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ラリックとディクタドールの歴史的ラム酒

300本限定でお値段250万円 ディクタドール・ジェネレーションズ・アン・ラリック

サザビーズのオークションにてラム酒が3万ポンド(約450万円)で落札された。この額はラム酒としては最高級であり、歴史的である。生み出したのは、超高級ラム酒蒸留所「ディクタドール」。歴史的一本は、ディクタドールがストックする熟成ラム酒のなかでも、特別なものを、フランスのクリスタルガラスメゾン「ラリック」が、このために造ったボトルに収めた、300本限定のボトルのうちのシリアルナンバー0だ。

残るナンバー1から300までのボトルは日本では250万円にて、4月から受注を開始している。

さて、WINE WHATは、このほど、このラム酒をテイスティングする機会に恵まれたのであった。

DICTADORE GENERATIONS EN LALIQUE
ディクタドール・ジェネレーションズ・アン・ラリック
アルコール度数43% / 700ml
シリアルナンバー入り、世界300本限定 専用のプレゼンテーションケース、30mlのテイスティングサンプル、証明書付き
ボトルの素材: クリスタルガラス
税別小売価格: 2,500,000円
2021年4月より、受注により販売
問い合わせ先:ミリオン商事
03−3615−0411

ディクタドールというラム酒蒸留所

はたしてこれを自分が飲んでいいのか?という逡巡の念はいまも消えない。

もちろん、手もとに届いたのはテイスティングサンプルである。これは「ディクタドール・ジェネレーションズ・アン・ラリック(DICTADORE GENERATIONS EN LALIQUE)」というラム酒の、そのボトルの中に入っている液体の一部にすぎない。とはいえ、である。完全なものは世界に300本しかなく、希望小売価格は250万円もするのだ。ワイン業界最高峰のロマネ・コンティだって、一部のヴィンテージでもないと、その価格にはならない。一方こちらは新品でこの値段だ。

こちらが編集部に届いたテイスティング用のサンプル。

新品とはいえ、ヴィンテージでいえば、ディクタドール・ジェネレーションズ・アン・ラリックは1976年ヴィンテージとなる。ラム酒にもノンヴィンテージがあるけれど、ディクタドール・ジェネレーションズ・アン・ラリックはヴィンテージラム酒だ。

サトウキビ原料の蒸留酒であるラム酒は、他の蒸留酒同様、長い年月をかけて熟成され、その際に使われる樽、熟成年数、そしてそもそもの蒸留方法の差異などによって、個性が分かれ、それら原酒をブレンドすることによって、作品として完成する。ワイン的にいえばアッサンブラージュであり、ラム酒は、ヴィンテージごとの天候等自然の影響は少ないため、造り手はブレンダーと呼ばれ、ワイン的にいえば醸造責任者にあたる人物は、マスターブレンダーと呼ばれる。

ラム酒の故郷はカリブ海のいずれかの島とされる。ヨーロッパ人がサトウキビを持ち込んだことが歴史のはじまりだ。そのカリブ海に臨む、コロンビアの世界遺産の街、カルタヘナの地に1913年に創業したのがディクタドールだ。

創業者はドン・ジュリオ・アランド・イ・パーラ。18世紀にこの地にやってきたスペインの徴税吏員で「独裁者(ディクタドール)」と恐れられた人物の子孫であり、この徴税吏員が、当時は通貨の役割も果たしていたラム酒に魅了されたという伝説をたどるうちに、南米最良のサトウキビ産地であるこの地から、自らの手で、最高のラム酒を造る、という情熱に取り憑かれた。

この血と情熱、長い年月を経て磨かれた技、そして実際生み出されたラム酒を現在、受け継ぎ、ブレンドするマスターブレンダーが、ヘルナン・パーラ。ドン・ジュリオから数えて3代目のパーラ家であり、いまや投資の対象となる超高級ラム酒の造り手として、世界に知られる人物である。

ヘルナンにとって1976年は特別な年だ。なぜなら、この年は、ヘルナンが父 ダリオとともにブレンドを手掛けたヴィンテージであり、本人曰く、ディクタドールの歴史上の「もっとも壮大(エピック)なブレンド」だからだ。

ゆえにこの1976年ヴィンテージのディクタドールのラム酒はジェネレーションズと名付けられ、特別な扱いを受けることになった。

ラリックによる特別なボトルが与えられた

ディクタドールにとって特別なラム酒に与えられたのは、特別なボトルだ。

それは、アール・ヌーヴォーとアール・デコの両時代に活躍した芸術家、ルネ・ラリックによって1888年に設立された「ラリック」による、芸術作品。ラリックは酒のボトルを手掛けるが、各スピリッツの分野から1ブランドを選んでコラボレーションをしていて、ラム酒においては、ディクタドールが選ばれた。

現在のラリックのアーティスティックディレクター マーク・ラミノーは、ヘルナン・パーラに招かれて、カルタヘナを訪れ、色彩豊かな街の色と、カリブ海の美しさに魅了されたという。

そして、カリブ海に沈む夕日、水面に複雑に反射する光をラム酒のボトルに描こうと考えた。

独特にうねるガラス面は、波をあらわし、ラム酒の色は、夕日の色。ラリックの伝統的なクリアとサテンのクリスタルのコントラストを駆使するテクニックを用いて、ボトルを透過する光が、カリブの波の向こうに沈みゆく陽光の如くにたわむれる。

シリアルナンバーの刻印に至るまで、ラリックの職人の手作りで300のボトルが生み出された。

ラム酒としてのジェネレーションズ・アン・ラリック

冒頭記したように、投資の対象となるこのラム酒を飲むものとして捉えていいのかには戸惑いがある。しかし、テイスティングサンプルを味わってみれば、このラム酒がそう滅多に存在するものでないことは、ワイン畑の筆者にも感じ取れた。香り、味わい、余韻とも、非常に重層的で、また、その複雑な要素が絡み合う性質ゆえか、43%という、蒸留酒ならではの高いアルコール度数でありながら、なおも、ワイン的に言えばエレガント、あるいはまろやかな印象もあった。

ここでは、ディクタドールのマスターブレンダー ヘルナン・パーラ、そして、ヘルナンからコメントを託された、ディクタドールのクリエイティブディレクター ケン・グリエルが、このラム酒を紹介するウェビナーにおいて語ったテイスティングコメントに大いに依存しながら、この液体がいかなるものかを紹介したい。

ちなみに、そのウェビナー、より詳しく知りたい方は、以下の動画にてその全容を確認することもできる。

まず、やや繰り返しになるけれど、このラム酒は、ディクタドールがストックする多年代にわたる様々なラム酒のなかから、1976年のラム酒を、複数の樽から厳選してブレンドしたものだ。

その色合いは、ダークアンバー。

香りは天然の素材から造られた香水、ウッディな、あるいはなめし革のようなノートのオーデコロン、スパイス、パチュリのようなハーブやサンダルウッドのような香木に、バラのような花の香りが複雑に混ざりあったそれのようだ。

ケン・グリエルは、磨かれたばかりの木、皮のヒント、熟したプラム、クローブの香り、これと層をなして、ココアパウダー、ブラックチェリー、ナツメグ、シナモン、深みのあるマホガニーウッドが後方に存在する。さらに香りの余韻として、ラム酒においては非常に珍しい、パイナップル、ローズペタルが感じられる、とする。

ジェネレーションズ・アン・ラリックのアルコール度数43%は、この香りをもっとも美しく表現するために、ディクタドールとしては初めて選択された度数だという。その考え方も、香水のようだ。

味わいにおいてはまず、当然、43%のアルコールによる、辛いほどの刺激を感じるのだけれど、同時に液体の舌触りはとてもなめらかで、甘みを感じるのが印象的だ。これは、干しブドウとバニラ、バラの香りが混ざりあったような穏やかな甘さと鼻に抜ける香りで、これにやや遅れて、カカオやコーヒーのような苦味があらわれる。

ケン・グリエルは、カカオ90%以上のチョコレート、火を入れたオレンジピール、ほのかなクローヴ。ついでナツメグ、乾いたオーク、リッチなレザー、マダガスカル産のバニラのようなかすかな甘味。そして、ここに層をなして、コロンビアのコーヒー、かすかなスターアニスを喉の付近で感じられる、という。さらに層をなして、熟したフルーツ、アーシーなハーバルさ、葉巻、リコリス、クリスマスケーキのような印象がある、と続けた。

そして驚くほど長い余韻……とケン・グリエルは言うのだけれど、実際、このラム酒の後味の長さ、複雑さ、そしてその心地よさには筆者も驚かされた。

これまで述べたような数々の味わいと香りの要素が、本当に長く口内と鼻腔を支配し、その複雑にして華麗なエレガンスが次のひとくちをいざなう。高アルコールの飲料であることを忘れてしまうほどに、魅惑的だ。

ケン・グリエルはこう表現した。

シガーのスモーク、オーキーさ、干しブドウ、煮詰められたプルーン、メジョールデーツ、ざくろ、いちじく。最後にダークチョコレートの香り、ドライで野生的なオーク、スパイス、シナモン、ジンジャー。

30mlのテイスティングサンプルも付属するというディクタドール・ジェネレーションズ・アン・ラリック。この液体を試してみるかどうかは、判断の分かれるところだと想像するけれど、これほどの液体には畏怖すら覚える。

だから、ケン・グリエルの以下の言葉は、単純に自社製品を誇るだけの言葉とはおもえない。

「驚くほど複雑な体験。これまで飲んだもののなかで、もっともファイン。一言で言えば、崇高だ。」

とあるドイツの哲学者は、崇高とは、人智を越えた自然の驚異を目の当たりにしたときに人間が唖然とする経験だ、という。筆者はそういう意味で、この液体は、崇高だと感じる。

世界にごくわずか。驚くほどに高価なこのラム酒。人類が誇るべき芸術の傑作だ、と捉えるべきなのだろう。

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