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チリのアイコン・カベルネ「コノスル シレンシオ」を試飲

口に含んだ瞬間、味わいの複雑な構成と深さに思わず声を失う!

専門家に聞いてみた

「このワイン、ブランドでテイスティングしたら、チリって絶対に答えられませんよね」

アカデミー・デュ・ヴァン講師の藤巻暁さんは、大ぶりのグラスに注がれたワインを口に含むと、開口一番こう言い放った。

その理由のひとつが、ユーカリのフレーバーが控えめなことだという。チリのカベルネの大きな特徴とも言えるユーカリ香。しかし、藤巻さんはとても敏感。90年代後半のチリワイン・ブームの時も、上質とされるカベルネから必ずといってよいくらいユーカリ香がするので、「これさえなければ素晴らしいワインなのに」と何度も思ったそうだ。ところがコノスルのアイコン・カベルネ「シレンシオ」はそのユーカリ香がよい按配に抑えられている。

「ほのかにミントのような香りがしますが、あくまで爽やかさのアクセント程度。このくらいのミント香はボルドーや冷涼な年のカリフォルニアにも感じられます。むしろ土っぽいニュアンスが強調され、ボルドーのような旧世界的複雑味が感じられますよね」と語る。

そして次に、藤巻さんは奄美の少なさとバランスのよい酸味を挙げる。一般に温暖で乾燥した気候のチリでは、ブドウの糖度が上がりやすいはんめん、酸が落ちやすい。その結果、たとえ残糖のない辛口に仕上げても、どこかジャムのような甘さを感じさせるワインが少なくない。

「果実味、酸味、タンニンの三要素が、全て調和しています。どれかひとつが突出したりしていないので、心地よく味わえる」と藤巻さん。

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その理由はブドウの山地にあるのだろう。シレンシオのブドウの98パーセントを占めるカベルネ・ソーヴィニヨンは、このブドウ品種の聖地とも言われるマイポ・ヴァレーの中でも、アンデス山脈の麓の標高が高いアルト・マイポ産。寒暖差が大きいためブドウはよく熟し、一方、酸味もよく保たれる。

そして最後に、「押し付けがましいところがないのも、新興のビッグワインっぽくないですね」と藤巻さんは言う。「新樽100パーセント熟成なのに、オークの香りがぷんぷんしないし、造り込んでいるのではなく、気候風土の風味がするワインに仕上がっていると思います」

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シレンシオのブドウの収量は1ヘクタールあたりわずか4000キロ。ワインにすればおよそ28ヘクトリットルに過ぎず、ボルドーのトップシャトーと比べても低い。小石だらけの痩せた土壌や台木を用いない自根による栽培のためだろう。ブドウは厳しい環境の中で育ってこそ、テロワールの特徴を如実に表すものだ。

「カリフォルニアの果実感とボルドーの複雑さ。双方を兼ね備えたワインに仕上がっていると思います。例えるなら果実みと言う豪速球と複雑さと言う変化球を両方投げられる凄腕のピッチャー。洗練されていて、複雑で、深みが感じられる。こういうタイプのチリワインって今までなかったんじゃないかな」

取材を終えた藤巻さんは、置きっぱなしになっていたシレンシオを、その直後、藤巻邸を訪れたワイン好きの来客にブラインドで飲ませてみたという。

「思ったとおり! 誰としてチリとはわからず、高級なカベルネ・ソーヴィニヨンという人が多かった。何人かはボルドーと答えていましたよ」

(取材・文/柳 忠之 写真/徳山喜行)

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ふじまき・あきら
JSA認定シニアソムリエ
WSET®アドヴァンスト・サーティフィケイト
東急百貨店本店和洋酒売場 勤務
美大在学中に美術の勉強でフランスを周遊しワインと出会う。
1989年アカデミー・デュ・ヴァンの門をたたき、複数のワインバー・レストランにおいて
ワインのセレクト・サーヴィスに従事した後、ワインオークション会社を主宰。
現在、日本有数の品揃えを誇るワインショップ東急百貨店本店和洋酒売場にて
シェフソムリエとしてコンサルティングをしながらワインの普及販売に携わっている。

 

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