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ワインの未来はここにあり 「トーレス」 ミゲル・トーレスの挑戦

名門ワイナリーのソリューション

黒いラベルがマス・ラ・プラナ。最新の2015年ヴィンテージ

父から子へ

つづいてトーレスを代表する赤ワイン、マス・ラ・プラナが登場する。最新の2015年ヴィンテージ。マス・ラ・プラナの初ヴィンテージは1970年で、トーレス家の名声を高めた、スペインを代表するファインワイン。そういうワインを生み出そうと、ミゲルさんのお父さんのミゲルさんが、そのまたお父さんの反対を押し切って造ったものなのだ。

これを引き継いだミゲルさんは、マス・ラ・プラナをクラシックである、と評した。そして2015年は、まさにクラシックの名に値するヴィンテージでもあるようで、この10年ほどでベストだ、と胸を張る。雨が少なく、収穫期になって温度もぐっと下がったため、ブドウの熟度のバランスがよいからだ。

「ちなみに2014年は雨が多く、マス・ラ・プラナは造っていません。納得できない年には造らないんです」

味わいはこれぞ、カベルネ・ソーヴィニヨン。カベルネ・ソーヴィニヨンの長所ばかりがピュアに表現されている。化粧は感じられない。素顔で勝負して欠点はひとつもない、そんなワインだ。手放しにおいしい。

いっぽう、これにつづいたグラン・ムラーリェス 2015はもっと個性派だ。カリニャン、グルナッシュ、ムールヴェードル(スペイン的にはカリニェナ、ガルナッチャ、モナストレル)に、ガッロとケロルという、これまたトーレス家が復活させた忘れられていた古い品種がブレンドされている。

「産地呼称的にはミルマンダと同じコンカ・デ・バルベラとなりますが、土壌はまったく異なり、スレートの土壌です」

スレートは屋根や壁につかわれる土だけれど、粘土が圧力と高温で軽い石みたいになったものだ。長期熟成型の赤ワインにむいた土壌とされる場合が多い。

ミゲルさんは

「カタルーニャらしいワイン。タイムやローズマリーのようなドライハーブの草原のような香りがある」

という。筆者はきのこのような香りも少し感じた。はっきりとした酸味とよく熟した、凝縮したブドウの後味がなんとも贅沢。世界的な評価は極めて高く、マス・ラ・プラナよりも高価なワイン。ただ2015年ヴィンテージは、まだやや若い印象がある。もう何年かすると、タンニンや樽の印象がもっとまとまることだろう。

などとおもっていたら、今回の会の最後に、「トーレス家秘蔵のワインをもってきた」とミゲルさんが、グラン・ムラーリェスの1997年ヴィンテージのマグナム、という希少なワインを飲ませてくれた。グラン・ムラーリェスは1996年ヴィンテージがファーストヴィンテージで、つまり1997年はセカンドヴィンテージとなる。ケロルがまだ入っておらず、かわりにサンソーが使われている。

こちらがグラン・ムラーリェスの1997年、マグナム

こちらがグラン・ムラーリェスの最新2015年ヴィンテージ。通常ボトル

「グラン・ムラーリェスは大きな壁、という意味。戦乱の中世にポブレー修道院という修道院の周囲に建設された壁に由来する名前です。その中世の修道士の書き残したもののなかに、いまブドウ畑のあるところを散歩すると、タイムやローズマリー、杉の香りがするという記述があるのを発見しました。私はワインからその香りがするようにおもいます」

1997年だからもう20年以上前。しっかりと、辛いくらいのアルコールを感じる。その、アルコールとともに熟成したワインならではの香りが最初はのぼってくるけれど、ワインはまだまだエネルギーに満ち溢れている。そして見事にまとまっている。2015年ヴィンテージに感じた、各要素がまだ馴染みきっていない印象はない。マグナムボトルで熟成が遅い可能性はもちろんあるけれど、グラン・ムラーリェスの本領は、かなり時間が経ってからなのだろう。

1997年ヴィンテージは、特別ボーナスとして別枠で考えるならば、会の最後を務めたのは、このたび、日本初お披露目となったマス・デ・ラ・ロサというワイン。記念すべきファーストヴィンテージの2016年だ。

筆者、これにもっとも感動を覚えたのだけれど、輸入元のエノテカによれば日本では36本しか売られず、価格も4万6千円とのこと。再び巡り会うことはまずないだろう。しかし、再会したい。

なんとも食欲をさそう、熟したブドウの香りがする。では、甘ったるい、重たいワインなのか、というとそんなことは全然なかった。むしろ酸がはっきりとしていて、はつらつとして、さわやかなくらいだ。アルコール度数は15%もあるというのに!(アルコールの刺激をしっかり感じたグラン・ムラーリェスでも14.5%だったのだ)いまのところまだ、価格から考えると、ちょっと荒っぽい。しかし、それもまた、魅力的だ。そして、これがもし、10年、15年したら、どんなに素晴らしいワインになることだろう。1ダース手に入れて、毎年1本ずつ飲めるような人になりたい……

品種はグルナッシュとカリニャン。産地はプリオラートという。

「この畑があるたった1.8ヘクタールの、絶壁のように急斜面は、ブドウの聖地です。資料がないので正確にはわかりませんが、確認できる範囲で樹齢は80年。樹は小さく、収穫量はごくわずか。ダイヤモンドのように貴重なブドウですから、なるべく何もせず、自ずと流れ出た果汁が、自ずとワインになるように醸造します。そして、こういうエレガントで、フィネスがあるワインができあがります」

ロサという名の18世紀の女性が、この土地のブドウでワインを造っていたので、ロサの農場(マス・デ・ラ・ロサ)というのだそうだ。

ミゲルさんは熱っぽくつづける

「これは私の世代のワインです。最初にも言ったように、私たちは選ばれた世代です。私の父は、祖父とおなじようにワインを造った。祖父は、曽祖父を継いだ。それでよかった」

ミゲルさんのおじいさんはスペインの品種でワインを造ってトーレスを大きく成長させた人物であり、お父さんは国際品種を導入してトーレスの評価をおおいに高めた人物ではある。なので、両者が同じようなことをしていた、という言い方はいささか乱暴なようにも感じるけれど、論点はそこではない。ミゲルさんがいいたいことはその次にくる。

「でも私たちの世代はそうはいかない。以前と同じ場所、同じやり方では、環境の変化に対応できない。そして、その変化に対応できなければ、今後、私の子や孫がワインを造りつづける未来はない。そのためのフォルカーダ、そのためのマス・デ・ラ・ロサなのです。まだまだ、今回は紹介しきれないほど、私たちはいろいろなことを試みています。ぜひ、スペインに、チリに、いらしていただきたい。みなさんは今日、私のワインを飲んで、どうおもったでしょうか」

未来は危機的で、ゆえに待ち遠しい。すごいことが起ころうとしているのだから。ワインはやっぱり面白い!

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