トカイワインの近未来

最強の2資格保持者 ロン・ウィーガンド が語る

マスター・オブ・ワインとマスター・ソムリエというワイン界最上位のふたつの称号を両方もっている、ロン・ウィーガンドさん。彼はトカイワインが今後、さらなる世界的名声を博すと見る。

ロン・ウィーガンドさんの日本向けウェビナーに合わせて用意された、テイスティング小瓶セット。 上段はすべて2019年のトカイ辛口。下段はすべて2013年の甘口。

ハンガリーワインの復活

さしてハンガリーという国に馴染みがなくとも、頻繁にワインを飲む人ならワイン産地「トカイ」はなんとなく耳にしたことがあるだろうし、さらに知識のある人は「世界三大貴腐ワイン産地のひとつ」であることも把握済み。もちろん、辛口トカイワインがヨーロッパで人気急上昇中なんて事実まできちんとおさえている人は、じつにお見事、である。

マジャール人が大平原に興したハンガリーは、複数の国と国境を接する内陸国。農業をするには恵まれた地だが、他国の干渉を受けやすい地理的条件が仇となり、分裂、割譲、支配者の移行が延々と続いてしまった。ハンガリー統一&独立運動はなんども頓挫し、ようやく独立を果たしたところで、第二次大戦後は旧ソ連側に。

農業も工業も大量生産を強いられ、質の向上は二の次という共産圏時代。抑圧を避けるべく、多くのワインん生産者が国外へ逃亡していった。つまり、トカイワインが本格的に復興を始めたのは、東西冷戦が終結した1989年以降だ。

今日までの約30年で、亡命していたワイン関係者がこぞって帰国し、荒れ果てた畑を再整備。伝統のワインを蘇らせると同時に、他国で学んだ技術とセンスを取り入れ、モダンなワイン生産にも取り組んできた。

トカイにしかない貴腐ワイン

そんな不死鳥の如く蘇ったトカイワインに期待を寄せるのが、ロン・ウィーガンドさん。

超難関とされるマスター・オブ・ワインとマスター・ソムリエ、その両タイトルを世界で初めて取得した人物である。

昨年12 月に開催されたウェビナーにおいて、「ハンガリーのトカイを取り巻く状況は、ひと昔前のドイツワインと同じ。1970年代、ドイツのリースリングといえば遅摘みの甘口ワインばかりに注目が集まり、辛口のリースリングなんてまったく話題にならなかったんですよ」と語った。

半世紀近く経った今日、ドイツ産の上質な甘口リースリングはきちんと残りつつ、辛口リースリングの需要は急増している。その法則が、今後はフルミント種などトカイの代表品種にも当てはまっていく……というのがウィーガンドさんの見立てだ。

「ワイン新興国になぞらえるなら、ナパ。ゼロからスタートしたナパはワイン産業が発展するにつれ、テロワールが語られるようになりました。トカイも、すでにテロワールに着目される段階に入っていますよね。」

畑や造り手の違いで多彩なキャラクターを展開していくのが、世界的名声を獲得するのに必須条件なのである。加えて、トカイでしか持ちえない特性も強力なアピールポイントだ。たとえば、同じ貴腐ワインでもソーテルヌとトカイ・アスーを比べると大きな違いがある。生産者によると、トカイの場合、スキン・コンタクトでタンニンを多く含ませてストラクチャーを強固にしているし、醸造時に酸化を促す分、抜栓した後の酸化が非常に緩やか。軽く栓をして冷蔵庫で1週間程度キープしたところで大きな変質は見られないとか。

想像以上にユニークで使い勝手がいい、トカイワイン。

ちょっとでも好奇心をくすぐられたら、トカイの辛口と甘口両方トライし、その魅力を体感して。

トカイのセラーは、どこも「トカイかび」と呼ばれる良性のかびが壁を覆う。このかびがほかの雑菌を駆逐し、ワインの風味を損なうブレタノマイセスもめったに発生しない。
写真/上仲正寿

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