ハヤシワインズはナパ・ヴァレーの林泰久という日本人醸造家によるワインブランド。年間生産量はわずか150ケース(1ケース12本換算)ほど。この希少なワインの試飲イベントを輸入元サイエストインターナショナルが開催した。

来日した醸造家 林泰久さん

シャトー・マルゴーのフィリップ・パスコールも味を認めるワイン

林泰久さんは1967年、岡山県生まれ。大学時代に地元のワインショップでワインと出会い、店主にワインを教わった。旅行代理店に就職後、ロサンゼルスに転勤となり、さらにサンフランシスコに異動した。そこで、ナパのワインに魅了されたという。

2000年に転職し、映画監督であるフランシス・コッポラのワイナリー、現在のイングルヌックのホスピタリティ部門に所属した。そしてすぐにワイン部門へと異動。以来、ワインメーカーとしてのキャリアを積み、2014年、イングルヌックを離れると、2015年ヴィンテージの「パウロニア」という自分のワインをもって独立した。

林さんのワインブランド「ハヤシワインズ」は、ブドウをセントヘレナの約1.5エーカー(0.6ha)の畑から購入する。それはすべてカベルネ・ソーヴィニヨンで、これを、カスタムクラッシュワイナリーと呼ばれる共同醸造所を使ってワインにしている。現在、合計でおよそ6樽分のワインを造っている。

林さんがブドウを購入する畑の地下からは、黒曜石が出てくることから、グラスマウンテンとも呼ばれる。その黒曜石がこれ

独立に至ったのは、現在、フランシス・コッポラ・ワイナリーの醸造責任者であり、同ワイナリーの支配人であるコーリー・ペック氏の考え方に影響され、将来を考えた結果だという。

ワイン業界は横のつながりが強い場合がおおいけれど、林さんも、イングルヌック時代の面々との交流はつづいているようで、イングルヌックの醸造家にして、いまやシャトー・マルゴーの総支配人フィリップ・バスコール氏も林さんのワインを毎年試飲し、味を確かめてくれるのだという。林さんはこの、フィリップ・バスコール氏からの影響をこんな風にいう。

「フィリップは口を開けば必ずエレガントというような人物。最初にワオと印象を与えるようなワインではなく、コンシスタントで、余韻のあるワインを良しとする。私のワイン造りは彼のワイン造りと考え方が近いとおもう」

ナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンといえば、一般的には力強い印象があるとおもうけれど、この程、林さんのワインで、セカンドレーベルの「ボン・オドール」の2016年、2017年ヴィンテージ、そして、フラッグシップの「パウロニア」の2015、16、17年ヴィンテージを試飲したところ、いずれも力強さより、エレガンスが勝つ印象だ。

「私は、日本人らしさ、自分らしさがワインに出ればいいと思っています。サンフランシスコのレストランに、私のワインからは、日本の味がするといわれて驚いて、でも嬉しかったんです。それは、もしかしたら日本の食のやさしさ、繊細さからくるのかもしれない。というのは、フィリップの言うエレガンスはフランス料理から、アメリカのパワフルなワインはアメリカの食からの影響があるようにおもうのです」

林泰久氏のワイン

来日した林さんを交えての試飲イベントで最初に試したワインは「ボン・オドール(BONNE ODEUR)」というセカンドレーベルの2017年ヴィンテージだったのだけれど、非常にかろやかで驚かされた。香りには、よく熟したブドウの香り、樽の香りがあり、口に含めば、苦味や渋味といったしっかりとしたワインの雰囲気があるのだけれど、口当たりがなめらかで、酸味は感じないもののすっきりと澄んだイメージなのが印象に残る。

パウロニア(Paulownia)とは桐のことで、林さんの家の家紋だそうだ。ラベルもそれにちなむ。Bonne Odeurはフランス語で良い匂いといった意味

一方、フラッグシップの「パウロニア」の同2017年ヴィンテージになるとぐっと中身が詰まって複雑になる。まろやかな口当たりは同様ながら、香りも味わいもより変化に富んでいる。

このふたつのワインは、同じ畑のカベルネ・ソーヴィニヨンから造られているという。これだけの違いを生む原因になっているのは、果汁がフリーランなのか、プレスしたものなのか、という差と、メーカー、焼き加減がことなる3種類の樽。ボン・オドールが2樽分、パウロニアが4樽分をブレンドして造る。2017年ヴィンテージであれば、ボン・オドールは新樽1つ、旧樽1つをブレンド、パウロニアは新樽100%だという。

とはいえ、なにか定まったルールを設定しているわけではない。たとえば、2017年は熱波の影響もあって、セントヘレナの畑のカベルネ・ソーヴィニヨンが半分、より冷涼なオークノールのカベルネ・ソーヴィニヨンが半分なのだそうだ。かろやかな印象はそのせいもあるかもしれない。

醸造においても、ワインの状態をみながら臨機応変に対応していくのが、林さんにとってワイン造りの楽しみなのだそうだ。困難があるのが楽しい、という。

「同じ畑、同じカベルネ・ソーヴィニヨンなので、工夫をしないと複雑味にかけてしまいます。ボン・オドールは飲みやすいワイン。パウロニアは、果実味が豊富、渋みも上質なものと区別しています。」

2016年ヴィンテージになると、ボン・オドールのほうは、サンダルウッドのような香りが特徴的。2017年と同様、ナパのカベルネ・ソーヴィニヨンからイメージするものとくらべて、驚くほどかろやかながら、より、輪郭がはっきりしている、というのか、濃厚で強い。スパイシーな印象、酸味もより感じ、バターのようなうまみもある。余韻にはタンニンもちゃんと感じさせる。

2016年のパウロニアは、ここからさらに濃密になる。今回のワインのなかでは、オーセンティックな意味では、パウロニアの2016年がもっとも傑作だろう。口当たりはやはりまろやかでとても優しいけれど、うまみ、タンニン、渋味やスパイシーさなどが感じられる。そしてこのあと2015年ヴィンテージのパウロニアを試して、2016年への興味はさらに強まった。2015年ヴィンテージのパウロニアにも、スパイス、酸味、クリームのようなあまみや旨味の印象があるのだけれど、それらの要素がとてもきれいにまとまっている。

「2015年は9月にリリースしたときにはまだクローズで、硬かったんです。それが、1年後から香りが立つようになって、ボディもバラバラなのがまとまって、樽からテイスティングしたときとおなじようになりました。1年ぐらい経ってからが、パウロニアの本質だとおもいます」

林さんは素朴な、飾らない人柄だった

もちろん、2016年はもうリリースから1年は経っているのだけれど、おそらくまだもっと、まとまるように思われる。

ちなみに新しいヴィンテージも期待させる。というのは、林さんはまだまだ、独立したワインメーカーとしては若い。畑に関しても、これまではあまり、意見が通らなかったようだ。それがだんだんと発言できるようになってきて、仕立てに関しても林さんの意見を聞いてもらえるようになってきているのだという。となれば理想のブドウを使って、パウロニアとボン・オドールを仕上げられる可能性がより高まっている、ということだ。

将来的にはボルドーブレンドも造ってみたいという林さん。最初に言ったように、ハヤシワインズは生産量が少ない。そのため現状は、お店では売っていない。購入は、以下の公式サイトからとなる。
http://the-stella.com/hayashiwines/paulownia/

ナパのカベルネ・ソーヴィニヨンも、エレガンスや精密さをより表現したワインが増えているけれど、林さんのワインは、アメリカ人やフランス人が解釈したそれとは違って、そもそもが日本的なナパカベだ、と筆者はおもう。

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WINEWHAT
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桜吹雪が舞う中で、社会的距離を取りながら

新しい季節の無病息災を祈って

今日もワインを開けてみよう

明日も新しいこと、やってみよう