密なワインは、単にパワーだけではない複雑さをもち、冷涼な産地のワインに似た繊細な表現をなす。

いいかえれば、ナパのワインはグラマーでゴージャスだけれど、決してでっぷりとしているわけではなく、ひきしまっていて、メイクはナチュラルなのである。

6種類のナパカベテイスティング

さて、ここからは、そんな座学を実際に体験してみよう、ということでテーブルの上のグラスに入った6種類のナパカベを試飲してゆく、ブラインドテイスティングがはじまる。ここではブラインド、というわけにもいかないので最初から答えを書くけれど、おなじナパカベでも、産地や造り手が目に浮かぶような個性的な6本だった。

左から順に試飲しております

最初にでてきたのは、「テキストブック」というワイナリーの2017年ヴィンテージ。オークノール、ラザフォード、カリストガ、オークヴィルと、カリストガのみ、若干、北に離れるけれど、畑はワイナリーとブドウ畑が集うナパの中心地のもの。ヴァレー・フロアだ。テキストブックという名は、ナパワインの手本、といった意味だろう。

石田氏は

「いま、あらためて、テイスティングしても、ナパのカベルネ・ソーヴィニヨンの一貫したスタイルを感じます。ピュアで率直。フルーツの印象がストレートに表現されている。芳香性は高く、フルーツのピュアさ、そして土っぽさも感じられ、それが深みを与えています。味わいはスムーズでなめらか。熟度の高さからくるジューシーさ、後半にかけて噛めるようなチューイーな食感。タンニンは、なめらかでスムーズ。また、線が細いワインのようにも感じられますが、開栓後数日たってもしっかりしているんです。芯の強さもあります」

コールドソークという、発酵前にブドウの果実をタンクにいれ低温で抽出する技も使用している。というよりもナパカベにとっていまやコールドソークはあたりまえの手法の一つ。これは低温マセレーションとも呼ばれ、タンニンやフェノール、アントシアニンといった化合物を、発酵させずに引き出す。何事もやりすぎると過剰になるけれど、これを適切におこなえばアルコール発酵後のマセレーションが短くなることもあり、渋みの荒々しさなどは減じることができるし、よりよく抽出された化合物がワインにさらなる複雑さを与える。ブドウのポテンシャルを引き出す技だ。

2番目が、「ナパ・ハイランズ」の2016年ヴィンテージ。こちらはヨーントヴィルとオークヴィルのブドウで、やはり、傾向としてヴァレー・フロアのワインだけれど、ちょっと山っぽい感じというのか、さわやかな酸味を感じる。ヨーントヴィルのブドウゆえか。

石田氏は

「生き生きした活力が湧き上がってくるワインです。ちょっとミント系の香りがあります。スパイシーさ、アロマティックハーブ、セージやオレガノの風味。カベルネ・ソーヴィニヨンらしい香りです。味わいは、ジューシーでたわわなフルーツのイメージ。甘み、アルコール、酸、タンニンにはまとまりがあり、余韻に旨味があります。木樽の印象ははっきりしていますね。ローストした木樽によるものです。主張がはっきりしていて明快。クラシカルなナパスタイルのワインです」

3番目は評判のいいハンバーガー屋さんをやっていることでも有名な「ジョエル・ゴット」の2014年。奥ゆかしくエレガントなワインだ。単にナパ・ヴァレーとなっているだけで、詳しいブドウ産地は不明。ジョエル・ゴットは産地・区画をまたいでワインを造る造り手だ。各所の優れたナパカベを絶妙にブレンドしているのだろう。

石田氏は

「まとまりがいい洗練された印象です。香りも味も調和がとれている。カシスの香り、バニラ、チョウジやナツメグのようなスパイス、そして抑えのきいたミント系の香りがアクセントになっています。味わいも調和があり、奥行きがあります。中間に強さがあるタンニンもありますが、フレッシュなタンニンが味わい全体をリフレッシュしてくれて、飲み終わったあとは、さわやかです。上品で繊細。今のボルドースタイルに近いといえるかもしれません」

こちらがナパ・ヴァレーを訪れたワイン関係者は大体行くジョエル・ゴットのハンバーガー店「Taylor’s Refresher”(現在はGott’s Roadside)」。かのロバート・パーカー氏がこの店のアヒバーガーを世界一と絶賛し、スター醸造家に出会える店との話も……

4番目は「テラ ヴァレンタイン」のスプリングマウンテン 2014年ヴィンテージ。テラ ヴァレンタインのワインはラベルにハートマークがついていて、愛を打ち明ける際に飲まれることもあるというワインだ。

スプリングマウンテンはナパでも伝統的な山の産地。ブドウの栽培がされているのはナパワインの作付面積中でも5%にも満たないほどの小さなエリアだ。山の畑はどうしても生産効率的にコストが高くなりやすく、ブドウ栽培がほとんどされていない時期もあった。しかし、表土が薄く痩せた土壌、ヴァレー・フロアよりも冷涼な気候、良好な水はけ、そして環境が保全されていることから生物多様性もあり、ヴァレー・フロアより、果実が樹になっている時間を長くとれ、粒が小さく凝縮して構築的なブドウが収穫できるため、ワインの道を追求する人々にとっては、その限られた土地に畑をもつ人が羨ましい、という産地だ。

このワインは標高700メートル、火山性の土壌で育てられたブドウで造られている。

石田氏によると

「スパイシーさが感じられます。余韻に凝縮度と舌をつかむようなタンニン。火山性土壌の特徴ではないでしょうか? カシスやウッディなアクセントがあり、まとまりのあるワインです。クリーミーで厚みがある。カベルネ・ソーヴィニヨン80%で、ここにメルロー、カベルネ・フラン、プチ・シラーがブレンドされています。それも味わいの層を造っています」

5番目は「ヘス・コレクション」のマウントヴィーダー 2013年ヴィンテージ。ヴィーダー山はカリフォルニアワインを語るときに毎回でてくる伝説といっていい、カリフォルニアワインがフランスワインにまさる評価を得たパリ・テイスティングに出場した「マヤカマス・ヴィンヤーズ」の畑がある場所で、現在でも高級にして希少な、ときにカルトワインなどといわれるワインに使われるブドウの産地として有名な山。山の畑であると同時に、海からの冷涼な風の影響を受けられるところも得難い特徴。ヘス・コレクションはヴィーダー山のカベルネ・ソーヴィニヨンといえば、必ず名前のあがるワインだ。ブラインドで飲んでも、これはコース料理の主役をかざるような特別なワインだな、と感じさせる凄みがある。

ナパ・ヴァレーの立体地図。写真左上のあたりにスプリングマウンテンがあり、そこから連なって、左下のあたりにヴィーダー山がある。ナパ川が走る山脈の合間の平野部がヴァレー・フロア

石田氏も

「超プレミアムワインですね。優雅でゴージャス。これぞナパといえる、リッチなカベルネ・ソーヴィニヨンです。ボディもグラマー。それが余韻にかけて、重たくなく残っていくのが、現代のナパ・ヴァレーの革新、スタイルだとおもいます。アルコール度数は14.8度もあります。普通、これくらいのアルコール度数だと、口に入れた瞬間、熱さ、刺激を感じるものです。しかしこのワインは、アルコール感が強くない。ブドウの成熟期間が長くもてる山の畑ならではでしょう。なめらかさや食感を先に感じます」

最後の6番目。「クヴェゾン ブランドリン マウントヴィーダー」というワイン。2014年ヴィンテージ。

左がヘス・コレクション、右がクヴェゾン

石田氏は

「凝縮感と同時に複雑さもしっかり感じられ、土っぽさ、タバコのような香りが感じられます。緻密さ、まとまりのよさも感じます。舌の上をつるっとすべっていくような凝縮度があり、ジューシーです。タンニンは豊富だけれど、密度が高い。豊かなジューシーな食感にまとまっていっています。そして、重たい印象でおわっていかない、新しいスタイルです。砂質の土壌が粗さのない緻密な味わいにつながっているのでしょう」

筆者、これにかんしては特に、凝縮という言葉を強く感じた。液体の内に、色々な要素が隠れていて、それがもっている味わいが口に入れてもすぐには広がらず、わかりにくい印象を受けたのだ。

そんな筆者の感想を知ってか知らずか、石田氏の話はここから、サービスの仕方にうつってゆく。

まずは温度。これを石田氏は、「これだけしっかりしたワインであれば、セオリーでいえば高い温度でサーブすることになりますが、幅を広く持てるのはナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンの特徴だとおもいます」という。「16度くらいからでも十分に豊かさを感じられ、また、タンニンも、荒く収斂味が強いものではないですから、フレッシュ感も味わってもらえます。そして22度くらいでも十分にサービス可能だとおもいます。ボトルでなら低い温度からゆっくりと温度があがっていくのを楽しんでもらえるでしょう。カベルネ・ソーヴィニヨンはフランスでは18℃くらいでキープするのがよい、といわれます。しかし、ナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンであれば、低めの温度、高めの温度、とサービスの幅が広くもてます。バイザグラスでも、どこで出すか、温度で選べるでしょう」



「グラスといえば、いまソムリエは小さなグラスを選ぶ傾向がありますが、こういうワインであれば大きいグラスがいい。注ぎたてはアルコールが強く感じられてしまうので、少しアルコールが抜けた状態、時間がたったほうが本来のワインの味わいがわかるとおもいます。空気接触したほうがいい。「ワイングラスはもう回さない」という本をだしたばかりですが、このワインについては、グラスを回していいでしょう」

今回のセミナーでワインがすでにグラスに注がれていたのには、テイスティング前に空気に触れさせておく、という理由があったようだ。

最後にペアリングについて。「咀嚼時間が長く、風味が口の中に長く続くものがいい」としたうえで、「グリル料理と相性がいいのも、得難い個性だとおもっています。グリルは人気のある調理法ですが、ヨーロッパの伝統国のワインは、炭の香りとの相性があまりよくない場合がおおい。炭の香りと木樽の香りというのは、それほど合うのもではないのです」

とのことだ。

高級で、そんなに頻繁に飲めるようなワインでもないナパカベ。しかし、ここぞというときに、ゆっくりと楽しめば、アメリカの広大で豊かな自然のなかでくつろいでいるような特別な時間が訪れるにちがいない。炭の香りなんかしたら最高だ。

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WINE-WHAT!? 編集部
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