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シャンパーニュの女性ヒーローがクロスオーバー

ラ・トランスミッションのヴェビナーより

女性の活躍が目覚ましいシャンパーニュには、「ラ・トランスミッション」という9人のシャンパーニュで活躍する女性たちが造ったグループがある。地域も会社もバラバラの9人による、このラ・トランスミッションが主催したウェビナーにWINE WHATは参加した。

届いたのはフィリップ・ゴネだった

筆者はとあるオンラインイベントに参加することになった。主催者はラ・トランスミッションという、聞いたことのない団体。編集部には事前に一本のシャンパーニュのボトルが送られてくるという。突然の話だけれど光栄なことだ。

なぜってシャンパーニュは高級なワインだからだ。有名な話だけれど、シャンパーニュにはおよそ3万4千ヘクタールのブドウ畑があって、そこに、シャンパーニュ委員会のこのページによるとメゾンとよばれるワイン製造会社が360社ある。単純計算で1メゾン平均95ヘクタールほどをカバーする、ということになるけれど、実際のところはメゾン間の規模の差などもあって、20ヘクタール程度、あるいはそれ以下の面積の畑のブドウからワインを造っている造り手も多い。そして、ワインの世界ではよくあることだけれど、規模は小さいけれど世界中にファンがいる、という造り手も少なからずいる。そして、シャンパーニュにはとても厳格な生産基準があるから、大量生産ができない。だから、シャンパーニュは、特別で、高級なワインだ。

例えば、今回の主催者団体のなかに名前のあるクリュッグなどは好例だ。

クリュッグは2020年1月、最高醸造責任者 エリック・ルベル氏が副代表に就任したことで、ジュリー・カヴィルさんという女性が最高醸造責任者を継いでいる。今回のオンラインイベントは女性に関係したものだというから、なにか関係があるのだろうか。

男女の差異をとやかくいうような時代ではないけれど、シャンパーニュのリーダーには、歴史的にも女性が多いし、最近も、ジュリー・カヴィルさんのような例が増えていて、シャンパーニュでは本当に女性の活躍が目立つ。

届いたボトルを紐解きながら、そんなことを考えていたら、そのボトルは、シャルドネの名産地、メニル・シュール・オジェのシャンパーニュ・メゾン「フィリップ・ゴネ」の、ブラン・ド・ブラン エクストラ・ブリュットだった。「3210」という数字は、3年熟成、2つの畑、1つの品種、0ドザージュの意味だとか……

フィリップ・ゴネ 3210 エクストラ・ブリュット
編集部にて

筆者、フィリップ・ゴネさんのイベントに参加したことなどもなく、正直にいって詳しいことは全然知らないけれど、これが特別なシャンパーニュのなかでもさらに特別なシャンパーニュであることは知っている。

誰が、なぜ、このシャンパーニュを筆者に送ってきてくれたのだろう。謎を抱えたまま、ウェビナーに参加したら、タネ明かしはすぐにあった。

「今回は、9種類のシャンパーニュから1本を皆様にランダムでお送りしました」

左手前からエヴリン・ボワゼル(シャンパーニュ ボワゼル)、シャルリーヌ・ドラピエ(ドラピエ)、メラニー・タルラン(タルラン)、アンヌ・マラサーニュ(A.R.ルノーブル)、デルフィーヌ・カザル(クロード・カザル)
奥左からアリス・パイヤール(ブルーノ・パイヤール)、マギー・エンリケス(クリュッグ)、シャンタル・ゴネ(フィリップ・ゴネ)、ヴィタリー・テタンジェ(シャンパーニュ テタンジェ)

この度のイベントの主催団体「ラ・トランスミッション」は、シャンパーニュで活躍する9人の女性が2016年につくった非営利の団体。

その構成メンバーは

エペルネの「シャンパーニュ ボワゼル」で2018年まで代表をつとめ、現在は息子たちにそのポジションを譲っている辣腕経営者 エヴリン・ボワゼル

メニル・シュール・オジェとオジェの2つのグランクリュをもつ、「クロード・カザル」のオーナー デルフィーヌ・カザル

シャンパーニュの南、オーブ県ウルヴィルに醸造所を構える自然派シャンパーニュの旗手「ドラピエ」の共同オーナー シャルリーヌ・ドラピエ

先に紹介した「フィリップ・ゴネ」の共同オーナー シャンタル・ゴネ

「クリュッグ」のCEO マギー・エンリケス

ヴィレ・ド・ラ・マルヌのダムリーに本拠地を構える「A.R.ルノーブル」の共同オーナー アンヌ・マラサーニュ

戦後に創設された数少ないシャンパーニュ・メゾン、そして、その妥協のない作品でガストロノミーの世界を魅了したことで知られるランスの「ブルーノ・パイヤール」の共同オーナー アリス・パイヤール

シャンパーニュを代表する家族経営にして大手生産者のひとつ「テタンジェ」の共同オーナー ヴィタリー・テタンジェ

ヴィレ・ド・ラ・マルヌのウイィに本拠地をおく伝統ある小規模生産者「タルラン」のメラニー・タルラン

の9人

同じシャンパーニュとはいえ、拠点を置く地域も、規模も、まるで違う9つの造り手の、年代も違う女性が、こうして集ってグループをつくった理由をA.R.ルノーブルのアンヌ・マラサーニュはこう説明した。

「27年前、ドメーヌを手放すかどうか、という家族の危機に際して、私はパリでの仕事をやめてシャンパーニュに帰りました。そして家族の仕事を手伝い始めてすぐ、父は病に倒れ、私が、ドメーヌを引き継ぐことになりました。しかしシャンパーニュについての知識が乏しい、28歳の女性にとって、それは大変なことで、その時から、女性のグループをつくれないかとおもうようになりました。5年前、クリュッグのマギーにその話をしたところ、意気投合し、このグループが生まれたのです。」

そして

「このグループは単に女性が集まったというようなものではなくて、シャンパーニュの現代性を体現するグループです。」

という。彼女たちはライバルであり支え合う関係でもあり、そしてなにより、違う、ということが重要なようだ。たしかに、これほどまでに違う組織に属していれば、どちらが上か下か、というような話はそもそも成り立たないだろう。価値の起き方、立脚する基準、あるいは立つ土俵とでもいえばいいだろうか、それが違いすぎる。A.R. ルノーブルのブラン・ド・ブランが、ブルーノ・パイヤールのN.P.U.より優れている、と筆者が主張したとして、それは好みの問題においては勝手に言っていればいいかもしれないけれど、客観的事実のように言い出したとなれば、おそらく、少しでもワインを知っている人は、筆者の正気を疑いもするだろう。

「経験を共有し、一緒に活動しています。それが楽しい。私たちはおたがいに違うことを楽しみ、価値観と信念は共有している。そういうグループです。」

シャンパーニュらしい、というよりも、いかにもワインらしい、と感じる。生き馬の目を抜く、みたいなことはもちろん、彼女たちだってビジネス上あるのかもしれないけれど、そこは本質ではない。ラ・トランスミッション。つまり、継承とか伝達といった意味をもつグループ名も、彼女たちの経験を次に伝えたい、という意図ゆえだそうだ。

自分がわかっているとおもっていることも、他人の目からみれば、また違って見える。このグループのメンバーとして活動するときには他の誰かの視点から何かを語ることもある。そこで自分にとってのシャンパーニュとは違うシャンパーニュの顔を見て、シャンパーニュへの愛が深まる。

そんなことをアリス・パイヤールは言った。

アリス・パイヤールのその発言の実例となるのが、イベント内の他者のシャンパーニュをテイスティングしてコメントする、というパートだった。実際にどんな組み合わせでどんなコメントが出てきたのかを紹介しよう。

9メゾン9ワイン9人

今回のテイスティングに登場した9本のシャンパーニュ。参加者はこのうちの一本をランダムに送られている。

A.R.ルノーブルの「ブリュット・ナチュール マグ15」をメラニー・タルランが試飲し「ドザージュ0、マグナムボトル熟成。好きなタイプのシャンパーニュ。下層土の海の風味を感じる。日本食ならば刺し身、シソ、えのきや舞茸の天ぷらに合うだろう」とコメントしたのを皮切りに

テタンジェ「プレスティージュ ロゼ」はデルフィーヌ・カザルが試飲し「チャーミングでデリケートなキュヴェ。日本の桜みたいな色。自然豊かな場所、ピクニックでも楽しみたい」とコメント。

A.R.ルノーブル ブリュット・ナチュール・マグ15
シャンパーニュ テタンジェ プレスティージュ ロゼ

続いて、タルランの 「ラ エリエン ブリュット・ナチュール  2004」をヴィタリー・テタンジェが。「元気でメラニーみたいなワイン。フローラルで、凝縮したブーケのような香りと、砂糖づけオレンジのような柑橘の香り。リビエラの自然をおもわせもする。オレンジの入った地中海のサラダは好相性のはず。日本食ならば、鴨とざる蕎麦」

タルラン ラ エリエン ブリュット・ナチュール 2004
ボワゼル・シャンパーニュ ジョワイヨ・ドゥ・フランス ロゼ (2007)

ボワゼルの「ボワゼル・シャンパーニュ ジョワイヨ・ドゥ・フランス ロゼ」2007年ヴィンテージは、クリュッグのマギー・エンリケスが「とにかく素晴らしい。繊細ながら自信に満ちている。バラの花園にいるような香り。丸みとエレガンスがある。赤い果実、甘みを感じるスパイス、スモーキーな香りがすこしだけある。サーモン、ほたて、マグロの刺し身もよさそう」と評した。

ブルーノ・パイヤール「ブリュット・ロゼ・プルミエール・キュヴェ」はシャルリーヌ・ドラピエが「これがあたって興奮した。うちもピノ・ノワールがメインのロゼを造っているけれど、すごく違う。長く熟成させた、待っただけの甲斐があるワイン。アッサンブラージュは絶妙で、ピノ・ノワールのベリーのイメージ、シャルドネのシトラスのイメージが、長年の熟成により、素晴らしい効果をあげている。平穏で、まとまりがある。完全性がある。精密さがある。完璧を求めるメゾンの姿勢がわかる。ブラボー!」と絶賛した。

ブルーノ・パイヤール・ブリュット・ロゼ・プルミエール・キュヴェ
クリュッグ グランド・キュヴェ 168 エディション

クリュッグ「グランド・キュヴェ(168エディション)」は、シャンタル・ゴネが「いま、フランスは朝ですが、朝からクリュッグなんて贅沢すぎますよね! フィリップ・ゴネはシャルドネ単一品種、そして単一畑を強みにしているメゾン。一方で、クリュッグはアッサンブラージュの帝王です。ふくよかで繊細で、長い余韻。芳醇さ、エネルギー、精密さ、フレッシュさ……無数の要素をまとめ上げる技、あらためて素晴らしいです」と語った。

その、フィリップ・ゴネの「3210 エクストラ・ブリュット ブラン・ド・ブラン」はアリス・パイヤールが試飲した。「このシャンパーニュは大好き! ふくよかさがあって、シャンパーニュのシャルドネを知るのにぴったりな一本です。というのは、コート・デ・ブランのシャルドネには私も馴染みがあるのですが、このワインには、南のオーブ県モングーのシャルドネが加わっているのです。それぞれのテロワールを反映しているのでしょう。メニル・シュール・オジェのシャープでピュアなシャルドネに、モングーのシャルドネが、まろやかさ、パワーを与えているように感じる。ブドウの個性をよく調査しての、英断だとおもいます。熟成のクリーミーさもあって、これに合わせる食事なら、ガンバス(エビ)を使いたいですね!」とのこと。

フィリップ・ゴネ 3210 エクストラ・ブリュット ブラン・ド・ブラン

クロード・カザルの「カルト・オール ブラン・ド・ブラン グラン・クリュ NV」を試飲したのは、エヴリン・ボワゼル。「これも、メニル・シュール・オジェとオジェのシャルドネだから、シャンパーニュのシャルドネをよく表しているといえるとおもいます。クレバーでデリシャスなブレンドです。メニル・シュール・オジェの鋭さすらあるミネラル感に、オジェのまろやかさ、ふくよかさ。樹齢40年のブドウ樹をもつメゾンであることを納得させるテクスチャ―も魅力です。胡麻風味のエビのソテーや、わらびのような山菜が合うとおもいます」とした。

クロード・カザル カルト・オール ブラン・ド・ブラン グラン・クリュN.V.
ドラピエ ブリュット・ナチュール ロゼ

ドラピエ「ブリュット・ナチュール ロゼ」はアンヌ・マラサーニュが担当。「私たちのメゾンのロゼははシャルドネが主体なのですが、こちらはピノ・ノワールだけのロゼで、セニエ法で造られています。味わってみるのを楽しみにしていたんです。官能的で、フルーツがバランスよく感じられ、ノン・ドザージュということもあるのでしょう、ミネラル、塩味も感じます。日本ならば、やきとりやマグロのお刺し身などと合わせてはどうですか? プロシュートもいいとおもいます。」

個人的に興味深かったため、このセクションは長めに紹介した。というのは、9社それぞれのスタイルをイメージしながら、各社が独立して主催するイベントや説明では知ることのできない、シャンパーニュの見え方、注目すべきポイントを知れたからだ。

ウェビナーでは、続いて、シャンパーニュの未来、として、環境の話が語られた。

シャンパーニュの未来

シャンパーニュの未来についての話の口火を切ったのはシャルリーヌ・ドラピエだった。

「先週(4月半ば)には霜があり、その前は暖かかった。私たちは、2000年代初頭から、環境問題を意識し、シャンパーニュの全生産者が、なにかしらの認証を10年以内にとる、という目標を掲げていて、ドラピエであれば、すでに、自社畑のうち30ヘクタールが有機栽培です。もちろん、有機栽培が唯一の環境へのアプローチでもなければ、ベストというわけでもありません。いろいろなアプローチがあるとおもいます。たとえばカーボンフットプリントも配慮しなくてはいけない問題です。ドラピエではこの5年間、カーボンフットプリント0を達成しています」

さすがはドラピエといったことも感じるけれど、メラニー・タルランがこれに続けて

「その土地に生きる植物を保全したり、河川の保護、ブドウ栽培も機械よりも人の手を使うようにする、といったアプローチもあります。土壌を考えれば、地中の菌のバランスなども重要ですよね。私は、ヴィニュロンリサーチャーを自認していまして、私たち「タルラン」の畑には、樹齢40年の接ぎ木していないシャルドネあるのですが、これに、希少品種であるアルバンヌやプティ・メリエを受粉させるようなこともしています。その結果がどうなるかについては、15年、20年はかかって明らかになるような気の長い話ではありますが、自然なやりかたで環境の変化に対応する可能性を期待しています。」

と語った。

さて、こうなってくると、さすが日本というべきか、シャンパーニュ愛では人後に落ちないお国柄が顔をのぞかせた。

ウェビナーではこのあとに、シャンパーニュをどう飲んで欲しいか、というような話題もあったのだけれど、参加者の質問は環境や品種に関しての話題に集中し、霜の害についてもう少し詳しく、新型コロナウイルスによる影響で今年も栽培家と生産者の間での交渉は難航しそうか、新品種採用の可能性はあるのか、といった話がなされた。

とはいえ、現時点ではまだ、なんともいえない、というのがラ・トランスミッションからの回答だった。

確かに季節外れの霜の害で、南部の、すでに芽吹き始めていたブドウ樹は被害を受けた。とはいえ、ブドウの生育期はまだこれから。収穫量の予想は立てづらい。昨年の経験から、栽培家と生産者の間の話し合いは早い段階から始められるだろう、ということだけれど、これも、そもそもの作柄にも大きく影響される。続報に期待、といったところだろう。

そして、新品種の導入などとなれば、これはもうシャンパーニュのAOC全体に関わること。いつかは通るべき道かもしれないけれど、長い道のりとなるだろう。

ただ、メラニー・タルランが話題に挙げた、アルバンヌとプティ・メリエというブドウは、シャンパーニュで古くから栽培されている品種で、シャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエの3品種を使ったものしか実質上は見かけないシャンパーニュにおいて、実は、AOC的にも使用を認められている。現在は、同じく認められているピノ・グリ(フロマントー)とピノ・ブランとあわせても栽培面積はわずかに0.3%ほど、という希少品種だけれど、近年、温暖な環境でもよく酸を保つプティ・メリエと、オーブ県原産で、生育が遅く糖度が高くなるアルバンヌは、その可能性が期待されているという。こういった品種の名前を耳にする機会は、今後増えていくかもしれない。

そして、ラ・トランスミッションの名前を耳にする機会も、今後、増えていってほしい。なにせ、日本はシャンパーニュが好きだ。そのシャンパーニュを牽引する、それぞれのスターたちのクロスオーバーが、私たちにとって、面白くないわけがないからだ!

*シャンパーニュ委員会の2021年4月21日の発表によると、シャンパーニュでは、他のワイン生産地同様、4月6日から4月16日までの8日間 、厳しい霜の影響を受け、アペラシオン全体の25〜30%の芽が失われたと見積もっている。局地的な降水量、風の有無、芽の生育度合いなど区画により損傷の程度は大きく異なるものの、いくつかの例でいうと、被害を受けたのは、コート・デ・バール、マシフ・ド・サン・ティエリー、ヴィトリー=ル=フランソワ、ヴァレ・ド・ラ・マルヌ、シャトー=ティエリの西、コート・デ・ブランの南、コート・ド・セザンヌの南だという。

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