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新世界ピノ・ノワール座談会

まだブルゴーニュにこだわりますか?

ピノ・ノワールはブルゴーニュに限る、と思い込んでいませんか。
アメリカはカリフォルニアとオレゴン、南半球のオーストラリア、ニュージーランドからピノ・ノワールを輸入する専門家4人による新世界売り込み座談会。
変化は現場で起きている!

司会・文:柳 忠之 / 写真:太田隆生

︎品質重視でワインを選ぶなら

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新世界4地域のピノ・ノワールの輸入元のみなさん。左から、オレゴン代表 濱本正利さん(ヴィレッジ・セラーズ)、カリフォルニア代表 山村博子さん(中川ワイン)、オーストラリア代表 唄 淳二さん(ヴァイ アンド カンパニー)、ニュージーランド代表 尾崎 裕さん(ワインダイヤモンズ)。

本日は4人のかたに、それぞれワインをお持ちいただきました。そのワインを試飲しながら、お話を進めたいと思います。まず、山村さんがお持ちになられたカリフォルニアから開けましょうか。

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サンディ/ピノ・ノワール・サンフォード&ベネディクト・ヴィンヤード2012
中川ワインの業務企画部長、山村博子さんご持参。IPOBの提唱者のひとりであるラジャー・パーがサンタ・リタ・ヒルズに起こした「サンディ」のピノ・ノワール。サンタ・バーバラ・カウンティで最初にピノが植えられた畑のブドウを醸造したもの。
希望小売価格:10,000円/輸入元:中川ワイン

  • 山村
  • いまのカリフォルニアのピノ・ノワールで私が一押しの「サンディ」です。
  • 濱本
  • 赤いベリーの香りが出て、純粋な感じがしますね。
  • 従来のカリフォルニアのピノと違って、いい意味で繊細です。

90年代の初めぐらいまで、まともなピノ・ノワールはブルゴーニュ以外ではできないと言われていました。それを打ち破った最初のワインはなんでしょうか?

  • 濱本
  • カリフォルニアなら、ロシアン・リヴァーの「ロキオリ」や「ジョセフ・スワン」。彼らは畑やクローン(注1)をきちんと選んで、「すごいピノ・ノワールをつくろう」という高いこころざしが最初からありました。
  • 山村
  • 少なくとも日本ではマウント・ハーランの「カレラ」です! ブルゴーニュにもひけをとらない、カリフォルニアらしい凝縮感があって、どちらかといえば酸というより複雑な味わいのワインだったと思います。いまでもオーナーのジョシュ・ジェンセンの考えかたは変わらず、スタイルも一貫しています。ジェンセン自身、ブルゴーニュで栽培と醸造を修行してきた人ですけれど、彼がつくっているワインは、ブルゴーニュとは別物です。
  • 尾崎
  • 僕も「カレラ」のジェンセン・ヴィンヤードを飲んで、すごいインパクトを受けました。いまとは全然、僕自身の嗜好が違ってましたけど、カリフォルニアでいうと、ラザフォードの「エル・モリーノ」も美味しいと思いました。オーストラリアをいろいろ飲むようになって、「カーリー・フラット」が美味いなぁとか、「バイ・ファー」の熟成したヤツは最高、「バノック・バーン」もいいなぁと。ニュージーランドでは「リッポン」が美味しいと思ってました。
  • オーストラリアの「バス・フィリップ」も「ビンディ」のつくり手たちも、ブルゴーニュに惚れ込んでピノ・ノワールをつくり始めました。いまはその次の世代が出てきて、層の厚みが増してきた感じがします。ワインは食文化と切り離せない。いまどき、わざわざパリまで飛んで三ツ星レストランなんて時代錯誤でしょ。ほかの国にも面白いレストランがいっぱいあるじゃないですか。本当に品質重視でワインを選び、料理に合わせたワインの提案が世界各地でなされているので、ピノ・ノワールもフランスにこだわる必要はまったくないと思うんですよ。
  • 尾崎
  • いい例が、イギリスの三ツ星レストランの「ファット・ダック」(注2)がオーストラリアに引っ越すんですよ。そこに彼らの目にかなう素晴らしい食材があるから。日本人て、英語の教育をたいてい6年は受けているのに、ぜんぜん言葉のわからないフランスのワインに飛びつく。おかしいでしょ? それはたぶん、日本人が夢見がちな民族だから(笑)。

カリフォルニアはサード・ウェーブ

次は唄さんのオーストラリアのワインを開けましょう。

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ステファノ・ルビアナ / エステート・ピノ・ノワール 2009
ヴァイ アンド カンパニー代表取締役、唄 淳二さんご持参。スティーヴ・ルビアナが90年、タスマニアのダーヴェント・ヴァレーに創立したステファノ・ルビアナ。ブドウの15%は除梗なしの全房仕込。熟成に使用する新樽の比率は35%。
希望小売価格:6,800円(ただし2012)/ 輸入元:ヴァイ アンド カンパニー

  • タスマニアの「ステファノ・ルビアナ」です。
  • 尾崎
  • えっ、09年!?
  • たまたま手元にこれしかなかった(笑)。いま売っているのは12年ヴィンテージです。
  • 山村
  • いい色に熟成してますね。
  • ピノ・ノワールはそう簡単に栽培できる品種ではないし、地域性も大切なので、オーストラリアならヴィクトリア州、南オーストラリア州のアデレード・ヒルズにエデン・ヴァレー、西オーストラリア州も南の方にいくとありますけど、あといは今日持参した「ステファノ・ルビアナ」があるタスマニア。とくにピノ・ノワールとシャルドネについては、タスマニアが年数も重ねて質が上がってきてると思います。スパークリング用が基本的に多くて、大手が囲い込んでいるせいで、ブドウの価格が高騰するなか、新しい生産者も出始めてきましたし。いま、オーストラリアでいちばん面白い生産地です。
  • 濱本
  • うちもタスマニアの生産者は昔から扱っています。大半の地域が冷涼で、これほどしっかりしたピノができるエリアって限られますよ。
  • このワイナリーがあるのは、タスマニア島の州都ホバートのすぐ南にあるダーヴェント・ヴァレー地区で、北向き斜面にブドウを植えてます。だから陽当たり抜群です。

最初に試飲した山村さんの「サンディ」でも明らかですが、新世界ピノ・ノワールのファースト・インパクトから10年以上の時を経て、いろんな変化がおきてます。

  • 山村
  • コーヒーにサード・ウェーブがきているように、カリフォルニア・ワインもいま、第3ウェーブなんです。1976年の「パリスの審判」(注3)を第1ウェーブとすれば、ロバート・パーカー(注4)の影響の大きかった時代が第2ウェーブ。「マーカッシン」「キスラー」「ロキオリ」もココに入る。素晴らしいけど、パーカーが好むパワフルなワイン。いまでもそういうワインが売れるんですよ、カリフォルニアでは。ところがここにきて世代交代があり、ブルゴーニュを飲んで育った若いワイン・メーカーや東海岸のレストランで経験を積んできたソムリエたちが、もうそういう時代ではないでしょ、と変革を起こした。いまになってようやくブルゴーニュのほうを向いたワインをつくる人たちが出てきて、これが第3ウェーブです。

新世界のつくり手にはブルゴーニュに対するコンプレックスがあるんですか?

  • 山村
  • カリフォルニアのIPOB(in Pursuit of Balance=バランスの追求を表す。注5)というグループに代表される第3ウェーブの人たちは、めちゃくちゃブルゴーニュを意識しています。でも、自分たちのワインにはブルゴーニュにない、ポジティヴな要素がある、という自負も持っていて、コピーをつくろうとしているわけではない。「サンディ」は、IPOBの提唱者のひとり、ラジャ・パーがオーナーのワイナリーです。サード・ウェーブ・ワインのつくり手は海に近い、涼しいエリアに多くて、ディジョン・クローン(注6)を嫌う傾向があります。というのも、ディジョン・クローンをカリフォルニアで育てると、過熟してパワフルで濃いワインになってしまうんです。それで、スワン(注7)やマウント•エデンなどの古いクローン(注8)を好み、樽も大きめのパンチョン(注9)、しかも古樽を使って新樽香を控える傾向にあります。ひと昔前のパーカーが好きなタイプとは明らかに違う。

濱本さん、オレゴンはどうですか?

  • 濱本
  • 今日持ってきた「J. K. キャリアー」は、私がオレゴンを知った初期にいちばん感動したワインなんですよ。4つの単一畑があるんですが、6つの畑のブドウをブレンドしたのがフラッグシップなんです。値付けの問題もあってややこしいんですけど、オレゴンは単一畑のワインよりブレンドのほうが、バランスがとれたワインが多いと感じることがよくあります。
  • 山村
  • うちで扱っている「クリストム」もそうですね。

「ペログストロム」も変わったそうですね。

  • 濱本
  • 変わりました。昔はものすごくインパクトの強いワインをつくってました。07年はかつて経験したことのない寒い年でしたが、初めて自分のワインにエレガンスを見つけたそうで、そのときに「俺は変わらなくちゃいけない」と考えたって(笑)。

発見する喜びがある

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ケンブリッジ・ロード / ラ・ルナ・デ・テ・ムナ・ピノ・ノワール 2013
ワインダイヤモンズのゼネラルマネージャー、尾崎 豊さんご持参。2013年と前年の12年にしかつくられなかった幻のワイン。ラ・ルナは、マーティンボローのテ・ムナ・ヴァレーにある、わずか1.6haの特別な単一畑。自生酵母による発酵。
希望小売価格:6,000円 / 輸入元:ワインダイヤモンズ

  • 尾崎
  • ニュージーランドはこれからですよ(といいながら、自分のもってきた「ケンブリッジ」を注ぐ)。
  • ラベルがない(笑)。
  • 山村
  • 自生酵母ですか?
  • 尾崎
  • 自然酵母の自然発酵で、亜硫酸の添加量も10mgだったかな。自然なつくりです。
  • 濱本
  • 美味いな、これ。
  • 尾崎
  • 場所はマーティンボローで、楠田浩之さん(注10)が借りていた畑の隣です。新世界の問題ってテロワール(注11)が確立していないことなんですよ。ナパ・ヴァレーくらいじゃないですか。バロッサだって、「え、それどこ?」でしょ。勉強熱心な人は置いといて、一般的にはそんなもんです。ニュージーランドなんて赤ちゃんですから。40年前にワインづくりが盛んになって、ソーヴィニョン・ブランに依存し続けて、いま、ピノ・ノワールだと。なかなか一気には変わらないし、変われない。ニュージーランドだって、最初のピノ・ノワールはスイス・クローンの10/5(注12)。これからなんです。でも、日本ほど世界中のワインが集まるジャンクションはないんじゃないですか。フラットに見て、味覚を研ぎ澄ませば、こうした楽しいワインが見つかるわけですよ。発見する喜びはもうフランスからはないでしょ。
  • 濱本
  • ブルゴーニュは大御所に限らず、すごく値段が上がっている。新世界のピノ・ノワールが入り込む余地はあると思います。ブルゴーニュと有名銘柄とアペラシオン(注13)だけ並べたワインリストは、店の自己満足でしかないでし、本当にお客さんのためになるのかな、と疑問ですね。
  • 山村
  • 私はブルゴーニュが好きでこの仕事を始めたので、カリフォルニアでもIPOBのようなスタイルのワインをおすすめするんですが、根っからのカリフォルニア・ワイン好きには売れない。

権威主義をぶっ飛ばせ!

最後に、濱本さんの「J. K. キャリアー」を開けましょう。

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J. K. キャリアー / ピノ・ノワール・ウィラメット・ヴァレー2008
ヴィレッジ・セラーズ北米ワイン・ブランドマネージャー、濱本正利さんご持参。J. K. キャリアーは99年、オレゴンのウィラメット・ヴァレーで創立されたカルト・ワイナリーで、この地域の著名栽培農家からブドウを購入。これは6つの単一畑のブレンド。
希望小売価格:6,500円 / 輸入元:ヴィレッジ・セラーズ

  • 08! これ、いま売ってるの?
  • 濱本
  • はい。入れたばっかりの頃はガッチガチで、こりゃダメだと思って、一旦リストから外したんですよ。去年あたりからカドがとれてきたので、また売り出しました。
  • 山村
  • いいですね。オレゴンの個性が出ていると思います。渋みやタンニンの厚みがブルゴーニュとはまた違う。
  • 濱本
  • そうそう。うちでオレゴンを扱い始めた当初、カリフォルニア・ワインを扱っている人たちを取り込もうとしたら売れない。同じアメリカのワインでしょ、といっても違うんだと。それでフランス・ワインを扱っている人たちにスイッチしたら、そっちのほうがうまくいきました。
  • 山村
  • 日本ではブルゴーニュやボルドーの市場のほうが圧倒的に大きいので、そこに食い込みたいですよね、私たちとしては。
  • 尾崎
  • ブルゴーニュばかり、ってね。
  • ほんとそうですね。日本はこれだけ食文化が多様なのに、もったいない。うちはタスマニアのマスタードも扱ってますけど、フランスのマイユより2倍も3倍も高いのに、品質を認めてフレンチのシェフたちが使ってくれるんです。でも、ワインはまだそこまでたどり着いていません。
  • 濱本
  • 僕は毎月、ブラインドでテイスティング会を開いてるけど、ブルゴーニュも新世界もかなりクロスオーバーしていいて、分けること自体意味がなくなってきてます。以前は新世界のピノ・ノワールというと、果実味が強い反面、酸味やタンニンのストラクチャーが弱くて、あまり熟成しないという説を唱える人がいました。でも、適切な栽培地を選び、つくりもマスターしたワイナリーのものはもうブルゴーニュにひけをとらない。そういったつくり手が確実に増えている。
  • 尾崎
  • 品質のわりにお値打ち、ではなくて、どの産地でも一律にワインの価値を認められる人が、今回僕らが持ってきたワインを正しく評価してくれると思う。そもそも新世界、ニュー・ワールドという言葉自体、権威主義が生み出したものじゃないですか。これだけよいピノ・ノワールが世界各地でできている。時間はかかるかもしれないけど、日本市場に風穴を開けたいですね。

この記事を書いた人

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不肖ヤマダヤスシ編集長
北海道札幌生まれの道産子。いつも目の前のことだけを考えている。いまこのときを切り抜ければ、人生はなんとかなる! 善人なをもて往生をとぐいはんや悪人をや。

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