ワインとウイスキーの間には確かに大きな違いはあるけれど、実はとても近しい関係でもある。大きな違いと言ってもそれはそれで興味深いものだし、近しい関係でいえばワインと同じような楽しみ方や幸せがある。アルコール度数や原料なんてものはハードルでもなんでもない。ワイン好きだからこそ、わかるウイスキーの世界。さあ、楽しもう。

1.蒸留酒と醸造酒

ワイン、日本酒、英国で親しまれているサイダー(りんご酒)は醸造酒。対して、ウイスキーや焼酎、ジン、ウォッカ、テキーラは蒸留酒。ワイン好きがコース料理の食後酒などで楽しむ機会もあるコニャック、アルマニャック、カルヴァドス、グラッパなどのぶどうから生まれるブランデーも蒸留酒。これがワインとウイスキーを明確にわけるものかもしれない。醸造は、原料を酵母によってアルコール発酵させて造られた酒。これをさらに蒸留(蒸発させたエタノールを集めて濃縮)したものが蒸留酒だ。「ウイスキーができるまで」で後述するが、醸造されたものを蒸留しその後に熟成をするので、ワインと比較すれば、発酵と熟成の間に、蒸留工程があるということになる。一般に蒸留はアルコール度数を高めるので、醸造酒は20%以下、蒸留酒はそれ以上というのもわかりやすい目安だろう。基本的にワインの原料はぶどうと明確だが、蒸留酒の原料は植物、穀物、果実とバラエティ豊かだ。

2.そもそもウイスキーとは?

 ではウイスキーってなんだろう。おそらく日本でイメージするのは、スコッチ・ウイスキーということになるだろう。だがウイスキー=スコッチではない。スパークリングワインがシャンパーニュなのではなく、シャンパーニュはスパークリングワインのひとつの存在であるのと同様だ。アイルランドにはアイリッシュ・ウイスキーが、アメリカにはバーボン・ウイスキーがある。ウイスキーとは、ざっくりといえば「大麦、小麦、ライ麦、コーンなどの穀物を麦芽の酵素で糖化し、発酵させた蒸留酒」ということになるが、実は、明確な規定はなく、各国で制定する取り決めや法制度のもとでウイスキーと名乗れたり、名乗らなかったりする。

 

 例えばアメリカの定義では「蒸留液が一般にウイスキーが有するとされる味、香りおよび特性を備える方法によって製造され」というなんとも情緒的な一文があったりする。ウイスキーの材料はシンプルだ。「大麦、小麦、ライ麦、コーンなどの穀物」、「酵母」、「水」だ。これを「麦芽の酵素で糖化、発酵」させ「蒸留」し「熟成し完成」というのが大きな流れだ。


ウイスキーができるまでーー

モルティング(製麦)

発芽した麦を乾燥させアルコール発酵のための糖化の役割を担う酵素を作るために乾燥させて麦芽を作る。



マッシング(糖化)

その後、粉砕機で麦芽を挽き分け、マッシュタン(糖化槽)に麦芽を65℃程度の温水と混ぜ、発酵に向かう一番麦汁と二番麦汁を作る。



ファーメンテーション(発酵)

酵母が働きやすい温度にした麦汁を発酵槽に入れて酵母を加える。工場は麦汁をアルコールと炭酸ガスに換え、香味成分を作り、アルコール発酵を行うこの発酵液がもろみ。



ディスティレーション(蒸留)

モロミを銅製のポットスチルに投入して蒸留する。この過程でさまざまなタイプのモルト原酒を作る工夫がある。



フィリング(樽貯蔵)
エイジング(熟成)

蒸留でできたニューポッドを加水しアルコール度数を調整し、樽の中で長期間寝かせて貯蔵という行程に入る。その後数年かけて熟成させ、ボトリング(瓶詰め)されて、ウイスキーが生まれる。


3.シングルモルトとブレンデッド

ウイスキー、特にスコッチ・ウイスキーを理解し、楽しむためには「シングルモルト」と「ブレンデッド」、まず、この2つの存在を知ることが早道だ。他にもシングルカスク、グレーンなどがあるが、まずはここから。シングルモルトはひとつの蒸留所のみで造られたモルトウイスキーだ。大麦の麦芽(モルト)のみを原料とし、単式蒸留器(ポットスチル)で蒸留する。マッカランやアードベグなどがこれにあたる。ワインや日本酒ではある意味このスタイルは当然のことかもしれない。各蒸留所の個性がわかりやすい。

対してブレンデッドは、世界で多く流通し、世界中のバーで当たり前のように見つけることができる。ジョニー・ウォーカー、シーバス、バランタインなどがブレンデッドだ。複数の蒸留所の複数のウイスキーをブレンドすることで変わらぬ香味、価値を提供してくれる。シャンパーニュで言えばメゾンの顔となるノン・ヴィンテージ、モエ・エ・シャンドン モエ アンぺリアルを想像してもらえばよいだろうか。どちらが良いという話ではなく、これをシーンや気分によって選ぶことができれば、より深みにハマることができるだろう。

4.ワインとの親和性⦅1⦆ 樽

ウイスキーは樽によってマジックを起こすという。材質、その質、焼き入れの仕方、サイズ、熟成期間によって、最終的な香り、風味、色が決まる。フィリング(樽詰め)は、職人の技、伝統の流儀が冴えるウイスキーづくりのひとつのハイライトだ。ワイン好きならワインが同じように樽によって変化することをご存じだろう。

実はこの樽詰めには怪我の功名とも言えるエピソードがある。15世紀に樽は輸送用の容器として使われていた。それがニーズの急増により、仕方なく港で転がっていたワインやラム、シェリー用の樽を使ったところ、ウイスキーの香味が大きく変化。ここから樽によるマジックが生まれたというのだ。そして今も、アメリカンオーク、ヨーロピアンオーク、日本ではミズナラなどの素材の中で、各蒸留所の緻密な方程式であり魔術でもあるやり方で多彩なウイスキーが生まれている。

5.ワインとの親和性⦅ 2 ⦆ テロワール

樽で熟成する際の材質、焼き入れの仕方、熟成期間については紹介したが、さらに、どこで貯蔵されるのかによってもウイスキーの個性は変わる。スコットランドだけでも海風を浴びるアイラ島と峻嶮な山と森林に囲まれたスペイサイドでは全く個性が違う。日本でも余市と京都・大阪の境にある山崎、緑の中の白州では大きく変わる。世界中で同じ価値を提供するブレンデッドはブランドを味わうが、シングルモルトに関してはテロワールを楽しむものでもある。となれば、そのエリアの文化、音楽、スポーツ、芸術、食とあわせるという楽しみは正しい。

ウイスキーの聖地 スコットランド



ウイスキー=スコッチではないと冒頭に書いたが、そうはいってもやはりウイスキーと言えばまずスコットランドだろう。蒸留所は100 軒以上、それぞれのエリアによって、水、気候、伝統の技術などで産地特有のスタイルが生まれている。ちなみにスコッチ・ウイスキーを名乗れるのは、実際はかなり細かい規定があるがざっくりいえば「糖化から発酵、蒸留、熟成までをスコットランド内で行ったもの」だけ。

オークニー諸島

スコットランド最北端。約70の島によって構成。北海油田の前線基地であり軍事の要衝でもある。最北と言っても海流の効果で厳寒というわけではなく意外と温暖。代表的な蒸留所「スキャパ」はバランタインのキーモルトとしても知られる。

代表的な蒸留所:スキャパ

スペイサイド

「黄金の三角地帯」。それがこの地の異名。ハイランドの東部に三角系のように切り取られた部分に40以上の蒸留所がひしめく。果実、花、繊細さ、まろやかさ…多様な蒸留所があるため一つにはまとめづらいが確かに「スペイサイド・スタイル」ともいうべき世界観はある。

代表的な蒸留所:ザ・マッカラン

ハイランド

スコットランドの大部分を占めるエリアで、30以上の蒸留所がある。起伏も激しく標高1000 mを越える山々が続く。広大なため、特徴は様々でこのエリア内でも場所によって変わるが、基本的にはフルーティーさがある。

代表的な蒸留所:グレンモーレンジィ

アイラ島

人口わずか3000人、数少ない蒸留所ながらシングルモルト好きにとっては聖地であり、特に日本においては熱狂的なファンが多い蒸留所ばかり。荒々しい波、厳しい自然、そして泥炭(ピート)。これがアイラのウイスキーを育む。ピーティー(スモーキー)さが際立つシングルモルトが多いことが特徴。

代表的な蒸留所:ラフロイグ、ボウモア、アードベッグ

キャンベルタウン

ローランドの最西端、アイルランドに近い町。スモーキーでオイリーというのが特徴だが、その個性がゆえに熱狂と敬遠の両極も生んだ。現在はわずかな蒸留所だが、いずれも「らしさ」を堪能できる。個性的なワインが好きなら避けては通れない。

代表的な蒸留所:スプリングバンク

ローランド

その名の通り「低地」。グラスゴー、エジンバラなどの大都市がありスコットランドの人口の約8 割が集中するが、蒸留所は少ない。歴史的にイングランドとの抗争との最前線にあり酒造りも翻弄されてきた。ただテイストは素晴らしい。ハーブや白い花、軽やかさなど、白ワイン好きなら良き入口となるだろう。

代表的な蒸留所:グレンキンチー

世界のウイスキーの聖地

アメリカ

様々な材料のウイスキーがあるが、やはり代表的なのは、コーン。バーボン・ウイスキーも原料はコーンだ。全土が産地な上に、ワインのムーブメントと同様、ガレージ的でクリエイティブな造り手が日々出現する。

ワインがカリフォルニアならウイスキーではケンタッキー州とテネシー州。一般的に日本で愛飲されるバーボンを生み出すケンタッキーに対して、テネシーも木炭でろ過するという独自のスタイルで良質なウイスキーを造っている。

カナダ

スコットランドに続く世界2位の生産量を誇る。大西洋岸、中央部、太平洋岸からアラスカの近くまで全域で生産されている。ライ麦、トウモロコシを原料とするウイスキーが多いのも特徴。シングルモルトよりも、土台となるベースウイスキーと、香り、風味を加えるフレーバリングウイスキーをブレンドするものが主流。五大ウイスキーの中では最もライトでマイルド。シナモン、トースト、カラメル感。ジンジャエール、ソーダとの相性もいい。

アイルランド

アイリッシュ・ウィスキーはスコッチ・ウイスキーとならぶ「源流国」であり「伝統国」だ。常に論争を呼ぶのは「どちらが先か」。ラグビーでもライバル。そして同様にノーサイド。蒸留所の数はかなり減ってしまったが北東部から南西部まで、素晴らしい蒸留所が存在する。フレーバーの特徴はピート感があまりない軽やかさ、広がりのあるフルーティーさ。世界的に流通し、日本でどこでも楽しめるといえばブレンデッドの「ジェムソン」。

日本

世界的な評価を獲得し、世界中からウイスキーファンが来日。品質はもちろん、ウイスキーに対して真摯に、また情熱的に関わる人々が多いことにも起因するだろう。ルーツは、1923年。鳥居信治郎氏と竹鶴正孝氏の手により誕生。2人はその後、サントリーとニッカにて情熱を注いでいく。特徴はスコットランド的なスタイルながら野趣よりも洗練といったところだろうか。同じ会社でも場所によりテロワールを生かした風味が楽しめる。

その他産地

ウイスキーは世界中で造られる。英国ではウェールズ、イングランドももちろん産地だ。ワイン好きならフレンチ・ウイスキーは見逃せない。なんといっても蒸留酒王国。ウイスキーがないわけはない。やわらかくなめらかで上品なウイスキーも多い。ピートではなく燻製を用いてスモーキーさを出すアイスランド、ビール王国の技術を生かしたチェコ、東南アジアのエスニックな料理にあうタイやベトナムにも注目したい。