前回の記事に引き続き、7月下旬に執筆されたワインジャーナリスト、柳忠之氏による、新型コロナウイルスとワイン業界についてのリポートを、8月5日発売のWINE WHAT巻頭コラムより、掲載。今回は、ボルドーのその後と、収穫期が迫ってきたシャンパーニュ、ボジョレ・ヌーヴォーについて。


ボルドー プリムール試飲会は東京で開催された

前号で新型コロナウイルスがワイン業界に与えている影響をお伝えして、2カ月が過ぎた。

発生源の中国をはじめ、一部の国や地域では感染が収まりつつあるものの、日本では夏休みを前にして感染第二波と呼ぶべき深刻な状況に陥っている。ちなみに2カ月前、全世界の感染者数は530万人、死者は34万人だったが、本稿執筆時点では感染者1386 万人、死者59万人まで増えている。

フランスでは6 月14日にマクロン大統領がテレビ演説を行い、翌15日からマイヨット島と仏領ギアナを除くフランス全土をグリーンゾーンに指定。6月2日の制限緩和ではオレンジゾーンに指定され ていたイル・ド・フランス地域圏でも、カフェやレストランの営業が再開された。SNS上ではマスクもつけずに、三密な状態のカフェで友人らと語り合う様子が投稿されている。

またバカンスシーズンを前にして、観光収入に依存するヨーロッパ諸国は、7月1日に入国制限の一部を解除した。入国が許可されたのは15カ国で、その中には日本も含まれているが、7月末現在、日本政府はヨーロッパへの渡航に対し、中止勧告を発令したままである。

そのような状況の中、6月から7月にかけて、ユニオン・デ・グラン・クリュ・ド・ボルドーが世界の主要都市でプリムール試飲会を開催する予定と前号で書いた。

じつのところ、どのように実施するのか疑問に思っていたが、なんと、試飲開催地に2019 年のサンプルワインを空輸して実現させた。運営にあたったのは、毎年、ユニオン・デ・グラン・クリュ・ド・ボルドーの試飲会(プリムールではなく、3年前のヴィンテージをお披露目する会)を実施している現地コーディネーター。日本では日本ソムリエ協会会長・田崎真也氏の会社であるサンティールがその役割を担い、東京・愛宕の田崎真也ワインサロンで6月25日に実施された。

ジャーナリスト、ソムリエ、輸入業者を対象に、120分で110のワインを試飲するハードなセッション。とはいえ、本来ならボルドーまで足を運ばなければならない貴重な試飲が、東京にいながらにしてできたのは、不幸中の幸いと言うべきだろう。

2019年のボルドーはすこぶる良い

2019 年の出来はすこぶる良い。右岸のメルローにやや過熟気味でアルコールの高過ぎるワインがいくつか見られたものの、左岸は完熟したカベルネ・ソーヴィニヨンの魅力に溢れていた。ストラク チャーがしっかりしており、間違いなく長期熟成のポテンシャルは高い。

品質だけを見れば2018年並み、あるいはそれ以上の高値が付いたはずだが、世界経済に左右されるのがプリムール価格の宿命。価格は2018 年と比べて平均20パーセントのダウンと聞いている。資本に余裕のあるトップシャトーはプリムールでの販売を抑え、経済が持ち直した頃を見計らって、市場に投入する腹づもりらしい。

収穫を前にシャンパーニュは悩む

シャンパーニュでは、ブドウの収量を巡りメゾンと栽培農家の間で衝突が起きている。

新型コロナウイルスの感染拡大により世界中の経済活動が停滞する中、すでに今年4月、5月の販売量が大幅に落ち込んでいるシャンパーニュ。これ以上のストックを抱えたくないメゾンは、今年の収量としてヘクタールあたり7,000キログラムを主張。一方の栽培農家側は減収を抑えるためにも1万キログラムを要求しており、両者の溝は簡単には埋まりそうにない。

因みにロックダウン下にあった5月単月でのシャンパーニュ販売量は、対前年比で56パーセントの大幅減。年平均で20~40パーセントの売り上げ減が予想されており、メゾン側の言い分にも一理ある。

編集部追記
2020年8月18日付けの、CIVC(シャンパーニュ委員会)の発表によると、メゾンと栽培農家は収量8,000キログラム/ヘクタール(2億3000万本相当)で合意。収穫は8月17日から始まっているが、手積みが必須のシャンパーニュにおいて、必要な約10万人の季節労働者をどうするかについては、いまだ課題として残っている。

ボジョレ・ヌーヴォーはロジスティクスに変化の可能性

ところで、今年はもしかすると、ボージョレ・ヌーヴォーが割安に飲めるかもしれない。

新型コロナウイルスの影響による輸送トラブルを鑑み、ボージョレの生産者組合は通常よりも1週間早く、ワイナリーから非EU諸国に向けての出荷を許可した。つまり例年ならば、今年は10月12日以降出荷のところ、10月5日を出荷開始日としている。

この出荷前倒しを利用して、輸入元の徳岡は従来の航空機ではなく、シベリア鉄道を使った陸路と海路でのボージョレ・ヌーヴォー輸送を計画。輸送費は航空機の3 分の1に収まり、解禁日の11月 19日に間に合いながら、航空便よりも割安な価格設定が可能になる。

新型コロナウイルスがワイン業界に及ぼす影響は、まだまだ広がりそうだ。本誌では引き続き、この問題を追う。