• TOP
  • #WINE
  • 地図から見るキアンティ・クラッシコ

地図から見るキアンティ・クラッシコ

マップマン アレッサンドロ・マズナゲッティが語る

黒い雄鶏が目印のキアンティ・クラッシコ。キアンティ・クラッシコ協会は、「キアンティ・クラッシコの産地を360度俯瞰する」というセミナーを開催した。キャンティ・クラシコにはなぜ、テロワールが重要なのか? そこにはどんな意味があるのか? セミナーのメインスピーカーを務めた、ワインジャーナリストにしてマップマンの異名をとるアレッサンドロ・マズナゲッティ氏の話を、ここでは紹介したい。

キアンティ・クラッシコの地図

キアンティ・クラィシコ協会が開催した「キアンティ・クラッシコの産地を360度俯瞰する」というセミナー。キアンティ・クラッシコ協会の会長 ジョヴァンニ・マネッティ氏によると、このセミナーはキアンティ・クラッシコのテロワールを体験することを目的としている。このページはその体験のリポートだ。

テロワールを表現する、という言葉は、いまやワインの世界ではとても広く聞かれる。そして、キアンティ・クラッシコは、テロワールを表現したワインと称されることが多い。テロワールをここではひとまず、畑の環境、くらいに定義して話をすすめるとして、キアンティ・クラッシコにとってテロワールが重要なのは、キアンティ・クラッシコがキアンティと呼ばれる、更に広いエリアから、伝統的、つまりクラッシコな産地が独立して誕生したという歴史があるから、と言えはしないだろうか。言えるとした場合、キアンティ・クラッシコのアイデンティティは、キアンティ・クラッシコとはどこなのか、つまりテロワールにある、とも言えはしないだろうか?

キアンティ・クラッシコ協会会長ジョヴァンニ・マネッティ(Giovanni Manetti)氏

とはいえ、である。

キアンティといった場合と比べれば、だいぶ限定されるとはいえ、イタリアのフィレンツェとシエナの間、7万1800ヘクタールもの面積に広がるキアンティ・クラッシコの畑。その畑はもちろん、全部が同じ条件であるはずもなく、所によって、さまざまな個性がある。当然、ワインの個性は畑だけで決まるものでもなく、最終的にはそれぞれのワイナリー、ひとつひとつのワインによって、変わってくるとはいえ、まず、大雑把にでも、それがどこで、どんな特徴の産地なのかがわからないと、地図も持たずに、荒野に飛び出していくようで心もとない。

そこで、地図を用意しましたので、今後、キャンティ・クラシコをもっと楽しんでください、というのが、筆者が要約した、ジョヴァンニ・マネッティ氏による、このセミナーのイントロダクションだ。

地図を用意し、解説してくれるのが、このセミナーのメインスピーカーをつとめた、アレッサンドロ・マズナゲッティ氏。ワインジャーナリストである彼は、2007年以来、地図作成に情熱を傾けるようになり、近年、その地図が大いに評価されている。ワイン愛好家から「マップマン」と呼ばれるまでになったほどだ。ボルドーやカリフォルニアからも彼に地図をつくってほしいという依頼がくるという。

マスナゲッティ氏の地図は、もともと彼が物理学者であることも関係してか、ブドウ栽培にとってきわめて重要な、標高や地質を精密に表現している。そして、彼はキアンティ・クラッシコ協会とともに、キアンティ・クラッシコの地図をつくっているのだ。

アレッサンドロ・マズナゲッティ氏
キアンティ・クラッシコ アンバサダー として、通訳と解説を担当した宮嶋勲氏

そもそもキアンティとキアンティ・クラッシコ、ブルネロ・ディ・モンタルチーノやスーパータスカンの産地ボルゲリなどのトスカーナ州の他のワイン産地との位置関係、ワイン的な土地の区切り方、さらには、フィレンツェ、シエナといった都市との距離感……大きな地図で、それらが一目でわかるだけでも、筆者などにはとてもありがたい。

その地図がこれだ。

(今回、特別にキアンティ・クラッシコ協会から地図を提供してもらっているので、画像をクリックして拡大してご確認ください)

Alessandro Masnaghetti www.enogea.it for Consorzio Vino Chianti Classico

キアンティ・クラッシコの大雑把な産地の特徴

ここからは、地図をズームする感じで、キアンティ・クラッシコエリアの地図を見てゆく。キアンティ・クラッシコの地図を見るにあたって、マズナゲッティ氏がまず、大事だというのが、キアンティ・クラッシコエリアの東を貫くキアンティ山脈。そして、西の山脈とその中央の山脈でH字が描かれているところ。このH字にキアンティ・クラッシコの産地は区切られ、大きくテロワールが分かれる、という。

Alessandro Masnaghetti www.enogea.it for Consorzio Vino Chianti Classico

上のふたつの地図において、左側の地図が、山脈の位置を、右側の地図が気温をサーモグラフィー的に色で表しているのだけれど、青いところは気温が低い。つまり地図で右の方、標高が高い東の方が気温は低く、標高が低い西や北は気温が高くなる傾向にある。

また、キアンティ山脈は基本的に砂岩の土壌であり、これはこの地域では建築素材にも使われるようなしっかりしたもの。西側は泥灰土。中央部には、砂岩に石灰が混ざる。これらの土壌は、古においては海底だった。一方、北や南西には、これとは由来を異にする土壌がある。

そして、畑の向き。南西を向くのがもっとも温暖で、東向きがもっとも涼しくる。日光を遮る山や森などがあるかどうかでさらに日照の条件が変化する。

標高は、高ければ高いほど、ブドウの酸と香ばしさが目立ち、逆に低くなれば、酸が減り、熟した果実の感覚を強く受けるワインになる。
土壌は砂が多ければエレガント、粘土が多ければしっかりして色が濃くなる。そして、土壌に石灰が多いほど、酸が目立ちやすくなる。
日照は、強く受けられるほど、酸を感じづらくなる。

これらの組み合わせで、ワインの大きな方向性が決まる。というのが、入り口の知識だ。

キアンティ・クラッシコ協会のホームページでは、それぞれの地域の風景を360度のパノラマビューで見られるようにしている。
https://www.chianticlassico.com/ja/chianti-classico-characteristics/
こちらのページの「コムーネ」というところで、地図上の地名をクリックすると、それを見ることができる。

8種類のワインでテロワールを体験する

さて、セミナーはこの入り口から踏み込んで、実際にワインをテイスティングしながら、キアンティ・クラッシコを体験する、という段に入る。

比較する8種類のワインは、もっともベーシックなキアンティ・クラッシコ。リゼルヴァとか、グラン・セレツィオーネとかいった役はつかない。そういうセレクションにした理由を、マズナゲッティ氏は、同じヴィンテージを揃えやすい、醸造技術や熟成よりもテロワールの特徴が顕著に出やすいから、と説明する。

Alessandro Masnaghetti www.enogea.it for Consorzio Vino Chianti Classico

そして上の地図に、その8種類のワインの産地が記されている。画像をクリックして拡大してもらわないと分かりづらいかとも思われるけれど、産地の先頭に、1から8までの数字がふってある。それがテイスティングに登場したワインの順番に対応している。地図の色は、土壌のタイプを表している。

具体的に行こう。

まずはキアンティ・クラッシコエリアの東側の産地を北から南に4つ。

1番目がモンテフィオラッレ(MONTEFIORASLLE)
傾斜がある段々畑が特徴で、土壌は石灰岩と石灰を含む砂岩
標高340mで、これはキアンティ・クラッシコでは低い。畑は、東と南東向き。
先程のヒントから、この条件だと、冷涼で、ワインは酸味があり、エレガントだけれど、標高が低いことなどから、果実感も感じられるのかな、と想像できる。
そして実際、試してみると、香りはかなりジューシーだけれど、味わいでは、酸味と渋味が特徴的だった。

これを基準として2番目は、ヴァル・デル・コルティ(VAL DEL CORTI)
ほかが2018年ヴィンテージのところにきて、このワインは、2017年ヴィンテージで、2017年は暑く干ばつ気味ではあったとのこと。
土壌は石灰を含み、1とほぼ同じ。
しかし、こちらは、標高が470mと高く、畑は東向き。
2017年ヴィンテージだったためか、この産地にしてはしっかりとした印象、とのことだったけれど、1との比較では非常にフレッシュで爽やか。タンニンは感じられるものの、飲んだ後もさっぱりとしている。

3番目は2番目から、やや東に行った産地、リエチネ(RIECINE)
キアンティ山脈に近く、土壌は砂岩と泥灰土
標高が450mで、2番目とほぼ同じ。畑は南向き。
特徴は森に囲まれていることだという。酸度のデータ的には2番目のワインと近いのだけれど印象はかなり違い、香りは甘みがあり、土っぽさ、ユーカリのような印象もある。味わいに酸味がそれほど強く感じられず、むしろ苦味が印象的だ。

4番目がキアンティ・クラッシコエリアの最南端、フェルジナ(FELSINA)という産地。
土壌は、砂と石灰。標高350mで南向き。
そこから、温暖であることが想像できるけれど、実際、暑い産地とのことで、ワインはアーシーな印象、とのことだったけれど、実際に試すと、苦味や塩味を感じ、筆者はむしろ貝類のようなイメージだった。タンニンは荒々しさがあるのが特徴だという。

ここまでがキアンティ・クラッシコエリアの東側。

続いて西側に移り、再び北から。

5番目となるのが、サン カッシャーノ(SAN CACCIANO)エリア。
標高250mでほぼ、平地といっていい場所とのこと。土地はフラット。
海洋に由来する土壌ではなく、川が形成した土地で丸石を含むという。
温暖で濃厚なワインを想像したのだけれど、解説によると、バランスが良く、まろやかで果実味が上品、ということだった。実際に試してみると、酸とタンニンのバランスが良く、陰干ししたかのような濃厚なブドウの味わいがありながらも、アルコールが強い印象はなく、むしろ爽やかですらあった。

6番目が5番目から10kmほど南に行って、イゾレ・エ・オレーナ(ISOLE E OLENA)
土壌はいくつもの土壌がぶつかる場所で、泥灰土、石灰が入る砂岩。
標高は400mとやや高い。畑は西と南西を向く。
バランスのよいエレガントなワインが想像できるけれど、5番目との比較では、酸が厳格になり、香ばしい果実の印象がワインの中心になる、との解説。
香りには、独特の土っぽい印象を感じたものの、味わいはタニックではなく、スッキリとまとまっている。

7番目はポモーナ(POMONA) これも2017年ヴィンテージ。
土壌は湖に由来する、とのことで標高は325m、畑は東と南東を向く。
暑い産地とのことで、パワフルでタールのトーンがあり、ふくよか。タンニンがワインの軸になる、との解説だった。
とはいえ、口当たりはまろやかで、香りの影響もあって、むしろミルキーな印象を筆者はもった。
アルコール度数が14.5度と高めなことが理由が、辛いとすら感じられる印象、パワーやタンニンは後からやってきた。

最後、8番目が、ボルゴ・スコペート(BORGO SCOPETO)2017年ヴィンテージ。
土壌は3番目のリエチネと同様の砂岩と泥灰土。
標高が425m、南向きと同様ながら、こちらは森に囲まれておらず、南側が開けているという。
これがゆえに、味わいにまるみがある、とのことだった。
甘みのある口当たりから始まり、味わいは酸味からタンニンの渋み、そしてさっぱりとした酸味で終わる。
リエチネのものとはだいぶ、印象が異なるワインだった。

さて、最後にこのセミナーに参加した筆者の感想なのだけれど、たしかに、産地の標高や土壌、日照条件といったところがわかれば、キアンティ・クラッシコを理解するヒントになるだろう。それらの情報からワインの傾向の推測は可能で、実際に試飲しても、そこが推測と大きく異なることはなかった。とはいえ、その推測は本当に入り口にすぎない。

実際に試飲すると、この8種類のワインは、それぞれが個性的だ。香り、ワインを構成する味覚の感じ方、液体の感触、酸やタンニンを感じるタイミングはそれぞれのワインで異なる。これをキアンティ・クラッシコとして、ひとまとめに呼称することには抵抗を感じる。場合によっては、ボルドー、ブルゴーニュ以上に、キアンティ・クラッシコは変化に富んでいるかもしれない。であれば、ボルドーやブルゴーニュがそうであるように、より細分化したパースペクティブ、細分化して認識する経験が必要なのだとおもう。

そしてそこから、お気に入りの産地、お気に入りの生産者を見つけ出すことができれば、きっとそれはワイン好きにとって、遠い場所に暮らす友から、便りが送られてきたような、嬉しい体験となるはずだ。

ワイン好きであれば、キアンティ・クラッシコと聞いて、まるっきり何も思い浮かばない、ということは、ほとんどないとおもう。じゃあ、それってキアンティ・クラッシコのどこ? という段階に行くまでには、キアンティ・クラッシコの生産者たちにも、ワイン好きたちにも、やるべきことがまだまだ、ありそうだ。

この記事を書いた人

WINEWHAT
WINEWHAT
YouTubeInstagramでも、コンテンツ配信中!
フォローをお願いいたします。

Related Posts

PAGE TOP