カリフォルニアワイン協会 日本事務所は、日本が誇るマスター・オブ・ワイン(MW)、大橋健一氏をスピーカーに迎えて「今、知っておきたい最新のカリフォルニアワイン産業」という特別セミナーを開催。今回は、このなかで大橋MWが語ったことを紹介いたします。


ワインを売るプロに向けて

まず、なぜ今回、大橋健一MWがカリフォルニアワインについて語るのか、というと、大橋氏、2020年2月に、数年ぶりにカリフォルニアのワイン産業の視察に、カリフォルニアを訪れていたのだそうだ。このとき、目にしたもの、大橋氏の考えをまとめて、カリフォルニアワイン協会のセミナーにて発表する予定だったのだけれど、そこで、新型コロナウイルスが蔓延。一旦、機会が失われてしまった。

そして、10月も終わろうというタイミングに、ようやく、厳重警戒態勢のもと、ではあるものの、実現したのが、今回のセミナーだった。

大橋氏は、「実際に訪れてから半年以上の時間があいたことで、その間、カリフォルニアワインを追い続け、絶えずレポートをアップデートし、勉強したことを掘り返して、という作業を繰り返して今日に至った」という。

そんなわけで、MWが熟成を重ねた贅沢なセミナーとなったのだけれど、様々な観点からワインを分析するマスター・オブ・ワインなのはもちろんのこと、酒類販売店 株式会社 山仁の代表をつとめる大橋MWは、このセミナーの参加者の多くを占めるであろう、酒類を取り扱うプロに向け、まずは、日本の酒類マーケットの現状から話を始めた。

大橋MWのリサーチによると、9月において、日本の酒の販売金額は昨年比65%。10月22日時点で、72%という数字だそうだ。東京ではオントレードと呼ばれる料飲店が10%ほど閉店しており、現状は決して明るくない。そこから、この状況に対して、オントレード市場は、客単価をあげるか、新規の顧客にアプローチするしかない、と大橋MWは解釈する。

そして、アメリカのワインへと話を移し、2018年、輸入ワインのなかで、伸びたのはアメリカとポルトガルだけ、2019年は輸入ワインが上り調子だが、ここでアメリカはオーストラリアを抜いて5位に躍り出て、前年比10%の成長を遂げているという事実を確認したあと、アメリカワインは、イタリアワインに次いで、オントレード市場で強いワインである、と明かした。というのは、イタリアは52%、アメリカは39 %がオントレードマーケットで売れているのだ。ちなみにこれに次ぐ、フランスは35%がオントレードという比率である。そして、ワイン一本あたりの平均価格が世界で一番高いのはアメリカだ。

つまり、現在、料飲店では、アメリカのワインを採用することは客単価の向上につながる可能性が高い。しかも、アメリカのワインは、フルーティーでリッチなイメージがあり、これは多くの消費者にとってはポジティブな特徴として受け入れられている。

しかし、アメリカワインの大部分を占めるカリフォルニアワインであっても、AVAやカウンティのレベルになると、その特徴はまだまだ、フランスやイタリア、あるいはスペインの有名ワイン産地ほどは知られていない。プロであれば、どこでどんなワインが造られているのか、きちんとカリフォルニアのワインのことをわかっていないと売れないので、このセミナーを通じて、現在のカリフォルニアのワインを知ってください、というのが今回のセミナーの趣旨なのだった。



サステイナビリティの3相

さらに、カリフォルニアのワインを買うことは倫理的に正しい、ともいう。例えば、山火事への支援にもなる。そして、ここからが、今回のセミナーの主題なのだけれど、カリフォルニアのワイン産業は、サステイナブルであり、その視点からも、倫理的に正しい、というのだった。

大橋MWはそのサステイナビリティを3つの側面から語る。

まずは農業のサステイナビリティ。これはもっとも理解しやすい側面だけれど、栽培が有機農法であるとかいったことだ。カリフォルニアワインの農業におけるサステイナブルな取り組みについては、WINE WHATでも、かつて特集しているけれど、それは単に畑のレベルにとどまるものではなく、周辺環境、生態系の保全などもふくめた包括的なものだ。大橋MWは、いくつかの例をあげたが、その拡大速度を、「10年でアルザス全体がサステイナブルになったくらいの勢いで認証獲得の波が広がっている。」と表現した。

そして、農業のサステイナビリティの実例として紹介してくれたワインが、ナパ・ヴァレーを代表するワイン畑のコンサルタントとして知られるスティーヴ・マサイアソンの、マサイアソン・ファミリー・ヴィンヤード。そのオレンジワイン、「マサイアソン リボッラ・ジャッラ マサイアソン・ヴィンヤード ナパ・ヴァレー」だった。

マサイアソンの凄さとして、大橋氏が例にあげたのが、マサイアソンが銅を使わないでべと病を克服している、というところだった。ボルドー液でも知られているように、銅は有機栽培であっても、畑にまかれるもの。しかし、それは、銅であり、土壌に大量に存在すれば、毒となりうる。また、長い年月をかけて、河川などに流出すれば、水中の生態系も乱す。

ワインについて大橋MWは、オレンジワインの有名産地であるジョージアと比較して、タンニンの質がジューシーだと評価する。これはマセレーションの時間が2週間ほどと短いことに理由があり、オレンジワインらしい、ジャスミンティーのような香りもあるものの、熟度の高いアプリコットのような香りがあり、また、わずかにフレーバーに樽からとおもわれるバニラっぽさがあるのが、個性的だとした。飲み方としては、オレンジワインは酸度が高く、輪郭がボケる可能性があるので、やや冷やして飲んだほうがいい。とのアドバイス。

また今回、大橋MWは各ワインに合う、アメリカの食べ物も同時に紹介してくれて、このワインの場合、豚肉にスパイシーな味付けをしたタコス、タコス・デ・カーニタスはどうか、という提案だった。

今回、試飲できたワイン。左から、「2017 マサイアソン リボッラ・ジャッラ マサイアソン・ヴィンヤード ナパ・ヴァレー」、「ピエドラサッシ PS シラー サンタ・バーバラ・カウンティ 2018」、「ヴェリテ ラ・ミューズ 2017」、「マージュラム シバライト ソーヴィニョン・ブラン 2019」、「2018 クルーズ・ワイン・カンパニー カリニャン エヴァンジェーリョ コントラ・コスタ」、「2016 ポール・ホブス カベルネ・ソーヴィニョン ナパ・ヴァレー」

カスタムクラッシュのサステイナビリティ

次のサステイナビリティの側面は、産業としてのサステイナビリティ。例として、出てきたのは、カリフォルニアにたくさんある、カスタムクラッシュだった。

カスタムクラッシュは言ってしまえばレンタル醸造所、のようなもので、ワイン生産者は、ワイナリーを持たなくても、カスタムクラッシュを借り、ブドウを持ち込めば、ワインを造ることができる。つまり、ワイン造りをはじめるにあたっての初期投資を削減できる。

現在、カルトワインとして驚くべき価格で取引される、コルギンやスケアクロウといったワイナリーも、カスタムクラッシュ出身。ワインが評価され、人気がでて、資金に余裕ができてから、設備投資する。こういったカスタムクラッシュが基盤にあることで、カリフォルニアのワインは、全米で約80万人の雇用をうむ大きな産業になっている。

今回は、ピエドラサッシというブランドのシラーをカスタムクラッシュで造られる名品として紹介。アメリカのシラーといえば、フルーティーでヘヴィーな印象があるけれど、このシラーはエレガントだ。大橋MWは、「確実にフルーティーではあるけれど、クールクライメットの印象がある。ホワイトペッパーやブラックペッパーの香り。飲むと少し、苦味がある。」と評した。

畑は、サンタ・バーバラにあるという。サンタ・バーバラといえば、サンタ・リタ・ヒルズが有名だけれど、大橋MWによると、「サンタ・リタ・ヒルズはカリフォルニアのブルゴーニュ、ここから内陸に入り、ハッピーキャニオンまでゆくと、ボルドー品種、そしてこのワインが造られる、バラードキャニオンになるとローヌ品種が得意。AVAで品種も個性が違う」とした。また、このエレガントで緻密なワインが、全房発酵で造られていることにも舌を巻く、と評する。合う料理は、もはやアメリカの国民食、ハンバーガーだ。

働きたいワイナリーとは

次のサステイナビリティの側面は、ソーシャルサステイナビリティ。これは従業員の生活の安定などにまで踏み込んだ、包括的なサステイナビリティだ。

この分野でマスター・オブ・ワインやマスター・ソムリエといった、ワイン業界の最高峰から、世界トップのサステイナブルなワイナリーであると評価をうけているのは、スペインのトーレス

トーレスは、農業における様々な取り組みはもちろんのこと、社員や地域のために、学校も建てれば、スクールバスも通す。ベビーシッティングもやる。そのトーレスと、親交厚いのが、アメリカの大ワイン企業、ジャクソン・ファミリー・ワインズだ。

今回は、ジャクソン・ファミリー・ワインズのワインの中でも最高峰のひとつにして、ソノマの最高峰ワインでもある、ヴェリテから、メルローを主体としたボルドー右岸スタイルの「ラ・ミューズ」が登場した。2017年ヴィンテージ。山火事の被害をカリフォルニアワイン産業が受けた年だ。

ヴェリテは、火災の前に収穫を終えていたため、火災の被害は受けていないけれど、このヴィンテージを選ぶことで、応援的な意味があると、大橋MWはいう。試飲のワインは、ダブルデカンタージュ済み。

「パーカー100点を15回取っていおるワイナリーなんて、世界中探してもあるものではない。このワインは、オンヴィンテージのポイヤックのよう。品格ある樽使い。ただ、テクスチャーはまだごつい」と評価した。

ジャクソン・ファミリー・ワンズも、農業におけるサステイナビリティにも積極的なことで有名だけれど、毎年、数値で目標をつくっている。2020年までに、実現すべきとしているものはたとえば、
再生エネルギーを2020年までに50%以上にする
ワイン1ガロンあたり25%CO2削減
ワイン1ガロンあたり水を35%削減
ワイナリーの廃棄物を90%以上リサイクル
75%以上のスタッフがコミュニティのボランティアに参加
などだ。

ジャクソン・ファミリー・ワインズはカリフォルニアのみならず、アメリカ国内ならばオレゴン、さらには、イタリア、フランス、チリ、オーストラリア、南アフリカと、世界に40以上のワイナリーをもつ巨大なワイン企業ゆえ、彼らがサステイナブルな取り組みをつづけることによるインパクトは大だ。

さて、このヴェリテに合わせる食事は、「ここまでのワインだとワインだけで楽しんでもいい」としながらも、ヴェリテのおすすめ食材である、黒トリュフをつかったリゾット。なんと、黒トリュフは、ジャクソン・ファミリー・ワインズのソノマの畑でもとれるのだという。

マイナーAVAにはお宝が眠っている

サステイナビリティを3側面から見たあと、大橋MWがカリフォルニアワインを見るもう一つの観点として持ち出したのが、クリエイティビティだった。それは発想の自由ともいうべきもので、まずは、缶に入ったワインが登場した。「マージュラム シンバライト ソーヴィニヨン・ブラン」というこのワイン、缶入りといっても現地価格で24.5ドルだというから驚かされる。畑はやはり、サンタ・バーバラのハッピーキャニオンにある。このワインには、瓶入りのものもあるが、大橋MWのテイスティングによれば、よりフレッシュでアロマティックなのは缶入のほうだ、とのことだ。

また、缶は瓶やペットボトルとくらべた場合、輸送効率がよく、製造におけるCO2排出量も、瓶を下回るという。このパッケージングは、サステイナブルな意味合いももつのだ。そして、「缶入飲料のように、ごくんと缶から直接飲むにはちょっと強いけれど、消費者はこれをワインとして飲まないかもしれない」と大橋MW。合わせる料理としてのおすすめは、メキシカンシュリンプのタコスとのことだった。ソーヴィニヨン・ブランとして考えた場合、酸は強すぎず、香りにはパイナップルやグァバのイメージがあることからのチョイス。

次なるワインはコントラ・コスタ・カウンティという産地からのもの。サンフランシスコの東、ナパからは80kmほど南にある産地だ。



「こういったマイナーAVAには、まだまだお宝が眠っている」というのが選択の理由。ワインはクルーズ・ワイン・カンパニーのカリニャンで、このワイナリーは、なにより、スパークリングワイン「ウルトラマリン」で有名だ。コントラ・コスタ・カウンティは冷涼な土地で、このカリニャンもクール。なんと、カリニャンの樹齢は120年以上なのだという。類まれなカリニャンの産地、と評したあとで

「ブレンドしてタンニンや酸を補う品種として使われやすく、単体でワインにまとめ上げるのは難しい、じゃじゃ馬、カリニャンを、ここまでのワインに仕上げているのは驚くべきことだ。ザクロやアセロラみたいな香りは、日本で言えば梅にも通じるものがある。ハイビスカスのような香りも感じる。カリニャンでこんな香りが出る。PHはジェントル、アメリカらしいフルーティーさもあり、タンニンは奥ゆかしい。和食であれば、かつおだしを使った肉料理にあうはずだ」と絶賛した。

アメリカの食事であれば、ソノマダックブレーズに合わせるのが大橋MWのサジェッション。

最後も、やはり、新しいAVAから。とはいえ、こちらはクームスヴィル。すでに名作ワインが、日本にもやって来ているので、カリフォルニアワイン好きには、知られた産地かもしれない。

試飲で登場したのは、ポール・ボブス・ワイナリーのカベルネ・ソーヴィニヨン 2016年。

ナパの南東、サンパブロ湾に近い産地ゆえ、冷涼で、カリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨンとして考えた場合は、「ほっそりしたイメージ。乾燥ハーブのニュアンスがある。口に入れると、果実感は抑制的で樽使いが上手。まだまだ若いけれど、ナパ的な甘いインスピレーションがある。タンニンは申し分ない量があり、今飲んでいい状態」と評価する。料理はリブアイにローズマリーを散らして。とのことだった。

カリフォルニアには、こういったワインに革新をもたらすワインがあり、すでに世界的に名をなしたワイナリー、醸造家、栽培家がいて、サステイナビリティにおいては世界をリードする産地のひとつ。学ぶべきことがたくさんある。と大橋MWは今回のセミナーを結んだ。そして、忘れないでほしいのは、と付け加えたのは、フルーティーでリッチであることはワインにとって、ポジティブな要素であるということ。カリフォルニアワインをカリフォルニアワインが輝くフィールドで活躍させてほしい、というのが、大橋MWからのメッセージだった。