世界第4位のワイン輸出量を誇るオーストラリア。その有名産地といえばバロッサ・ヴァレー、マーガレット・リヴァー、アデレード・ヒルズあたりがあげられる。
ところがいま、「GOURMET TRAVELLER WINE」2016年2/3月号)によると、「グラニット・ベルトがもっともキテる(most exciting up-and-coming wine region)という。
しかし、グラニット・ベルトはブレートバリアリーフやゴールドコースト、ケアンズといったビーチリゾートで知られるクイーンズランド州にある。トロピカルなイメージとワインとは相性が悪いようにも思える・・・。
ならばこの眼で確かめに行かねばならない。知られざるワイン銘醸値グラニット・ベルト(Granite Belt)へ。
文:秋山 都 写真:Glen Eaton
亜熱帯なのに1日の中に四季がある
クイーンズランド州の州都であるブリスベンからクルマで移動すること3時間。わたしたちが訪れたのは7月中旬、現地では初冬にあたる季節だった。ブリスベンの空港を出発した時には半袖でも快適だったが、途中で休憩するごとに徐々に涼しくなり、現地に到着した際はジャケットを羽織っていても肌寒いほど。それもそのはず、グラニット・ベルトは内陸部の海抜600〜1000メートル超の高地にある、ゆるやかな斜面が連なる丘陵地帯だったのだから。
グラニット・ベルトへのアクセス
最寄りの空港はブリスベン(日本からなら成田〜ブリスベン直行便が便利!)。グラニット・ベルトへの3時間のドライブはオーストラリアらしい景色が楽しめる。路傍の牛や馬、ときにカンガルーが手を振ってくれる(笑)し、運が良ければアゴヒゲトカゲや極彩色のオウムが見られるかも?
「グラニッ・トベルトがなぜイケてるのかって? その秘密はまずこのクール(冷涼)な気候。ここは亜熱帯にもかかわらず冬の朝晩は氷点下になるほど冷え込むんだ。今日だって朝は7℃だったけれど、日中は28℃まであがる。1日の中に四季があるような、この寒暖差がブドウを美味く、ワインをクールにしてくれるんだよ(笑)」と語ってくれたのはグラニット・ベルトでもっとも長い歴史をもつバランディーン・エステートの第3代当主アンジェロ・プリージ氏。この一帯はグレートディバイディング山地(大分水嶺)の西部内陸に位置するため、太平洋からの湿度の影響は低く、ブドウにとって良い成育環境が広がるのだそうだ。
ここでのブドウ栽培の歴史は意外に長く、最初に植樹されたのは1870年代だという。以降イタリアからの移民を中心にコミュニティが形成され、いまは50以上のワイナリーが点在するワイン産地となった。主にシャルドネやシラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨンが栽培されているが、いまこの地でもっとも注目されているのがヴェルデーリョ、フィアーノ、ネッビオーロ、サペラヴィといったオルタナティブ品種である。
ストレンジ・バードで盛り上げていこう
オルタナティブ品種とはオーストラリア全体のブドウ産出量の1%に満たない生産量のブドウ品種を指すため、どれも少量生生産であることが最大の特徴。
「先月マルヴァジーア(イタリア系白ブドウ)を植えたばかり。このヴェルメンティーノ(同)も、オーストラリアで扱っているワイナリーは50もないと思いますよ。サペラヴィはジョージアの黒ブドウだけど、もう3年目に入りました。いまはなんでも実験したい時期(messing about=エクスペリメンタルの意)なんです。テクニックもどんどん新しいものを取り入れていきたい」
そう情熱的に語るのは、ゴールデン・グローブの若きワインメーカーであるレイ・コンスタンツォ氏。グラニットベルトは斜面が入り組んでいるため、さまざまな方向を向く畑を細かくブロックに分け、20種ものブドウを栽培しているという。
このオルタナティブ品種に注力するワイナリーが集まって「ストレンジ・バード」というワイントレイルが結成されたのは2007年のこと。いま加入ワイナリーは30を数え、地域全体でオルタナティブ品種を盛り上げていこうという気運が高まっている。
2億年前の花崗岩地帯
ここグラニット・ベルト最大の規模となる100ヘクタールのブドウ畑をもつワイナリーといえばシロメィワインである。チーフワインメーカーであるアダム・チャップマン氏はグラニットベルトの魅力は「1に冷涼な気候、2にユニークな土壌だ」という。
「グラニット・ベルトは2億年前に貫入した巨大な花崗岩(グラニット)の地帯。この岩に地下水が沁み入り、夜になるとその水が凍って膨張するため岩を内部から圧迫する。昼間に溶けて隙間ができる。その繰り返しが巨岩を小岩〜砂状に砕いていったんだ。この水はけのいい性質、砂利質の土壌がグラニット・ベルトのワインをよりおもしろくさせているんだ」
なるほど見回せばあちらこちらに巨岩がニョキッと地表に顔をのぞかせている。地球でもっとも古い岩盤ともいわれているグラニットベルトが2億年の歳月をかけて小石や砂へ姿を変え、ミネラル分豊かな土壌を形成しているとはなんともスケールの大きい、オーストラリアらしい物語だ。
一方でこの土壌をかのフランスワインの銘醸地と酷似していると指摘する専門家もいる。いままで二度この地を訪れているA+オーストラリアン・ワインエデュケーターの沼田実氏は「冷涼な気候に加えて、高海抜ならではの紫外線量の増大、日中と夜間の大きな気温差。そして花崗岩が、そのまま崩れて土壌となった、痩せて、水はけの良い土地。この環境はまるで北部ローヌを思わせます。シラーズやヴィオニエが独特な風味として開花するのは、至極当然と考えらえるのです」と語っている。
グラニット・ベルトーーその現在(いま)を知れば知るほど興味深い産地だが、世界はおろかオーストラリア国内でも認知度がまだ十分ではない状況だ。まさにmost exciting up-and-coming(ブーム前夜の)ワイン産地、グラニット・ベルトをワイン愛好家はいまのうちに注目されたい。
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