あのとき、南半球のワイン産地では何が起こっていたのか。WINE WHAT 6月5日発売号に掲載、5月下旬に執筆、西オーストラリア州パース在住のKisa Motoさんからのリポート。

日本から戻ると……

今年の1月中旬からチラホラ耳にし始めた新型コロナウイルス。「変なウイルスが中国で流行っている。」そんな程度に、ニュースを軽視していた。1週間ほど日本で過ごし、3月14日にオーストラリアへ帰国すると事態は急変していた。海外からの帰国者には、14日間の自宅隔離を命ずるというのだ。

オーストラリアのワイン規制

それから、みるみるうちに状況は変わり飲食店・ホテルの休業要請、州間閉鎖、国境閉鎖、そして不要不急の外出禁止。日に日に規制が厳しくなり、ステイホームが根付くまで、あっという間の展開だった。

この規制期間は、6カ月続くと言われている。オーストラリアでの規制は、外出規制だけではない。家飲みしか出来ないと分かると、人々が酒屋へ殺到。トイレットペーパーならぬ、ワインの買い占めが始まったのだ。100万円相当分のワインを買い占めた人もいたのだとか。

そこで政府が打ち出したのが、「購入は3本まで」という規制。ワインをあまり飲まない人からすると3本あれば十分と感じるかもしれない。けれど、さすがはワイン大国のオーストラリア。3本なんて2、3日で飲み切ってしまう。

ワイナリーの工夫

ワインの購入制限で最も打撃を受けたのはワイナリーではなかろうか。オーストラリアでは、ワイナリーを訪れて直接ワインを購入する。ワイン好きの間では、主流の買い方である。その場合、ケース単位で購入する人がほとんどなのだ。

飲食店に卸せなくなった今、直販で利益をあげていたほとんどのワイナリーにとって、この規制はかなりの痛手であった。

世の中で何か起こっていようと変わらぬ表情を見せてくれる畑

こんな状態が続いては、国が誇る大切な産業の一つであるワイナリーの経営が危ぶまれてしまう。そんな心配が通じたのか、数週間後にはワイナリーから直接購入する場合のみ、本数の規制が解除されることが決まった。6本以上購入すると送料無料で送ってくれるワイナリーが多い。消費者にとって嬉しいのは、通常であれば30ドル(約2,500 円)ほどかかる送料を払わずして、オーストラリア全土のワインが楽しめる。with コロナ時代の不幸中の幸いである。

山火事の影響で収穫量が極端に減ってしまった上に、ウイルスの影響で貴重なワイン販売にも支障が出る。二度もパンチをくらったオーストラリアワイン産業だが、暗く落ち込んでいる生産者は少ない。



No worries

オーストラリア人が良く口にする「No worries」― 大丈夫だよ。心配しないで。問題ないよ。そんな意味合いの言葉である。

要するに、気にしない。こちらが心配そうにしたって、「No worries」と寛大に返してくれるのがオーストラリア人の印 象だった。世界中が不安一色のこの今も、No Worries なのだろうか。心配そうに大丈夫?とワイナリーへ電話をすると、「世界がどんな状況であっても、畑に出れば、普段と変わらぬ時を過ごしている。今は、今年も美味しいワインを造るために一生懸命だよ」と話す生産者がほとんどだっ た。

それよりも、市内に住む私や私の家族までも心配してくれるのだ。決して余裕のある状態ではなくとも、他人を思いやれる。他人に耳を傾ける時間を大切にしている。助け合ってなんとかしようという明るさが感じられるのだ。愛のある生産者の造ったワインを飲むと不思議とその愛は、伝わっていく。オーストラリアワインはやはり、気持ちが晴れやかになるワインだ。一刻も早く、世界が穏やかになりますよう、切に願う。

この記事を書いた人

Kisa Moto
Kisa Moto
2015年にオーストラリアへ移住。WSET WineEducationにてワインを学び、現地でソムリエを経験。WINE LISTのオーストラリア現地スタッフとしての他、ワインコンサルタントとしても活躍。毎月パース市内にて、ワイン教室を開催。
Facebook: Kisaki Moto instagram: kisakimoto