化学的分析と官能検査の組み合わせ

サッポロビールの商品・技術イノベーション部商品・技術開発センター担当部長の蛸井潔(たこい・きよし)さんが「日本醸造協会技術賞(注1)」を受賞した。

受賞の理由は「ホップ香気成分の相互作用に関する研究」が評価された。

「平成28年度日本醸造学会大会(2016年10月19日~20日 会場:東京都北区・北とぴあ)」において、公益財団法人日本醸造協会が蛸井さんに授与した。

この研究は、「特定のホップ品種の香りの形成メカニズムの解明」を目的として、キーとなる香りの成分を分析で見つけるとともに、複数の香気成分の相互作用を官能検査で確認して、ホップの品種に特有な香りの形成メカニズムを提案したのだそう。

以下に、異なるホップ品種を用いた、この研究の実例を紹介する。

【ホップ品種 Nelson Sauvin(ネルソン・ソーヴィン)】
このホップ品種は、ビールに白ワインのような香りを付与するといわれている。そのキーとなる香り成分の「チオール」(注2)を見出すとともに、その成分がその成分自体の香りに加え、他の成分の香りの強さや、香りの特長に影響を及ぼすことで、この品種を用いたビールでこの品種特有の香りが形成されているということを解明した。

【ホップ品種 Citra(シトラ)】
このホップ品種を用いた研究では、ホップに含まれる「ゲラニオール」(注3)というバラのような香り成分が、ホップには元々は含まれない「シトロネロール」(注3)というライムのような香り成分に変化していることと、そのライムの香りが「リナロール」(注3)や「ゲラニオール」といった他の香り成分と組み合わさることで、この品種の特長でもある柑橘のような香りが強められていることを解明した。

ホップ香気の研究分野では、これまでにも、分析で見出されたさまざまな香り成分が報告されてきた。

一方、この研究は分析化学的手法と感性科学的な手法(官能検査)を組み合わせ、ビールを飲む人が“実感しているホップの香り”を解明しようとした取り組みが特長で、特にクラフトビールでブームとなっている香りに特長のある“フレーバーホップ”といわれるホップ品種での研究に関して、その後の研究の発展のきっかけとなったという。

大変人気のある稀少なホップ品種「SORACHI ACE(ソラチエース)」の特長を示す香り成分の発見(注4)も、この研究を受け継ぐ一例だそうだ。「ソラチエース」というのは1984年にサッポロビールが育種・開発したホップ種で、ヒノキや松、レモングラスを思わせる香りが海外でも高く評価されているという。

サッポロビールは今後も自社によるホップ品種の育種・開発、ホップ香気成分の研究、それらを活かした商品開発を通して、個性あるホップ品種の特長を引き出す醸造方法の開発を進め、さらに多様な香味のビール類を提供していきたい、というからビール党は大いに楽しみだ。

正直申し上げて、素人にはナンノコッチャさっぱりわからないのでありますけれど、クラフトビールの香りがよいのはこのような基礎研究のなせるワザなのである。

なお、同賞を受賞したのはこのほか、「水蒸気蒸留装置及び重量法を組み合わせたアルコール分の迅速分析法の開発」、「清酒中の苦味成分に関する研究」、そして「清酒の4VG臭に関する研究」というものである。



(注1)日本醸造協会技術賞:
日本醸造協会は、醸造に関する学術研究と調査を行うとともに学術研究団体を主宰して醸造学と醸造技術の進歩発展と振興を図り、成果をもって国民に高品質で安心・安全な醸造飲食品を提供し、豊かな食文化の形成に寄与する事業を行っている。1974年より、醸造に関する技術的進歩に貢献した研究者を対象に「日本醸造協会技術賞」を授賞してきた。

(注2)チオール:
ブドウ品種の「Sauvignon Blanc」などの白ワインの香りのキーとしても知られる香り成分のグループ。ホップ品種の「Nelson Sauvin」からは新種のチオールが2種見出されている。

(注3)リナロール、ゲラニオール、シトロネロール:
柑橘類や花などに幅広く含まれる「モノテルペンアルコール」といわれる香り成分のグループに属し、「リナロール」はラベンダー、「ゲラニオール」はバラ、「シトロネロール」は柑橘の香りを有する。

(注4)「ソラチエース」の特長を示す香り成分の発見:
World Brewing Congress(世界醸造大会・2016年8月13日~17日現地時間・米国デンバー)にて、サッポロホールディングス(株)がサッポロビール(株)と共同で発表。

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WINE-WHAT!? 編集部
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