地球温暖化は農業に深刻な影響を与える。スペインの名門ワイナリー「トーレス」は、これをフィロキセラに匹敵する問題ととらえ、戦いをはじめている。

お話を聞いたトーレスの5代目、ミゲル・トーレス・マクサセク氏

スペインの名門

「トーレス」はカタルーニャ州のスティルワインの大手生産者だ。牛が描かれた「サングレ・デ・トロ」はとりわけ広く知られている。テーブルワインの一大生産者であると同時に、ファインワインの名門でもある。シャトー・ムートン・ロスチャイルドやアンティノリといった家族経営の12の名門ワイナリーからなる「プリムム・ファミリエ・ヴィニ」の一員なのだ。

ワイナリーとしての歴史は来年150年。スペインの、フランスとの国境に近いバルセロナの近郊、ペネデス地方を拠点にワインを造りつづけている。そして、同家はブドウの栽培家としての歴史は300年を誇る。17世紀からペネデスでブドウを栽培していたトーレス家は、1870年に石油産業、海運業で成功したハイメ・トーレスがタラゴナ県ヴィラフランカ・デル・ペネデスに、兄とともに「ミゲル・トーレス」というワイナリーを設立した、という歴史をもつ。

スペインを代表する高品質ワインの造り手として、現在にまでつづく評価を確立したのは、1970年代以降。4世代目にあたるミゲル・A・トーレスは、スペインにおいていち早くシャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ピノ・ノワール、リースリング、ゲヴェルツトラミネールといった国際品種の栽培を開始した。それらのブドウは、クローンの選別を受け、ブレンドのほか、単一品種でテロワールを表現したワインも造られ、ステンレスタンクもいちはやく導入された。現代的なワイン造りを実践し、モンダヴィ家やアンティノリ家など、世界中のワイン造りの名人がカベルネ・ソーヴィニヨンの高品質ワインで名声を高めた時代に、トーレス家もまた、カベルネ・ソーヴィニヨンの「マス・ラ・プラナ」をもって、世界的なプレイヤーとなったのだった。

さて、このスペインの質・量、両方でのリーディングワイナリー、トーレスを現在率いる、5代目、ミゲル・トーレス・マクサセクが、先だって来日して、東京タワーのお膝元、「とうふ屋うかい」にて、トーレスの最新のワインをお披露目するディナーを開催した。ここでは、その時に語られた、スペインワインの最前線をご報告したい。

今回のワイン。日本では2015年からエノテカが代理店

選ばれた世代

筆者は、ワインの造り手に出会ったときには、いつも、温暖化についてどう考えているか、という質問をしているのだけれど、ミゲルさんは、問うまでもなく、その話を、会のほとんど冒頭にもってきた。

「私たち、トーレスは来年で150周年を迎えます。1979年に外国資本として初めてチリに進出。私の叔母はロシアン・リヴァー・ヴァレーで「マリマー・トーレス・エステイト」というワイナリーを立ち上げています。トーレス家がワインを造る土地は、いまやスペインだけにとどまりませんが、ワインを造るときの考え方は、どこでも同じです。それは、ワイン造りは自然に学ぶことだ、というものです。ワインは畑でできる。飲むと畑が語りかけてくるのがトーレス家にとっての最良のワインです。ブドウ畑のメッセージをボトルに入れて世界中に伝えるのが私たちの仕事です。」

「そこで、もう何年も前の話ではありますが、何かが変わっていると気づきました。変わったのはなにか。自然です。そして、私の家族はそれに対応するため、2008年から戦いをはじめました。カーボンフットプリントを減らすために大きな投資をしました。温暖な時代にも、よいワインを造れるように数々の手をうちました。温暖化は19世紀から20世紀にかけてのフィロキセラに匹敵するような問題だと考えています。しかし、悲観的になっていてもしょうがない。私たちは選ばれた世代なのです。ここで、未来を変える。ワインの造り方だけでなく、暮らしを、社会を、よりよい世界をつくっていくのが、今を生きる私たち全員の仕事です。みなさんもこの戦いに参加してくれることを願って、乾杯しましょう!」



今回のイベントは、最新のトーレスのワインのお披露目の場であり、それはトーレス家の考える未来へのソリューションのショーケースだ、ということが宣言されたのだった。

乾杯のワインは、ペネデスの畑で、ミゲルさんのお姉さん、ミレイアさんが手掛けるワイナリー「ヴァルドン・ケネット」のキュヴェ・エスプレンドール 2013。レモンのような酸、ちょっとした苦味があり、2013年とはいえ、熟成して落ち着いたワインというよりも、若くはつらつとした、健康的な印象のスパークリングワインだ。

ヴァルドン・ケネットは、19世紀初頭、ペネデスでスペイン人女性と結婚してエステートを所有し、その地所のブドウ畑を復活させたイギリス人、ダニエル・ヴァルドン・ケネットにその名をちなむ。現在、この地所をトーレス家が所有し、スペインのシャンパーニュを造りたい、という意図のもとカヴァではないスパークリングワインを造っている。使われる品種はピノ・ノワールとシャルドネがメイン。そこにカヴァの3大主要品種のひとつ、チャレロが少量ブレンドされている。ブドウはアルト・ペネデスという標高550mの高地の畑で育つ。そして、近い将来、温暖化によってスパークリングワイン向けのブドウが難しくなった場合に備えて、ピレネー山脈の麓にある、より標高の高い畑のブドウも用意しているという。

スペインの女性と結婚して、ブドウを栽培していたダニエル・ヴァルドン・ケネット氏。海を連想させる貝殻のようなボトルデザイン

こうした高地の畑の開拓、また、南米の南端、パタゴニアの畑など、より冷涼な産地の開拓が、トーレス家で現在進行中の温暖化へのリアクションのひとつ。そしてもうひとつが、古い土着品種の復活だ。

ヴァルドン・ケネットにつづいて登場した、いまだ市販化されていない、フォルカーダという品種のワインがその成果。いまから30年前、トーレス家は、スペインのブドウ栽培家に、もしも1本でも、身元不明で、フィロキセラより前の時代からあるとおもわれるブドウ樹を知っていれば連絡してくれ、と大々的に募集をかけた。結果、1,000人からの応募があり、54の古いブドウ品種が再発見された。

フォルカーダはそうして再発見された白ブドウ品種のひとつ。サーブされた2016年ヴィンテージのフォルカーダ100%のワインは、香りは控えめで、少し酸味がのった香りがした。口当たりはとてもなめらかで刺激がほとんどない。口のなかで優しく酸味や苦味がひろがる。後味には熟した果実の甘みが感じられる。よく熟したブドウを、手塩にかけて造った白ワインだ。ミゲルさんは「これは白ワインの未来だ」という。

いまだ市販化されていないため、ラベルはご覧のとおり、デザインがまだされていない

何が未来なのか問うと、説明してくれた。

「中世はいまよりも気温が高かったのです。フォルカーダはその頃にワインに使われていた品種です。その後、気温が下がって、使われなくなった。つまり、温暖な環境に適した品種なのです」

商品化はされていないとはいえ、すでに専門家からの評価は高いという。シャルドネと比べた場合、およそ1ヶ月半、収穫が遅くなるそうだ。

「この2016年のフォルカーダは10月15日に収穫しました。ゆっくりと熟し、酸味が残り、バランスのよいブドウを収穫しやすい。ワインにはなめらかなテクスチャーがあり、香りは華やか。エイジングのポテンシャルも高い」

ちなみにトーレスでは、このブドウを搾汁する際、除梗しないそうだ。

未知なるワインとの遭遇につづいてはシャルドネ。「ミルマンダ 2016」が登場する。

このシャルドネは由緒正しいシャルドネだ。カタルーニャのコンカ・デ・バルベラにあるミルマンダ城の畑が産地。12世紀頃から、修道士によるワイン造りの伝統がある。



「もしかしたら、その頃もシャルドネを育てていたかもしれません。この土地は父が1970年代の終わり頃に買って、1985年が初ヴィンテージです。粘土質の土壌に樹は深く根をはっています」

現スペイン国王フェリペ6世の結婚式でも振る舞われたワインだという。ふっくらとしたシャルドネだ。ミゲルさんによれば、熟成能力が高く、まだ若い、という。

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WINE-WHAT!? 編集部
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