ワインとうつわでメッセージ、スタイルを伝えるということ

椎名 シャトー・ラグランジュへようこそいらっしゃいました。

育代 ありがとうございます。以前、シャトー・ラグランジュの土をいただきまして、今日の訪問をとても楽しみにしていたんです。あの白い土、耐火度が低くすぐに溶ける特性を活かし、釉薬の原料のひとつとして使っております。趣深い仕上がりになるんですよ。勝手ながら『シャトー釉』と名付けています。

椎名 あの土は、育代さんがここへいらっしゃるときにご覧いただいたシャトーの前の池から持ってきています。池を大掃除したときに出てきた土なんです。

育代 またお掃除されるのはいつ? 取りにまいりますよ。

椎名 頻繁には掃除しないんですが、ほかの場所でもたまに同じ土が塊で出てきますので、これからは気を付けて確保しますね。ここの土でできた作品があると、テロワールを語るときに話がうまく広がるのです。

育代 ええ、まさにテロワールですね。シャトー釉は、使ってて飽きないんです。薄く吹きかければ、地の濃い色が出て、しっかり掛ければ青白くなる。この釉ひとつでいろんなイントネーションが出せます。

椎名 まず、レ・ザルム・ド・ラグランジュで乾杯しましょう。レ・ザルムは、あの池のまわりに咲く白い花のこと。11年が初ヴィンテージでしたが、パワーが増すまで日本での販売は控えていました。私が手にしているのは17年。今はようやく日本へ出すようになりました。

育代 買えることが幸せになるワインですね。

椎名 育代さんにはうつわを持ってきていただきましたので、実際に料理を盛って楽しんでいきましょう。

アミューズの「ヴィシソワーズ自家栽培の枝豆とジロンド川産小エビのかき揚げ添え」。スープは和の出汁がベース。「食後のコーヒーをイメージして持参したカップですが、こう出てくるとは」(育代さん)、「グイっと飲める。なかなかいいセンスじゃないですか」(椎名さん)

「ビスケー湾産ヴィーヴの一夜干しソテー ジロール茸のフリットと銀餡を添えて」

育代 うつわはほとんど納品してしまって手元になくて、今日は家で使っている失敗作ばかりかき集めて持ってきたんです……

椎名 これらが家使いとは贅沢ですねぇ。シャトーでは、ビジネス的なゲストにお食事を提供しますけれど、日本企業がオーナーのシャトーだからといって、使う食器は和にこだわっていないんです。ただパッと見て、自分たちのタッチに合うかどうかで決定。そういう意味で、育代さんのうつわはラグランジュのワインが持つ自然なスタイルとよく馴染みますし、親近感が持てます。

「葡萄枝でグリルしたドルドーニュ産雌鳩の葡萄葉包み セップ茸のソテー、鳩レバーのパテとともに」

「熟成させたフロマージュセレクション」はシャトー・ラグランジュと合わせて

育代 食べることが好きな自分のために食器を作ったのが始まりで、とくに和の食器を作ろうとする意識はないんですよ。だから、フレンチのシェフが使ってくれるとうれしくなったりします。

椎名 すごく頑張っているアピールの強いうつわがあると、料理とどうバランスをとるべきか悩むときがあります。グラスもそうで、うちが使うのはドイツのリースリング用。『もっと大振りのグラスを使えば』との案も出ましたが、ラグランジュの繊細さを表現できるかたちはコレなんです。

育代 私も、シャトー釉やレザン釉以上に扱う釉薬を増やすつもりはなく、そこは幅を広げないようにしているんです。このなかで、自分の表現を通したいと思っていて。

「林檎のタルト アルマニャックと蜂蜜のアイスクリーム」。ラグランジュの池で泳ぐ白鳥の姿が、皿の上にも

椎名 よく分かります。うちで迎えるゲストにワインを飲んでいただくとき、料理もうつわもすべてひとつのメッセージで通していかなければいけない。グラスで飲んでいただく、うつわから食べていただく、そこにメッセージを込めておかなければ、相手に伝わりません。奇をてらうのでなく、しっくり場に溶け込むようなものがラグランジュらしさです。

育代 繊細さ、ですね。

椎名 じつは世界中が日本に感じているのは、そこでしょうね。日本人が出しゃばると、日本らしさが消える(笑)。一歩引いていても、どこかピタッとハマっているものを作っていれば、行く行くは大化けします。今、世界トップのブランドになっているものはそういうものばかり。ラグランジュが大化けするのはいつかは分かりませんが。

育代 そういえば、我が家では2008年のシャトー・ラグランジュを寝かせています。このワイン自体は大化けしますでしょうか(笑)?

椎名 今ようやく開き始めた頃ですね。デキャンタして1-2時間置けば今でもおいしく飲めますが、本当のよさはこれからです。おいしかったら感想をください。自分の作品を褒めてもらえるのが、われわれの最高のモチベ―ションですから。

育代 確かに!

育代さんのうつわを使ったディナーを用意してくれたのがシャトー・ラグランジュの専属シェフ、佐藤太一さん。金沢「つる幸」で修業、「美山荘」では二番手に。イタリア料理店での経験もあり、洋も和もお手の物。彼の料理を椎名さんは絶賛、「うちはレストランではないので、星が付かないのが残念」と嘆くほど。

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WINEWHAT
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