「乾杯はイギリス産ワインで」
このような日が来るとは誰しも想像してなかっただろう。しかし昨年、トランプ大統領が訪英した際、エリザベス女王との手元に煌めく杯はまさにイングリッシュ・スパークリングワインだったのだ。

イギリスの葡萄畑 

イギリスワインの快進撃は止まらない

イギリス人はこの世で一番泡を愛している国民だ。『007』のジェームズ・ボンド、チャーチル宰相のシャンパン好きはあまりにも有名だし、世界第一位を誇るシャンパン輸入量は並ならぬご贔屓ぶりを表している。

そもそもスパークリングワインが意図的に生産されたのはシャンパーニュではなくイギリスなのだから泡が嫌いなはずはない。

(1662年にイギリス人のクリストファー・メレットがスパークリングワイン製造に関する論述をロンドン王立協会に提出している)

その愛の深さゆえ、自国でのスパークリングワインの産出はもはや英国民の悲願であったことは間違いない。そのような中、地球温暖化が追い風となりブドウ畑が急拡大したのだ。特に温暖だった2018年は品質と生産量には目覚ましいものがあり、世界に存在感を示した。

注目の産地はロンドン南部のウェスト&イースト・サセックス、ケント、サリー。また南西部のコーンウォールがあげられる。これらの産地はメキシコからの暖流の影響を受けるため、特に利点がある。2080年にはイギリス全土でワインが産出されるとまで予想されているから驚きだ。

加えてワイン産地としての発展を裏付ける興味深いアンケートがあるので紹介したい。イギリス人の90%は「自分はワインに詳しい」と自負しており、そのうち30%は周囲から「ワイン通と思われたい」と答えている(Ginger Research調べ)。

多数の MW(マスター・オブ・ワイン)やMS(マスター・ソムリエ)が在住し、最新情報が提供され続けていることが影響しているのだろう。

実際イギリス人はワインに造詣が深く、トレンドに敏感で洗練されている。社交の場でのワイン選びでは自分が「ワイン通」と思われるためのワイン選びに余念がない。

上述のエリザベス女王のようにここ一番の勝負ディナーではイングリッシュ・スパークリングワインがもはや定番化しつつある。

こうした尖った市場を抱えていることも、ワイン産地としての成長要因になっていることは間違えない。

ワインを熟知したイギリス人が本気になれば鬼に金棒だ。品質の向上には目を見張るものがあり、中にはシャンパーニュのトップキュヴェと変わらぬ値段で流通しているものもある。

この2、3年ではピノやシャルドネから造るスティルワインにもかなりの手応えを感じている造り手もいる。この進化の背景には単なる気候変動だけでなく、サイトセレクションの目利き、巧みなマーケティングなど長年のワイン先進国としての知識が総括されていることを認めざるを得ない。

ほかにもヴィーガンワインの登場などポジティブ要素を挙げればきりがなく、イギリスの快進撃は止まるところを知らない。塗り替えつつあるワイン地図。その歴史的フェーズに立ち会う生き証人として、ますます目が離せないのだ。


紫貴あき(Maki Shidaka)
シニアソムリエ、ワイン講師。「J.S.A.ワインアドバイザーコンクール優勝」や「WSET®Diploma」など数々の難関資格も取得。専門誌だけでなく、一般誌、美容雑誌などにも登場し、ワインの素晴らしさ、奥深さを伝える伝道師であり、柔らかな雰囲気と優しいトーク、そして厳しい試験と多くの生徒を虜にする、ワイン講師としての指導力にも定評あり。