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ボジョレーワイン パンデミックも追い風に

ボジョレーの2020年と2021年

2021年5月25日、ボジョレーワイン委員会がオンラインセミナーを開催した。パンデミックでネガティブな話題も多いワイン業界だけれど、ボジョレーの面々はポジティブだった。

2021年のボジョレー・ヌーヴォーは11月18日解禁

ヌーヴォーだけがボジョレーではないは実証されていた

2020年は11月19日が第3木曜日だったので、その日が解禁日となったボジョレー・ヌーヴォー。

世界的なウイルスの蔓延から、新酒のお祝いは例年のように、とはいかず、2020年は、日本へのボジョレー・ヌーヴォーの輸出量も2019年比で21.6%減、となった。

それでも、海外の市場では、日本は首位をキープ。輸出量は28,656ヘクトリットルで、2位のアメリカの11,208ヘクトリットルを大きく引き離し、輸出量全体の実に46%を占めた。ヘクトリットルは100リットル、ワインボトル一本が0.75リットルなので、単純に計算すると、382万本のボジョレー・ヌーヴォーが2020年に日本にやってきたことになる。

そんなボジョレー・ヌーヴォーだけれど、ボジョレーのワインのなかでは、その生産量は減り続けている。この15年でボジョレー・ヌーヴォーの生産量は約半分になった。

代わりに生産され、成長しているのが、ヌーヴォーではない、ボジョレーワイン。ボジョレーの南から、単にボジョレーと表記される「AOP ボジョレー」、パリに次ぐフランスの都市 リヨンがあるローヌ県とその北のソーヌ=エ=ロワール県の38の村にまたがる「AOP ボジョレー・ヴィラージュ」、さらにその北、ブルゴーニュのマコネーエリアまでの範囲に広がる10の「クリュ・デュ・ボジョレー」のワインだ。

2020年、日本では、AOP ボジョレーが2019年比73%、AOP ボジョレー・ヴィラージュが104%、クリュ・デュ・ボジョレーが19%の成長という、大きな前年超えを果たした。おこもりワインが増えたなかで、ボジョレーは売れたのだ。

なぜ売れたのか。2020年はボジョレー・ヌーヴォーをおうちで楽しむのであれば、せっかくだからヌーヴォーではないボジョレーも、という向きもあっただろうし、ボジョレーワインの生産者たちが、ヌーヴォーだけではない、ボジョレーワインの魅力をアピールし続けた努力の賜物でもあるだろう。また、温暖化の影響で、ボジョレーのブドウはよく凝縮し、代わりに量産しづらくなっていることから、生産者たちの量より質という選択を環境が後押ししている側面もある。

そして、ボジョレーワイン委員会は、ボジョレーワインの多様性も理由に挙げる。

多様性といっても、ボジョレーで栽培されているブドウの97%がガメイなので、造られるワインは、基本的にはガメイの赤ワインかロゼワイン。クリュ・デュ・ボジョレーは赤のみだ。ここだけ見ると多様性の真逆である。

しかし、今回のセミナーでは、編集部に2本のワインが届き、試飲ができたのだけれど、それは全然ちがうワインだった。

1本は、ボジョレーを世界的に有名にした立役者 ジョルジュ・デュブッフ氏のワイナリー「ジョルジュ・デュブッフ」の「ムーラン・ナ・ヴァン 2018年」で、イチゴの香り、口に含むとぴりっとスパイスの風味も感じられ、今後の熟成も期待できるワインだったのに対して、もう1本は、世界の自然派ワインの父的存在である、マルセル・ラピエール氏のワイナリーとして知られる「シャトー・カンボン」の「ブルイィ 2018年」。自然派ワインだ。キイチゴのような可愛らしいイメージで、エレガントで上質なタンニンとふっくらとした甘味。液体全体がまろやかで、すいすいと飲めてしまう。

上がジョルジュ・デュブッフ ムーラン・ナ・ヴァン 2018。ムーラン・ナ・ヴァンは歴史的には、ブルゴーニュの一級畑レベルの評価を受けてきたボジョレーを代表する産地。
下は、シャトー・カンボン ブルイィ 2018。ブルイィはボジョレーのクリュの中では最大の1250ヘクタールに303の造り手が集う。花崗岩、石灰、泥岩などが複雑に入り組んだ土壌が特徴。

この2本だけでは、実例として不足ではあるけれど、とはいえ、この2本だけとっても、同じボジョレーの、ガメイという品種で造られた赤ワインでありながら、産地、造り手の考え方、ワインの造り方で、性格はまったく異なる。さわやかなもの、しっかりとしたもの、価格的に気軽なもの、本格的なもの、ボジョレーのなかで様々なワインの選択肢がある。

だから、ヌーヴォーのおかげで知っている、あのボジョレーの、ヌーヴォーじゃないワインを1本飲んでみると、ほかも気になる。そういう心理もボジョレーワインがよく飲まれるようになった要因なのかもしれない。

2021年のボジョレー・ヌーヴォーは高くなりそう

さて、ここからはちょっと専門的な話だ。

まずはいま、フランスワインの多くの地域で話題になっている霜の影響について。

3月には27℃にまで上がったほど、暖かった今年の春。ブドウの成長も早かった。ところが4月の第一週にフランスを襲った寒波により、ボジョレーもマイナス8℃を記録するほどに冷え込んだ。過去40年でも類のない冷え込みを前に、人間の力は弱く、芽を出していたブドウ樹は凍りついて、大きな被害を受けた。

正確な被害状況はまだ分からないけれど、収穫量の減少と収穫の遅延は予想される。となれば、2021年のボジョレー・ヌーヴォーは値上がりすることになるだろう。

マセラシオン・カルボニックってなに?

ところで、マセラシオン・カルボニックという醸造方法の話が出ると、かならず名が挙がるのがボジョレーだ。マセラシオン・カルボニック=ボジョレー・ヌーヴォーの醸造方法という認識がワイン業界では一般化している。

この醸造方法は、小難しい名前に比して、内容はわりと簡単だ。摘んできたブドウ、基本的には黒ブドウを、タンクの中にいれて蓋をする。そうすると果実の内部で発酵が始まり、ブドウが柔らかくなるので、ブドウがブドウの重さで潰れ、果汁が出てきて、今度は果皮についている酵母とも触れ合って発酵する。これでワインができてしまう、という醸造方法、というよりも一種の現象だ。

そこから先は、ブドウをプレスしたり、液体とそれ以外を分けたり、造り手それぞれの判断だけれど、マセラシオン・カルボニックでは、タンクの中に、発酵によって発生した二酸化炭素が充満して、ブドウの酸化が抑えられる。そして、皮の色はよく出るけれど、強く潰さないので、渋味や酸っぱさは出づらい。というわけで、雑味の少ない、ブドウの味や香りを感じやすいワインができあがるのだ。

果皮や種から色や渋味が出る現象=マセレーションが、二酸化炭素=カーボンのなかで起こるので、カーボニック・マセレーション、これをフランス語にしてマセラシオン・カルボニックという名前がついている。

今回のウェビナーでは、なんで、ボジョレーはマセラシオン・カルボニックをやっているの? という質問が出た。それに対しての生産者たちの返答はこうだった。

ブドウを摘んで、容器に入れて、蓋をしているとワインができる。ボジョレーでワインが造られるようになった古代ローマ時代にはこうやってワインを造ったのではないか。

ボジョレーでは、マセラシオン・カルボニックは伝統的な手法だ。とはいっても、ボジョレー・ヌーヴォーを名乗るために、必ず採用しなければいけない醸造法ではないし、いまではいろいろな醸造方法がボジョレーではとられている。それでもほとんどの造り手が、いまも、ボジョレー・ヌーヴォーには、マセラシオン・カルボニックを採用している。と。

つまり、ずっとやっていて、多くの人にとって、あえて変える必要はない完成された方法、ということなのだろう。筆者、他の地域でも、自然派の造り手がマセラシオン・カルボニックを採用しているのを見たことがある。

この方法はブドウの状態がよければ、シンプルで合理的だ。自然でピュアで、重苦しくないワインが人気の現代にもマッチしているとおもう。

ボジョレーにとっては伝統的なスタイルが、現代のニーズに合致していた。そんな幸運な巡り合わせも、ボジョレーワインの人気の理由なのかもしれない。

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